安全運航を支えるDX

当社グループの「現場」が直面するさまざまな課題をデジタル技術や収集したデータ分析により解決し、新たな価値を創出する安全運航を支えるDXの取り組みを推進しています。
自ら創意工夫して行動を起こす現場の担当者と、当社グループの五つのラボ(株)MTI、(株)日本海洋科学、(株)NYK Business Systems、日本油化工業(株)、およびスタートアップ企業のSymphony Creative Solutions Pte. Ltd. がタッグを組み、社外パートナーと新たな価値を共創しています。

船舶パフォーマンスマネジメントシステム「SIMS」

当社では2008年からSIMS(Ship Information Management System)の導入により、毎時の詳細な運航状態や燃費に関するデータを船陸間でタイムリーに共有できるようになりました。
現在導入を進めている最新の第三世代SIMSではデータ送信間隔1分まで短縮されており、これまで以上に緻密なデータの取得が可能になりました。
2023年6月末時点では、当社グループ運航船のうち203隻にSIMSを搭載、内56隻が第三世代SIMSとなっています。
船舶情報の見える化はもちろんのこと、陸上サーバでのデータ分析による機関異常の早期発見を実現し、Remote Diagnostic Center(RDC)による遠隔監視体制を確立しています。
今後とも、本船乗組員と船主、運航担当者、船舶管理会社間の密な情報共有により、最適経済運航・省エネ運航を追求して参ります。

【船の現場】船陸間の船舶管理業務の共通プラットフォーム「NiBiKi」

当社グループは、船舶管理業務の共通プラットフォームである「NiBiKi(ニビキ)」システムを開発し、2018年12月に運用を開始しました。船員は安全管理マニュアルに基づき、安全管理に関する事項を船舶管理会社に対して報告する必要があります。さまざまな報告書や申請書を作成し、船舶管理会社に対して電子メールで承認依頼を行い、承認された書類を印刷し船上で保管するという業務フローがあり、多大な業務負荷がかかっていました。また、報告された内容は、各船・管理会社それぞれが管理し、内容そのものを分析するなどの活用が十分になされず、情報の透明性という点でも課題がありました。
こうした課題を踏まえて次世代のシステムとして開発したのが、NiBiKiシステムです。安全管理マニュアルの書式や申請・承認のワークフローを電子システム化し、船員はガイドに従って所定のフォームに入力するだけで、正確な報告・承認依頼を行うことができます。これらのアクションは責任者の名前とランク、タイムスタンプと共に記録され、改竄が出来ないことも特徴です。さらに、NiBiKiシステムに蓄積された情報を運航会社・船舶管理会社間で共有し、ビッグデータとして質の高い解析をすることによって、本来求めるべき安全活動につなげることが可能となります。今後は、船員の教育や訓練、船用品の発注・会計なども組み込み、より包括的なシステムの構築とデータのさらなる活用を計画し、当社グループ外にも提供可能な総合的な船舶管理会社向けシステムを開発していきます。

船舶管理業務における課題 NiKiBiの導入効果

【運航管理の現場】 Remote Diagnostic Center(RDC)の設立

Remote Diagnostic Center

デジタル船舶管理の一環として、2020年8月、フィリピンのNYK-Fil Maritime E-Training Inc.(船員研修所)内にRDCを設立。SIMS搭載船205隻(2023年9月末時点)を対象に機関プラントのモニタリングを陸上から行っています。異常検知システムが検出した機関データの乱れをRDCのExpertがマリンエンジニアとしての経験と知識に照らし合わせて分析、システムの誤検知を排除して本当に異常疑いのあるものを選別します。
Expertの分析結果は本船および管理会社に通知され、当社グループ運航船の重大事故撲滅と燃料節減に寄与していきます。

【建造の現場】環境に優しい船をつくる「高効率なプロペラ設計」

模型プロペラの水槽試験(左)と実船観測(右)

当社は(株)MTIおよび古野電気(株)と共同で、実海域における船舶周囲の水流を計測するセンサーを開発しました。収集した実海域データを日本シップヤード(株)と共有し、分析・活用しています。実船を再現したシミュレーションでさらなる高効率を追求したプロペラの設計により、CO2排出量を約2%削減できました。2020年に竣工した大型原油タンカーでも同様の計測を実施し、また後続の同型新造船において船尾付加物形状の改善を実施して、それぞれCO2排出量を約2%削減することに成功しました。今後も本研究を継続し他船種にも展開していく予定です。2050年に向け、船体抵抗を低減する船舶の設計にもこの実船シミュレーション技術を活用していきます。

自動運航技術の研究開発

安全運航や効率性向上、乗組員の労働負荷低減を実現するには、高度なシステム・インテグレーションが不可欠です。当社、(株)MTI(MTI)、(株)日本海洋科学(JMS)を中心に、海事産業を支えるグローバルなプレーヤーやシステム業界など他業種とのオープンコラボレーションによって、乗組員が高度な処理能力を持つシステムを活用する自律運航船の実現を目指しています。

無人運航船の取り組み—MEGURI2040への参画

当社グループは2020年3月より、(公財)日本財団が進める無人運航船プロジェクト「MEGURI2040」に参画しています。
具体的には、当社、(株)日本海洋科学および(株)MTIの当社グループ3社が30社を超える企業や組織と「DFFAS(Designing the Future of Full Autonomous Ship)コンソーシアム」を組み、「無人運航船の実証実験にかかる技術開発共同プログラム」にて無人運航システムを共同開発しました。2022年2月には商船では世界初となる輻輳(ふくそう)海域を含む沿岸長距離航海の実証実験を実施。東京港〜津松阪港の往復約790kmにおける航海を離岸操船・湾内航行・沿岸航行・着岸操船といった一連の航海を無人運航システムで成し遂げるという成果を達成しました。
さらに現在は、この後継プログラムである「無人運航船の社会実装に向けた技術開発助成プログラム」を実施する「DFFAS Plus(Designing the Future of Fully Autonomous Ships Plus)コンソーシアム」に参加。このプログラムでは無人運航船技術の2025年の本格的な実用化を、(公財)日本財団及び国内51社のコンソーシアムメンバーと共に目指します。

  • 船舶交通の非常に多い海域

海事産業のイノベーションを促進

安全かつ経済的で環境に優しい運航を実現させるためには、ビッグデータの基盤技術への投資や積極的な開発が欠かせません。当社グループは、船舶のIoTデータの安定的で効率的なプラットフォームの開発を進め、造船所や舶用機器メーカー、船級協会ほかさまざまなパートナーとデータを活用し、イノベーションの創出を目指した取り組みを推進しています。

船舶のサイバーリスク管理

船舶のサイバーリスク管理については、2017年6月の国際海事機関(IMO)の第98回海上安全委員会(MSC98)で「海事サイバーリスクマネジメントのガイドライン」が承認され、2021年1月以降は、船舶サイバーリスク管理の仕組みを導入することが推奨されています。IMOはこの対応を“強く推奨”としているものの、海運業界では「事実上の義務化」と受け止め、当社グループでも積極的に準備を進めてきました。

<準備対応の流れ>

  1. 12016年4月~2019年3月 (一財)日本船舶技術研究協会(JSTRA)の海事サイバーセキュリティ検討委員への参加と調査。並びに、SMSマニュアルにおけるサイバーリスクマネジメントの対応準備
  2. 22018年4月~2019年3月 アメリカ船級協会(ABS)の任意認証基準に基づく船舶や船員に対するリスクアセスメントの実施
  3. 32019年4月 船舶にサイバーセキュリティ対策の仕組みを導入するため、SMSマニュアルの内容改訂作業に着手
  4. 42019年12月 SMSマニュアルの改訂作業完了
  5. 52019年12月 当社グループ会社のNYK LNGシップマネージメント社が、(一財)海事協会(Class NK)からサイバーセキュリティマネジメントシステムの任意認証を取得(同協会第一号案件)。
    今後も認証取得を進めると同時に、船員へのトレーニングについても準備を進めています。
  • SMSマニュアル
    安全管理システムマニュアル。事故を予防するために乗組員がとるべき行動の手順等を記載しているマニュアル。

また、国際船級協会(IACS)は、船舶サイバーセキュリティに関する統一規則(UR E26およびE27)を2022年4月に発行し、2024年以降の新しい船舶に対してより強固なサイバーセキュリティ対応を船級規則として実施することが定められようとしています。
そのため、当社グループでは、ノルウェーの海事IT企業Dualog社と船舶向けサイバーセキュリティ対応システムの開発に関する共同プロジェクトを進めています。2022年9月から実船搭載を開始し、既存の陸上SOC(Security Operations Center)と連携し、網羅的な監視と早期対応組織の構築にも取り組んでいます。