大気汚染・地球温暖化防止
ビッグデータを活用し、最適経済運航“IBIS TWO Plusプロジェクト”を全社的に推進
当社グループでは、航海中の本船の航海・機関情報などのビッグデータを活用した安全・省エネ運航に取り組んでいます。
2012年度から最適経済運航「IBIS(Innovative Bunker & Idle-time Saving)プロジェクト」をコンテナ船で開始し、実航海で得られるデータ活用を含めた幅広い燃節活動を進めてきました。さらに、IBISで得た知見やノウハウを他船種へ展開すべく、それぞれの特性や条件に応じて減速運航の深度化をはかるIBIS-TWOプロジェクトを2013年度から始動。2019年度からはプロジェクト名を「IBIS TWO Plus」へ改め、2020年度からは燃節活動を通じてESGの"E"に貢献するべく、グループ会社の垣根を越えて最適経済運航を追求しています。
また、IBIS TWO Plusは船舶オペレーション関連業務の情報共有や、船舶オペレーターのスキル・ノウハウの伝承や教育についての当社グループ内でのプラットフォームの役割を担っています。
データ活用の基盤となっているのが、実航海の現場から生まれるビッグデータを収集し船陸間でデータを共有するSIMS(Ship Information Management System、船舶パフォーマンスマネジメントシステム)で、船舶のIoT推進に取り組んでいます。
各種データを表示してモニタリングするLiVEや船舶性能を解析するVPAS等のツールを開発することにより、ビッグデータを有効に活用しています(関連特許取得にも取り組んでいます)。その事例としては、就航コンテナ船の低速運航仕様への改良につき、実海域データを用いた検証を行い、一般財団法人日本海事協会による鑑定を受けたこと等が挙げられます。
今後も、船種ごとのニーズに合わせた運航管理のインフラとして、本システムの技術改良およびデータ解析技術の向上に努め、最適な航路計画の立案、機関故障の低減・防止による修繕費用の削減やロスタイムの減少、安全確実な貨物輸送の実現などに、その活用範囲を広げていきます。


エネルギー転換への取り組み【LNG燃料・LNG燃料供給事業・ゼロエミッション燃料】

気候変動への取り組みの関連ページをご参照ください。
プロペラの推進効率の向上【MT-FAST】

波や風の抵抗が少なくなれば少ないほど、省エネルギー運航が可能となります。そこで、少しでも省エネを実現しようと、船体に取り付けることで抵抗を軽減させる、さまざまな船体付加物が考え出されています。(株)MTIが常石造船(株)と共同開発した推進援助装置・MT-FASTもそのひとつです。航海中の水面下では、プロペラの回転から生まれる旋回流により、推進力が損なわれる現象が起きてしまいますが、船体に翼をつけることで、損失推進力の回収効果が実証され、約4~6%の省エネ効果が確認されました(特許取得済)。引き続き、回収効果の高い仕組みを研究しています。
その他省エネ機器・船型改良
省エネ運航にあわせた船舶の船型改良工事

(船型や運航条件に併せてバルバスバウの形を改造)
本船に採用された以下のシステムについて、特許を出願しています。
・LNG受入システム
・LNG気化システム
省エネ運航が一般的となってきているなか、建造時に想定されていた航行速度より低速域で航行する傾向にあります。当社グループではバルバスバウ※1の改造や船体付加物"MT-FAST"の設置などにより、就航済みの船舶を修繕ドックで低速運航仕様に改良しています。
2014年6月の改良工事実施後、半年間にわたり実航海データを取得しビッグデータの性能解析を行った結果、推定値を上回る23%ものCO2削減効果を確認しました。併せてエンジンの運転状態等、本船のコンディションの検証も併せて行い、この改良工事が安全運航に影響を及ぼさないことも確認しています。
今回、当社グループが短期間かつ効率的に運航条件に適した改造工事を検討する手法を確立した(特許取得済)ことで、今後当社グループの運航船舶に対して、この手法に基づく工事を進め、省エネ効果の向上を図っていきます。
- ※1バルバスバウ
本船の喫水線下の船首部分に取り付けられた、丸く突出したバルブ状の突起物。船が進む際、波を起こすことによって受ける抵抗を打ち消す効果がある。
「泡」で省エネ『空気潤滑システム』搭載船
空気潤滑システムとは船底に空気を送り込むことによって泡を発生させ、海水との摩擦抵抗を減らす省エネ技術です。当社グループでは2010年に「ブロア(送風機)方式」による空気潤滑システムをモジュール船※3「YAMATO」と「YAMATAI」に搭載し、世界で初めての恒久的な運用を実現させました。2012年には同じく世界初の「主機掃気バイパス方式」による空気潤滑システムを開発し(関連特許取得済)、当社石炭運搬船「SOYO」に搭載しました。効果としては、ブロア方式で平均約6%のCO2排出量削減が確認され、主機掃気バイパス方式では約4~8%のCO2排出量削減が期待されています。
また新たな船種への展開として2014年5月竣工の自動車専用船「ARIES LEADER」 への搭載が行われました。


なお、この空気潤滑システムは「2013年 日経地球環境技術賞」にて最優秀賞を受賞、「Lloyd's List Global Awards 2013」のファイナリストに選出されるなど、国内外で数多くの高い評価を受けています。
これまでの受賞歴は、下記関連リンクの「環境表彰」をご参照ください。
- ※3モジュール船
石油・ガス開発サイトや工場に設置されるプラントなどを数千トン規模のプレ・ハブ構造物に分割して、海上輸送およびロール・オン/オフ方式で積揚する特殊重量物輸送。
カリフォルニア州減速航海プログラムへの参加
当社は、米国カリフォルニア州ロングビーチ港港湾局が実施している減速航海プログラム「グリーンフラッグプログラム」に参加しています。
これらのプログラムは、船舶からの排気ガスを抑制する目的で、両港に入出港する船舶に対して、沿岸20マイル(約37キロメートル)若しくは40マイル(約74キロメートル)以内の海域において12ノット以下で航行することを推奨しています。
当社は、沿岸40マイル以内の海域において減速航行し、例年90%以上の高順守率を維持しています。
燃料の有効利用の促進【燃料油添加剤の活用】

分散補助物がなくなるとアスファルテンが凝集して沈殿します。
助燃剤には分散補助物の代わりになる成分が含まれており、アスファルテンの沈殿を防止します。
燃料油に添加剤を加えることで、さまざまな効果がもたらされます。エンジントラブルの防止、汚損、腐食防止、排ガス浄化の効果に加え、燃費節減に役立ちます。通常は燃料中にスラッジ成分※4が含まれており、分散していますが、安静下では、保存中にタンク底などに堆積していきます。添加剤を投入する事によりスラッジ成分の堆積を防止し、分散したままの状態とし、スラッジ成分を効果的にエンジンで燃焼することが出来るため、燃費が節減されます。当社グループ会社の日本油化工業(株)が製造する生成スラッジ抑制剤「ユニック555D」の効果検証では、1.5%以上の燃費改善がみられました。当社グループ運航船においては現在、スラッジ成分の多い硫黄分0.5%以上の燃料油使用船(SOxスクラバ搭載船)のほぼ全運航船での積極的な導入をしています。これにより、CO2排出や、煤塵を押さえることによって、大気汚染物質の削減に寄与しています。
- ※4スラッジ成分
油中に溶け込まない、半固体粒子のこと。析出するとどろどろのアスファルトのような液体(半固体)になる。
- 関連リンク:
燃料油添加剤開発を通じた環境規制への対応 日本油化工業(株)
2014年11月、日本油化工業(株)は低硫黄軽油※5用の燃料油添加剤「Yunic750LS-F」(特許取得済)を新開発しました。2015年以降、硫黄酸化物規制※6が一段と強化され、規制海域での低硫黄軽油の使用拡大が見込まれる中、本製品は一層大きな役割を果たすことが期待されています。本製品の特性としては次の3点が挙げられます。
- 1燃料油の潤滑性を向上させ、燃料油系機器のトラブル(異常摩擦やこう着)を防止
- 2規制海域外では使用されない為、長期保管されやすい低硫黄燃料油のカビ発生を防止
- 3潤滑性向上と防カビ対策の両機能を有するため、本船乗組員にとって取り扱いが容易
日本油化工業(株)を含む当社グループは、環境規制を遵守し環境保全のための研究開発に積極的に取り組んでいます。
- ※5軽油
燃料油は成分により分類され、船舶で使用されている燃料油には、C重油、A重油(Marine Diesel Oil)、軽油(Marine Gas Oil)などがある。その中でも軽油は最も品質が良い。 - ※6硫黄酸化物排出規制
船舶からの排気ガスに含まれる大気汚染物質の排出を削減するために、国際的な規制が設けられている。2015年1月1日より、欧州および北米などの大気汚染物質排出規制海域(ECA:Emission Control Area)における燃料油中の硫黄含有量の制限値が現在の1.0%から0.1%に引き下げられる。
また、当社と日本油化工業(株)は、硫黄分濃度規制(SOx規制)に対応する方策の一つとして、適合燃料油(硫黄分0.5%以下の燃料油)の性状を研究してきており、2019年5月にはスラッジ分散型燃料油添加剤「ユニック800VLS」を開発しました。「ユニック800VLS」は、適合燃料油の安定性不良において効果を発揮する一方、適合燃料油自体の性状、性質が多様化している現状を踏まえ、更なる汎用性と環境保全貢献の観点から2022年5月に「ユニック800Eco」を開発しました。
「ユニック800Eco」は、スラッジ分散効果をより高めるとともに、燃焼改善効果を加えることに成功しました。これまで国内外の適合油で3回実施した燃料消費削減試験において、添加剤不使用時と比較し、燃費は最大約1.2%の低減効果が得られ、また排気ガス成分は一酸化炭素(CO)等の削減効果が認められています。
当社と日本油化工業(株)は引き続きSOx規制を遵守するとともに、よりスラッジ分散効果と燃節効果の高い添加剤の開発に尽力し、船舶から排出される二酸化炭素(CO2)の削減にも貢献します。
船底付着物の除去による推進効率の改善

船体やプロペラに付着する海藻や貝殻などで推進抵抗が増し、燃料消費量の増加を招きます。船底には、付着を防ぐための塗料を塗布しますが、一定期間を過ぎると付着が始まってしまいます。定期的にダイバーにより海中の船体汚損状況や船底塗装状況を点検し、最適な時期にアンダー・ウォーター・クリーニング(UWC)で、海中で船底の付着物を除去したり、プロペラ研磨を実施しています。UWCにより約10%、プロペラ研磨で1~2%の燃料油消費改善がみられる他、生物多様性保全の観点でも環境に配慮した船体のメンテナンスに積極的に取り組んでいます。