人権への取り組み

基本的な考え方

当社グループは、国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」をもとに、「日本郵船グループ人権方針」を定めました。日本郵船グループは、国連の「国際人権章典」、「労働における基本的原則および権利に関するILO宣言」、賃金や労働時間など労働者の人権に関する諸条約、「OECD多国籍企業の行動指針」、「先住民族の権利に関する国際連合宣言」などの人権に関わる国際行動規範、国連グローバル・コンパクトの10原則を支持・尊重します。
当社グループがステークホルダーに対する人権尊重の責任を果たすため、当社グループのすべての役員と従業員に適用するとともに、当社グループの事業、製品、サービスに関係するすべての取引関係者などに対しても、本方針を遵守するよう働きかけていきます。
本方針は2022年11月24日の取締役会で承認を得て、策定・開示しています。

また、当社は2022年2月に開催されたリスク管理委員会(年2回開催。委員のうち4名は取締役)において、人権侵害リスクを新たに重要リスクに選定しました。リスク管理委員会は、社長を委員長、本部長とESG経営推進担当執行役員をメンバーとし、各本部からの報告を基に重要リスクを特定、重要リスクごとにリスク対応の推進役となる本部を決定し、グループ全体のリスク低減活動を推進しています。

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人権の尊重

当社は、事業活動に関係するすべての人の基本的人権を尊重し、多様な価値観や異文化を認め合い、尊重することを企業活動の基盤であると考え、全社員が日々の業務活動の中で指針とすべき「日本郵船株式会社 行動規準」の中に次のように人権の尊重を掲げています。

日本郵船株式会社 行動規準 第4章 人権、多様な文化の尊重(抜粋)

4-1 人権の尊重

人権を尊重し、日本郵船グループ人権方針を遵守します。

4-2 差別の禁止

人種、信条、宗教、性別、性的指向・性自認、国籍、年齢、出身、心身の障害、病気等の事由いかんを問わず差別をしません。

4-3 ハラスメントの禁止

人の尊厳を傷つけるような誹謗や中傷、ハラスメントとなるような行為を行いません。

4-4 各国・地域の文化等の尊重

各国・地域の文化、慣習、言語を尊重し、国際社会や地域社会の調和に心掛けます。

4-5 強制労働、児童労働の禁止

強制労働、児童労働等の非人道的な雇用は行いません。またそのような行為を行う企業とは取引をしません。

4-6 公正な人事・処遇制度の構築と運用

雇用、配置、賃金、研修、昇進等の取扱いについて、機会均等を図り、国際条約や、各国・地域の法令に定められた労働者の権利保護に留意し、労働協約その他の取り決めを守ります。

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また、当社グループはグローバルな事業活動を展開する上で、サプライチェーン全体での強制労働、児童労働、環境破壊行為などの世界的な社会問題に関し、「取引先に対するCSRガイドライン」を掲げ、お取引先のみなさまへのご理解とご協力をお願いしています。

取引先に対するCSRガイドライン Ⅲ 人権、多様な文化の尊重 (抜粋)

【人権の尊重、差別の禁止】

人権を尊重し、人種、信条、宗教、性別、性的指向・性自認、国籍、年齢、出身、心身の障害、病気、社会的身分等を理由とする差別を行わない。

【非人道的な扱いの禁止】

人の尊厳を傷つけるような行動(誹謗や中傷、ハラスメントなど)が行われないよう、一切の非人道的な扱いを禁止する。

【各国・地域の文化等の尊重】

各国・地域の文化、慣習、言語を尊重し、国際社会や地域社会との調和に心掛ける。

【強制労働、児童労働の禁止】

強制労働、児童労働等の非人道的な雇用の撲滅、適正な賃金支払の確保に努める。また、非人道的な雇用を行う企業とは取引をしない。

【労働者の基本的権利の尊重】

国際条約や各国・地域の法令に基づき定められた労働者の権利(団体交渉権や結社の自由を含む)を尊重する。

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推進体制

人権への取り組みをはじめとする、ESG経営の全社的な方針を決定するため、2023年4月よりESG経営推進委員会の後継となるESG戦略委員会を設置しています。ESG戦略委員会は2023年度より毎月開催し、ESG戦略担当役員であるESG戦略本部副本部長を委員長に各本部を代表する執行役員と外部有識者で構成されています。ESG戦略委員会ではESGに係る議題を討議し、その内容をESG戦略本部に報告、ESG戦略本部から経営会議、取締役会に提言する体制をとっています。 また、ESG戦略本部の下部組織の一つとして国連グローバル・コンパクト推進委員会※1を設置しており、そこで事前の討議を行った上でESG戦略本部へ提案を行う形としています。
この体制のもと、経営層のリーダーシップおよびコミットメントを基礎に、ESG戦略委員会およびESG経営グループやその他関連部署が連携しながら人権尊重の取り組みを推進しています。
2022年度は、当社の人権に対する取り組みの報告や人権方針策定を審議。具体的に実施した内容を共有した上で、今後も人権に対する着実な取り組みを進めることを確認しました。また、人権方針策定について経営会議および取締役会に提言。人権方針実行の責任者について議論し、承認されました。

さらに、当社の人権尊重の取り組みを強化するため、専門的知見を有する第三者機関(経済人コー円卓会議日本委員会、以下「CRT日本委員会」※2)からの助言を定期的に受けています。取り組みの各フェーズにおいて第三者による専門的知見を適用することで、取り組みにおける客観性と正当性の担保に努めています。人権尊重の取り組み実施へ向け、CRT日本委員会との定例ミーティングを月に二回程度開催しています。

人権推進体制図(2023年4月1日現在)

  1. ※1国連グローバル・コンパクト推進委員会
    2010年に設置されたグローバル・コンパクト推進委員会を2023年度より改組。当社および当社グループ会社における国連グローバル・コンパクトの推進とそれに基づく体制の整備を目的とし、3か月に一度の頻度で開催。グローバルを対象としたHRサーベイや人権デュー・ディリジェンスのプロセスなどを通じて、国連グローバル・コンパクトに反する恐れのある業務執行および事実等について調査し、事実を認定し、是正のために必要な措置を協議の上、決定する
  2. ※2経済人コー円卓会議日本委員会(CRT日本委員会)
    ビジネスを通じて社会をより自由かつ公正で透明なものとすることを目的としたグローバルネットワーク。ビジネスと人権の取り組み支援を行う
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人権に関する役員向けトレーニングの実施

人権の取り組みへのコミットメント、ビジネスと人権に対する理解の深化、取締役会のリーダーシップを目的として、役員向けに社内研修や外部講義の受講機会を提供しています。
2022年8月、CRT日本委員会事務局長石田寛氏を講師に迎え、社内外取締役、監査役および執行役員35名(社長を含む)を対象に「ビジネスと人権の理解」と題したオンライン研修を実施しました。本研修を通して、企業による人権対応の必要性および国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」に基づいた人権の取り組みを実施する重要性について、有識者の知見を得ました。

人権デュー・ディリジェンス

当社グループは、自らの事業活動(サプライチェーンを含む)が直接的または間接的に人権への負の影響を及ぼす可能性があることを理解し、国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」に詳述される手順に従い、人権デュー・ディリジェンスを行っています。具体的には、当社グループの事業活動による実際のまたは潜在的な人権に対する負の影響を特定・評価し、負の影響を防止または軽減するために実態を把握した上で、適切な手段を通じた是正を行います。その後、実効性の追跡評価を行い、その進捗ならびに結果について外部に開示するといった継続的なプロセスを実施しています。

人権デュー・ディリジェンス(顕著な人権課題の特定)

2022年、当社グループの人権デュー・ディリジェンスの推進にあたり、Verisk Maplecroft社(以下、「VM社」)の協力を得て、当社グループが事業およびサービスを通じて人権侵害を引き起こす、または加担する可能性のある人権リスクの把握を進めました。実施にあたっては、自動車物流業、外航海運業(船員)、船舶解体業(解体作業員)の3つの事業を対象とし、これらの事業を展開する国・地域を考慮の上、事業において特に懸念される人権リスクを評価しました。
さらに、VM社のリスク評価結果に対して当社グループの実態に即した意見を得るべく、2022年6月に5つの関連本部10グループの管理職を対象とした人権デュー・ディリジェンス(DD)ワークショップを、CRT日本委員会の協力を得て実施しました(26名参加)。ここでは、アセスメントの対象とした上記3つの事業以外に、当社のサプライチェーンに該当する造船業および港湾物流業も議論の対象としました。参加者は自身の経験・意見を共有しながら、バリューチェーンの各フェーズにおける実務上で懸念される人権リスクを自ら洗い出し、整理および分析しました。このワークショップでは、国内外における間接委託先における実態把握が十分ではないことなど、今後の人権リスクの管理に向けた懸念や課題も共有されました。また、日本国内に限らずグローバルに広がる自社のサプライチェーンに係る人権リスクに目を向けることの重要性も指摘されました。
これらのVM社リスク評価および人権DDワークショップを通じて、当社グループにとっての顕著な人権課題を特定しました。

顕著な人権課題の特定手順

今後、特定された顕著な人権課題に関する当社の取り組みを整理するとともに、この人権課題に対する理解をグループ会社および取引先と共有しながら実態の把握を進めていきます。また顕著な人権課題は、地政学リスクによっても変化しうることから、緊急性の高い人権課題や、新たな人権課題をいち早く認識することのできる仕組みの構築も進めていきます。

  • Verisk Maplecroft社
    グローバルリスク分析・リサーチ・戦略予測のリーディングカンパニー

人権デュー・ディリジェンス(人権マネジメント状況の確認)

特定した顕著な人権課題について、当社のマネジメント状況を確認する目的で、関係会社および部署に対するインタビューを進めています。

【自動車物流業(作業員)】

当社グループの人権リスクアセスメントでは、自動車物流事業における労働者就労環境が顕著な人権課題の一つとしてあげられました。2022年、インドにおいて手広く自動車物流事業を展開しているNYK India Private Limited(以下、NYK India社)の労働者(委託業者を通じての雇用を含む)を対象に、その人権尊重の状況を確認する目的でインタビューを実施しました。労働者へのインタビューについては、第三者であるCRT日本委員会のローカルパートナーがすべての労働者が理解できるヒンディー語で実施しました。

自動車物流事業では、労働者は幅広い業務に携わります。主には「Plant Compound Management」「Terminal Service」「Value-Added Services」「Inland Transportation」の4種に分類されますが、今回のインタビューでは、ムンバイとデリーにおいて「Plant Compound Management」に携わるドライバーと「Value-Added Services」に携わる車両清掃員の計25名の労働者(すべて男性)を対象とし、5名1組として、13の人権課題に関する設問について回答を得ました。

NYK India社が委託業者を通じて雇用する労働者(2,000名超)は全員男性です。州内出身者であることが多く、移民労働者に該当する者は多くはありません。委託業者を通じての雇用者に関しては、その募集および採用、契約書の締結、給料の支払いは委託業者に一任されます。一方で、NYK India社は、労働条件や労働者の給与体系を定め、労働者の労働時間を管理する他、労働者の労働安全衛生およびその研修の実施に責任を有します。

インタビューを通じて、委託業者と労働者間に雇用契約書が存在しないケースが存在していることや、一部の労働者は給与明細書の詳細を把握していないことが確認されました。この結果を受けてNYK India社は、2023年4月から委託業者に対して労働者との国内法に則ったAppointment Letterの締結を求め、9月時点で全拠点の労働者との締結を完了しています。また、全拠点において会社の制度についての説明会を実施済みです。

NYK India社には、Samvaad(ヒンディー語、「対話」を意味する)という労働者が声を上げることのできる独自の取り組み(苦情受付窓口)があります。各拠点のマネジメント層が定期的にSamvaadを開催し、委託業者を通じて雇用する者を含む労働者の声を受け付けています。これにより、労働者が感じている課題や会社への期待を把握し、働きやすい労働環境の整備につなげる狙いです。インタビューを通じて、このSamvaadがインタビュー対象者のすべてによく認知されている一方で、提起した要望への対応プロセスや対応状況が不透明であること、また労使間のコミュニケーション不足などに対する改善が期待されていることがわかりました。この結果を受けてNYK India社では、Samvaadの実効性の確保に努めるべく、全16拠点で受け付けた声の内容を一元管理し、その対応状況を提起者および会社のマネジメント層双方に明示するとともに、重要案件は日本郵船本社にも報告することとしました。2023年4月からその運用を開始し、2023年8月時点で提起された苦情の90%対応を完了しています。状況の見える化を進めるとともに、対応における実効性の向上を図ります。

NYK India社では引き続き、インタビューで確認された事項への対応を進めるとともに、第三者によるフォローアップ調査を通じて対応改善が労働者の実感につながっているかも把握する考えです。また、内容によっては顧客と共に是正策を検討、実行していく予定です。NYK India社は2023年上半期に、ESGへの強いコミットメントが顧客に認められ、顧客がサプライヤー・取引先を対象として開催するカンファレンスにて、コンプライアンスに関する賞を受賞しました。NYK India社が顧客とともに進める人権尊重の活動は、顧客の製品品質を保つことなどにも寄与できると考えています。

当社グループは2022年11月に「日本郵船グループ人権方針」を策定しました。NYK India社およびその取引先である委託業者や顧客に対しても「日本郵船グループ人権方針」に則った対応を求め、当社グループの業務に関わるすべての労働者(非正規労働者を含む)に対してこれが適用されるよう、取り組みを進めてまいります。

【外航海運業(船員)】

当社グループでは、船員の基本的権利や船上における労働安全衛生を定める国際条約MLC(Maritime Labour Convention, 2006)の要件を確実に遵守できるよう、要件を組み込んだ安全管理システム(SMS)による管理および当社独自のアセスメントによる船舶管理会社とその管理船におけるMLC遵守状況の確認を行い、船員の権利保護に努めています。
また、船員と人権の関わりは、募集・採用から始まり、船上勤務時、そして下船後まで続き、各フェーズにおいて取り組むべき課題があると認識しています。当社グループでは乗船前の倫理的な募集・採用活動および乗船中の労働安全衛生、プライバシーの権利、結社と団体交渉の自由、適正な労働時間、救済へのアクセス、職場における差別について権利侵害を防ぐ取り組みを行っています。また、下船後に関する取り組みとしてエンゲージメントを通じた船員定着率の維持および金融サービスへのアクセシビリティ向上を図っています。取り組みの詳細は以下をご覧ください。

【船舶解撤業(解撤作業員)】

船舶解撤には、高所での船体切断、廃船に残された水銀・鉛・アスベスト(石綿)などの有害な化学物質や残留した重油の取り扱い、切断したスクラップの運搬といった危険作業が伴います。当社は、当社および当社グループ会社が所有する船舶の解撤を実施する(間接)取引先における解撤作業員の死傷事故や健康被害、また危険物質の海洋流出やこれによる周辺住民への健康被害の発生などを防ぐべく、解撤ポリシーを設け、各種国際基準にのっとった責任あるシップリサイクルの推進に取り組んでいます。

船舶解撤における方針とマネジメント

  • 方針

    当社グループは、環境、労働安全衛生および人権に配慮した責任あるシップリサイクルを促進するべく、旗国や運航地域に関係なく当社および当社グループ会社が所有するすべての船舶について、国際海事機関(IMO)の「船舶の安全かつ環境的に健全なリサイクルのための香港条約(以下、シップリサイクル条約)※1」、欧州連合(EU)の「シップリサイクル規則」、国際労働機関(ILO)の関連規定にのっとった船舶解撤を行っています。

    特に、世界中の全ての船舶が条約の基準により適切に解撤されることが自社のみならず船舶業界全体にとって重要であるという考えから、シップリサイクル条約をシップリサイクルに関わる全てのステークホルダーにおけるスタンダードとして定着させるべく、引き続き、世界の船舶解撤場(以下、ヤード)におけるシップリサイクル条約適合を促していく考えです。また、船舶には良質な鉄が大量に使用されており、中大型船においてはその9割以上が建築資材、再生素材や中古品として再資源化されています。この貴重な再生可能資源を適切に処理することが循環経済実現のためには重要であり、今後、この循環経済実現における当社グループの役割を考えていきます。

    当社は解撤ポリシーを策定し、環境、労働安全衛生および人権に配慮した船舶解体を行っています。

    関連リンク:
  • マネジメント
    • 安全なヤードの選定

      シップリサイクル条約に基づくClassNKのStatement of Compliance※2を取得し、かつ、当社が設ける基準を満たしたヤード(これを「NYK認証ヤード」と呼ぶ)で船舶解撤を行うことを条件に、入札によりキャッシュバイヤー※3を選定しています。

    • リスク情報の開示

      シップリサイクル条約にのっとり、対象の全船において、船舶に存在する有害物質などの概算量と場所を記載した一覧表であるインベントリ(IHM)の作成および配備を進めています。

    • 「解撤売船契約書」において当社独自の監督条項を用意

      キャッシュバイヤーの選定後、当社とキャッシュバイヤー間で締結する「解撤売船契約書」は、当社が独自に作成したものであり、ここには、当社グループの船舶管理会社であるNYK SHIPMANAGEMENT PTE LTD(以下、NYKSM)より派遣する現場監督者がヤードに立ち入り現場監督を行う権利を含めています※4

    • 現場監督者による安全・人権および環境要件の遵守の確認

      「解撤売船契約書」の締結後、船舶がキャッシュバイヤーからヤード運営会社に引き渡されて解撤作業が開始されると同時に、NYKSMによるヤードへの立ち入りおよび現場での監督業務を開始しています。NYKSMの現場監督者は、毎日現場で危険事項のないことを確認し、危険事項があればこれをヤード運営会社へ報告するとともに、一定期間内に改善するよう提案します。また、監督者は日報を通じて当社へ状況を報告します。なお、ヤード運営会社はスクラップ(解体された有価物)をスクラップバイヤーに売却し、資材は最終的にリサイクル・リユースされます。

エンゲージメント

当社は、シップリサイクルの透明性を高める情報開示プラットフォームであるShip Recycling Transparency Initiativeに加盟しています。本プラットフォームを活用し、当社の取り組みについて情報開示を行うとともに、他社が開示している取り組みを踏まえて当社の解撤レベルの向上に取り組んでいます。

人権デュー・ディリジェンス

2022年にはアラン(インド)にて船舶2隻を、2023年6月にはチッタゴン(バングラデシュ)にて船舶1隻を解撤しました。当社の船舶解撤における人権DDの取り組みは以下の通りです。

  • インド

    2022年4月、アランでの船舶解撤に合わせて、NYKSMの経営層および現場監督者の計6名に対して、ヤードで働く解撤作業員の労働安全の確保や人権尊重に向けたマネジメントについてヒアリングを実施しました。ヒアリングを通じて、NYKSMの担当者が解撤ヤードを日々見回り、その労働安全衛生についてモニタリングを実施していることを確認しました。なお、ヤード関係者や実際のライツホルダー※5である解撤作業員へのインタビューは、次回解撤時の課題として残りました。

  • バングラデシュ

    2023年5月、チッタゴンでの船舶解撤に合わせて、PHP Ship Breaking and Recycling Industries Ltd.(以下、PHP社)が運営する船舶解撤場 PHP Ship Recycling Facility(以下、PHP SRF)を訪問し、PHP社の経営層、当社グループ会社のNYKバルク・プロジェクト(株)が所有する重量物船「KAMO」の解撤作業に従事する解撤作業員のうち35名、およびNYKSMからPHP SRFに派遣した現場監督者に対してインタビューを行いました。解撤作業員に対するインタビューは正規雇用者(18名、平均月収は28,706tk※6、識字率は89%)と非正規雇用者(17名、平均月収は21,418tk、識字率は53%)の両方を対象とし、CRT日本委員会のローカルパートナーによってすべての労働者が理解できるベンガル語を用いて実施しました。

    バングラデシュでは国内法によって船舶解撤業をハイリスク産業に指定し、船舶解撤業における18歳未満と女性の労働を禁じています。今回のインタビュー対象となった労働者の年齢は27~60歳ですべて男性であり、PHP社は雇用にあたって、バングラデシュ選挙管理委員会が18歳以上の市民に対して発行するNational Identity Cardを確認した上で18歳以上の労働者のみを雇用していることから、PHPヤードで児童労働が行われていないことを確認しました。また当社では、生活賃金を上回る適正な賃金の支払いについても重視しており、PHP社においては第三者であるCRT日本委員会が現地の生活賃金額として参照※7した19,255tkを上回る報酬が労働者に支払われ、インタビュー対象の労働者全員がその金額に満足していることがわかりました。さらに、PHP社では苦情に関する方針が規定されており、PHP SRFの労働者のみならず取引先や取引先の労働者、近隣の地域コミュニティも利用できます。苦情はPHP SRF内に設置されている目安箱から記名または匿名で提起することが可能であり、PHP SRFの労働者の多くは目安箱以外にも3名の労働者代表を通じて、または、経営層に対して直接意見を述べられることを認識していることをインタビューによって確認しました。

    今回の訪問により、PHP社は国際的に認められた人権基準に準拠した人権方針を策定および運用し、労働者の人権尊重に積極的に取り組んでいることがわかりました。一方で、炎天下の作業に携わる労働者にとって快適な安全保護具の提供や休憩場所などの整備については改善が期待される点があることがわかりました。また、非識字者に対しては口頭での説明が行われているものの、雇用契約やPHP社の定める各種方針・規定などの内容を十分に理解できていない可能性があることから、非識字者への教育の提供による状況改善が望まれます。これらを含む改善が期待される点について、当社はPHP社に対してフィードバックを行いました。これを受けてPHP社では、労働者向けの教育センターである「Sromik Shikkha Kendro※8」を設置し、現地NGOであるYoung Power in Social Action(以下、YPSA)との間で運営に関する覚書を締結しました。YPSAは23年8月より運営を開始し、9月にはNYKSM地元代表の立ち会いのもとで開所式が行われました。11月に開始されたキックオフプログラムでは、初回には25人、2回目には27人の労働者が参加しました。また、労働者への安全かつ快適な個人保護具の提供や快適な休憩場所等の設備を行いました。一部に代替が難しい個人保護具については、引き続き、国際基準への準拠(安全性)と快適性の両方を満たす個人保護具の国内での入手可能性が検討されます。当社では今後もPHP社と連携して解撤作業員の人権尊重に努めていきます。

    開所式(2023年9月19日)
    初回の様子(2023年11月6日)
    通常研修の様子(2023年11月15日)
    通常研修の様子(2023年11月15日)

    当社グループでは、「日本郵船グループ人権方針」[PDF:581KB]を船舶解撤に適用する仕組みの構築を進めています。例えば、取引先の選定時に「日本郵船グループ人権方針」にのっとった人権方針の策定を求める、取引条件として「現場監督の受け入れ」の他に解撤作業員へのインタビュー実施の受け入れを求める、現場監督の監督事項を人権面において強化するなどの取り組みが考えられます。当社グループが所有する船舶が解撤されるいかなるヤードにおいても人権尊重が実現されるよう、グループ会社とともに構築していきます。

取引先からのメッセージ|Message from our supplier
ムハンマド ザヒル イスラム|Mohammed Zahirul Islam
PHP Ship Breaking and Recycling Industries Ltd 社 代表

日本郵船は、日本企業として初めて、バングラデシュのPHP SRFにおいて船舶解撤を実施しました。同社は日本郵船グループ人権方針に沿って、当社の船舶解撤における環境・社会へのコミットメントを確認しています。その上で、常駐のスタッフを派遣し、現地での人権インパクトアセスメントを通じて私たちの環境・社会への取り組みの実態を評価することで、当社のカイゼンプロセスを支援してくれました。私たちPHP SRFは、2017年にバングラデシュで初めてシップリサイクル条約適合認証を取得し、バングラデシュ国内における責任ある船舶解撤の基準を向上させるべく不断の努力を重ねています。当社は引き続き、日本郵船の協業パートナーとして、同社の人権尊重の取り組みを支持し、選ばれるサプライヤーとなるべく当社の対応力の強化に努めるとともに、持続可能なシップリサイクルを実現させるChange Makerとなることを世界で目指していきます。

  1. ※1船舶の解体時の労働安全確保と環境保全を目的として、2009年5月に国際海事機関で採択された条約。
    発効には①15ヶ国以上の批准、②締結国の商船船腹量の合計が40%以上、③締結国の直近10年における最大年間解体船腹量の合計が締結国の商船船腹量の3%以上、が必要条件とされており、6月26日のバングラデシュの批准を以て2025年6月26日の発効が決定した。2023年11月末時点で日本、インド、バングラデッシュなどを含む23か国が批准している。
  2. ※2Statement of Compliance:船舶や海洋関連施設が特定の規格や基準に適合していることを証明する文書
  3. ※3キャッシュバイヤー:船主から船舶を現金で買い取り、船舶解撤場に売却する会社
  4. ※4NYKSMの主な役割は監督・監理者としての現場監督であり、NYKSMと解撤作業員との間に契約関係はないため、NYKSMは解撤作業員に対して作業指示・命令を行う立場にはない
  5. ※5ライツホルダー:権利(人権)の保有者という意味で、企業活動から影響を受ける可能性のあるグループやステークホルダーを指す
  6. ※6tk=バングラデシュタカ
  7. ※7

    参照先:Global Living Wage Coalition,

  8. ※8Sromik Shikkha Kendro:「労働者教育センター」を意味するベンガル語

人権に関する教育啓発

当社グループは、人権方針に沿った活動推進を実現する目的で、人権に関する教育啓発を行っています。

役員および従業員への教育啓発

2022年度 人権に関する意識調査結果(対象7541人)
NYKグループの人権に関する基本的な考え方を理解していますか?

当社グループは、人権尊重意識を浸透させ、当社グループの事業とサプライチェーンにおける人権リスクおよび当社グループの人権に関する原則や関連規則を伝える目的で、グループ会社を含む全ての役員および従業員を対象としたeラーニングや新入社員研修、海外赴任者・新任チーム長・海外現地法人新任社長向けの集合研修において人権研修を実施しています。
当社グループは、人権研修(eラーニング)を毎年3か国語(日本語、英語、中国語)で実施しています。当社グループ事業が人権に与えうる影響についての従業員の理解の深化を図るとともに、当社グループの人権尊重へのコミットメントを周知しています。2022年度は、NYKグループ従業員計7,541名(受講率96%)が受講しました。これによる、意識調査の結果は右記の通りです。

その他、当社では、毎年4月および10月に実施する新入社員研修の場で、人権尊重の重要性および日々の業務で意識すべき人権リスクについて説明しています。2022年度は、当社グループの新入社員(新卒採用者およびキャリア採用者)115名に対して、研修を実施しました。
さらに、海外赴任者、新任チーム長および海外現地法人新任社長向けの集合研修の場で、人権尊重に対する取り組みの実例を交えながらビジネスと人権に関する最新動向や国内外の人権課題について説明しています。
加えて、社内の人権尊重の啓発を目的に、毎年12月の人権週間には、社内掲示板を通して人権問題についての啓発を行っています。2022年度は、「ハラスメント」、「アンコンシャスバイアス」を主なテーマに啓発を行いました。

取引関係者およびグループ会社への教育啓発

当社グループは、サプライチェーン全体を通じて、国連「ビジネスと人権に関する指導原則」に則った人権尊重の取り組みを実践していくために、委託先や取引関係者に対して「取引先に対するCSRガイドライン」等の各種方針を共有し、その遵守を要請しています。
また、国内外のグループ会社を対象とした人事労務・人材育成に関する定例調査「HRサーベイ」を毎年実施し、国連グローバルコンパクトの人権および労働に関する原則の順守状況(原則1~6)などについて確認しています。2021年度は143社(全143社)を対象に実施(回答率100%)しました。(2022年度分は2023年4月に集計完了予定)

社外のネットワークへの加盟や勉強会への参加

当社は、社外のネットワークへの加盟や勉強会への参加を通じて、ビジネスと人権に関するグローバルな潮流や先進事例等の最新情報を収集し、当社内の教育および人権尊重の取り組み推進に活用しています。
当社は、2012年よりCRT日本委員会の主催するステークホルダーエンゲージメントプログラム(人権デューディリジェンスワークショップ)に参加しています。本プログラムでは、NGO/NPOおよび有識者から国内外で注目される人権課題を中心に幅広い提起を受け、参加企業間で重要な人権課題および人権に配慮した事業活動の重要性に向けた議論を行うとともに業界毎に重要な人権課題の特定および整理をしています。

さらに、当社は、三菱グループ各社で構成する「三菱人権啓発連絡会」に加盟しています。勉強会への参加を通じて、人権尊重の取り組みや最新の動向に関して情報共有しています。
また、グローバル・コンパクトネットワークジャパンが主催する人権に関する分科会へ参加し、参加企業の人権担当者と人権問題についての勉強会や意見交換会、講演会へ参加しています。

苦情処理メカニズム

当社では、当社グループの全従業員が使用できる複数の窓口を設置し、権利侵害の可能性のある相談に迅速に対応しています。
当社では、「郵船しゃべり場」「ハラスメント方針・相談窓口」「内部通報窓口」「育児介護相談窓口」を設置しています。さらに、相談受付担当部署への直接相談や社外弁護士へ匿名で直接相談することもできる体制を整えています。これらを通じて、内部通報だけでなく、職場で従業員が抱える人権や差別、ハラスメントに関わるあらゆる問題など、さまざまな通報・相談を希望に応じて記名または匿名で受け付け、問題の早期発見、解決、是正を図っています。2019年度には新たに「LGBT相談窓口」を設置し、LGBTの方や関係者が職場で働くにあたっての悩みや困りごとを相談できる体制を整えました。
相談や苦情は提起された内容に関連する部署に通知され、公正性をもって調査されるとともに、社内手続きに基づき是正措置が講じられます。
これらの相談窓口について、社内ポータルサイトや研修を通じて従業員に対して周知を図っています。人権週間には当社掲示板での紹介も行っています。
また、相談に際しては、相談者およびその関係者の秘密を厳守し、不正な目的による場合又は不適当な方法による場合を除き、報告や相談をしたことによって会社より不利益な処遇がなされないことを保証しています。
さらに、当社ウェブサイトの「お問い合わせフォーム」を通じて、当社グループのサービスに関するお問い合わせだけではなく、人権に係る懸念や相談を取引先(従業員含む)、地域社会およびお客様等あらゆるステークホルダーから受け付けています。お問い合わせに際しては、相談者のプライバシーを保護し、適切な機密性を確保しています。

LGBT/SOGIへの取り組み

近年、企業の人権への取り組みや多様性受容の重要性が増す中、当社ではLGBT/SOGIの施策を推進しています。
外部講師を招き、当社人事担当役員と人事関係者向けにLGBT研修を実施、また新入社員向けにはLGBTをテーマに「ダイバーシティ&インクルージョン研修」を実施しています。LGBT/SOGIの基礎知識の習得、当事者体験談やグループワークを通じ、従業員一人ひとりが意見交換を通じて互いの価値観を共有し、新たな気付きを得るなど多様性と受容の重要性を改めて認識する貴重な機会となっています。その他、グループ会社を含む全社員へのeラーニングを通じた啓発活動や、「LGBT相談窓口」の設置、グループ従業員を対象とした無記名アンケート調査、LGBT有識者を招いての講演会などを行い、LGBT/SOGIへの理解促進を図っています。

LGBT当事者団体(株)JobRainbowによる研修風景
VR体験の様子

2023年LGBT/SOGIに関する意識調査結果

当社を含め、国内グループ会社で働く従業員を対象にLGBT/SOGIに関する無記名の意識調査を実施しました。
LGBT/SOGIの理解度を確認し、「就業環境での問題や懸念事項」、「具体的な研修実施や勉強の機会の要望」等を調査しました。
調査結果を踏まえ、今後も一人一人が多様性を重んじながら、様々な人材が活躍できる職場環境づくりに取り組みます。

     
LGBTという言葉を知っていますか?
SOGIという言葉を知っていますか?
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社外との協働

当社は、社外のパートナーとの協働を通じて、人権の啓発に取り組んでいます。

(株)JobRainbow主催の「レインボーコミュニケーションバッジ(RCB)プロジェクト」に賛同

当社は、D&Iの更なる推進を図るため、主にLGBT就活支援・研修・コンサルティング事業を展開している(株)JobRainbow主催の「レインボーコミュニケーションバッジ(RCB)プロジェクト」に賛同しました。
このプロジェクトは、差別や偏見のない、多様性を認め合う社会を目指し、JobRainbow社が販売するレインボーバッジを賛同企業が購入、社員が着用することで、多様なお客様・取引先、また従業員同士が安心できるコミュニケーションの意識付けや実現を目的としています。当社では通年着用できるよう、当社ビル内の社員食堂や喫茶室、また執務フロア(人事グループ付近)にバッジを常時備えつけています。

レインボーコミュニケーションバッジ(RCB)2023プロジェクト概要

アジア最大級の“性”と“生”の多様性を祝福する祭典『東京レインボープライド』に合わせ、(株)JobRainbowが主催しているプロジェクトです。バッジ着用の奨励期間は2023年度は4月22日(土)~5月21日(日)までです。

「JobRainbow MAGAZINE」

当社のレインボーコミュニケーション宣言も掲載されました。

(公社)アムネスティ・インターナショナルとの協働活動

日本郵船歴史博物館で世界人権宣言パネル展を開催

日本郵船歴史博物館では、(公社)アムネスティ・インターナショナル日本との連携により、パネル展「見て分かる世界人権宣言」を2020年1月18日から2月16日まで開催しました。展示したパネルは、世界人権宣言全30条を谷川俊太郎氏の訳による分かりやすい日本語と、世界中のイラストレーターや絵本作家が描いたイラストで解説したものです。また、期間中は難民の人たちが、どのような状況に直面し、どのように国を逃れ、避難後どのような生活をしているのかをVR(バーチャルリアリティー)を使って体験するイベントも開催されました。

また、当社は人権週間に合わせ、2019年11月から12月にかけて来客スペースで世界人権宣言のパネルデジタルスライドショーを投影しました。社員には、社内掲示板を通して当社の人権に関する取り組みを紹介するとともに、スライドショーの周知を行い、人権問題に対する啓発を行いました。

(公社)アムネスティ・インターナショナル日本主催の映画祭へ協賛

当社は2019年8月17日に(公社)アムネスティ・インターナショナル日本が主催する映画上映会「海は燃えている~イタリア最南端の小さな島」に協賛しました。本作品は難民問題を扱い、命がけで国を逃げる難民と、難民たちの玄関口である島の人たちの平和な日常を対比し、間近にある難民の死と人々の日常とが切り離されている現実を突きつける作品となっています。わが国でも人権問題への関心が少しでも高まるきっかけになればと考え、映画祭へ協賛しました。