トップコミットメント

ESG経営元年である2021年度、覚悟を持って意識改革に取り組みさらなる飛躍の年へ

「失われた10年」は「啓蟄けいちつ※の10年」に

この10年、ドライバルク市況の高騰に沸いた2008年を境に、エネルギー輸送事業や自動車輸送事業など、好調に推移した事業もありましたが、定期船事業や航空貨物輸送事業、ドライバルク事業は需要に対して供給圧力が強く、収益を上げにくいという課題に悩まされてきました。また、自動車輸送事業における独占禁止法違反や、航空貨物輸送事業における安全面での不備など、企業としてのコンプライアンスへの姿勢が問われる事態もあり、当社グループは国内外でさまざまな課題に直面していました。そうした課題や反省に真摯に向き合いながら、グループ社員全員があらゆる手を尽くし、一つひとつ成果を積み上げてきました。一時1,000円近い水準だった当社株価は、2021年6月末時点で6,000円を狙う水準まで回復し、今やその収益性に期待していただけるようになったと感じています。この10年は「失われた10年」ではなく、飛躍へのきっかけをグループ一丸となって掴んだ「啓蟄の10年」だったと言えます。また、新型コロナウイルス感染症拡大により、海・陸・空それぞれの現場で世界のライフラインや産業を支えるという社会的使命と、「物流を止めない」という覚悟を持って輸送に携わる従業員の安全と健康の確保がいかに重要か、改めて認識することになりました。2020年度の過去最高益という結果とコロナ禍で得た経験とともに、次の飛躍に向けた準備をまさに言葉通りに整えることができたことをお伝えします。

  • 啓蟄:地中で冬ごもりをしていた生き物が春の訪れで地上にはい出て動き出すころ

社内に統合思考を。ESG経営は第二段階へ

2021年2月、当社グループは「NYKグループESGストーリー」を発表しました。ESGストーリーは、中期経営計画のように具体的な戦略や目標を定めたものではなく、将来のありたい姿を思い描き、当社グループが向かうべき方向性を示すものです。これまで「経済性」が中心になりがちだった判断基準に、「ESG」のモノサシも加えることで、未来の社会からも選ばれ続ける“Sustainable Solution Provider”になりたい。私は、海運・物流業界で最も先進的なESG経営を推進することによって、お客さまに自分たちのサプライチェーンに組み込まなければ競争力を高めることができない、と思ってもらえるような企業グループにしたい。選ばれる存在である限り、事業機会は増え、成長戦略や差別化戦略もさらに洗練され、そして利益を継続的に生み出すことができるはずです。当社グループには技術本部をはじめ、ESG起点の新しい価値創造を推し進めるリソースがいくつもあります。国内外の有力なパートナーと手を組んでそのリソースを最大限活用し、DX(デジタルトランスフォーメーション)と技術を融合することで、必ず結果は出ると信じています。各現場、各事業体はこのESGストーリーを軸に、ESGに資する施策をより具体的に検討・実施してもらいます。これまで洋上風力関連事業やMarCoPayなど、さまざまな新規事業が本格的にスタートしたほか、自動車輸送本部のように、ESGブランド「Sail GREEN」プロジェクトを立ち上げ、LNG燃料大型自動車専用船「SAKURA LEADER」を軸に、環境に優しい総合物流サービスをバリューチェーンとして大々的に売り出しました。輸送に係る環境負荷について定量的に可視化し、CO2排出量をどのくらい削減できているかお客さまと共有することが可能で、高く評価していただいています。さらに、E(環境)、S(社会)、G(ガバナンス)を個別に考えるのではなく、相互に影響し合うものだと捉えることも大切です。例えば、コロナ禍で直面した船員交代という課題に対し、S(社会)を強く意識することで、乗組員に必要以上に無理をさせないという風土が生まれます。現場のモチベーションの維持・向上につながりますが、その結果として安全が担保され、海洋環境に甚大な影響を及ぼす事故を未然に防ぐなど、E(環境)にも寄与することになります。G(ガバナンス)についても、常に「ESG」のモノサシを持って自分たちの行動や判断を行うようになれば、コンプライアンス違反の抑止になり、従業員をはじめとするステークホルダーからの信頼につながるというS(社会)にも寄与します。こう考えると、ESG経営とは意識改革そのものだと言えるのかもしれません。例えば各事業部から投資案件説明がある際、以前であれば採算性重視だったのが、CO2排出量削減をはじめとして、ESG視点が必ず入るようになりました。当社グループのESG経営は、ESGストーリー策定までを第一段階とすれば、ここからは経済性とESGの統合思考を次々と形にしていく第二段階へと移行しました。世界中のグループ社員がそれぞれの立場でESGをしっかりと理解し、具体的な行動で示してもらう。この積み重ねによって、当社グループの至るところで素晴らしい成果が生み出され、最終的には真に豊かで生きるに値する、持続可能な社会・環境へとつながると思います。

覚悟を持ってESG経営を加速する

社内の意識改革は現場だけにとどまりません。経営層の議論もより中長期的な視点を意識した内容へと変わりつつあります。体制も、2021年4月に私をトップとするESG経営推進委員会を設置し、ESG経営の実効性をより高めました。目下、ESG経営を加速するKPIの設定について議論を進め、2021年度中にその概要を取りまとめる予定です。また、私の考えるESG経営は実効性を高めるKPIを定めて終わりではありません。現在のESG経営の取り組みの先に、長期的なシナリオから逆算して次期中期経営計画の策定を目指しており、こうすることで、ビジョン(長期)、中期経営計画(中期)、事業方針(短期)すべての時間軸にESG経営がしっかりと組み込まれることになります。最新の技術動向やTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)が示す提言などを参考にしながら、30年後の事業環境を見据え、いくつかのシナリオを想定しながら、当社グループの在り姿を議論し、そのうえで2022年度には次の中期経営計画原案策定に取り組んでもらうつもりです。2050年にカーボンニュートラルやゼロエミッションを達成するためには、既存船の環境対応やLNG燃料船の投入だけでは間に合わず、アンモニアや水素を燃料とする船舶の開発など、相当なイノベーションが不可欠です。排出量取引制度などカーボンプライシングへの知見もこれまで以上に深めていかなくてはなりません。また、LNG燃料船は既存船よりも船価が高く、自らが最大限に努力してコストの抑制を図ることはもとより、増加したコストの一部負担についてお客さまにご理解いただく努力も必要です。お客さまをはじめとするステークホルダーから理解が得られるよう、たゆまぬ努力や丁寧な対話を重視しつつ、ESG経営のフロントランナーとして道を切り拓いていく覚悟です。

最後に

2008年以降の海運バブル崩壊の影響が長引く中、2019年6月の社長就任時以降、私はできる限り早くサステナブルな事業体へと変わるべく、ドライバルク輸送事業の構造改革、ガバナンスの再構築、財務基盤の徹底強化の3つの課題に注力してきました。ESG経営が徐々に進む中であっても、これらの課題に対し、手綱を緩めるつもりは全くありません。また、ESG経営の達成には、ダイバーシティ&インクルージョンの観点は不可欠です。これからの人材に多様な視点や価値観を持ってもらうため、難しい仕事や現場をもっと経験してもらうべく、人事制度の改革についても動き出しました。国籍や性別にかかわらず、国内外グループ各社の多様な人材がグローバルなフィールドで成長し、誰もが自分らしくその能力を最大限発揮できる組織でありたいと思います。冒頭で私は準備が整ったとお伝えしました。本格的なESG経営に向けた準備運動を終え、2021年度が正式なスタート、ESG経営元年と捉えています。これまでに培ってきた強みや成果を解き放ち、“Bringing value to life.”という基本理念の下、ESGで圧倒的な存在感を持つ企業グループへ進化を続ける当社グループにこれからもどうぞご期待ください。引き続き、ご支援のほどよろしくお願い申し上げます。

2021年11月

代表取締役社長・社長執行役員
長澤 仁志