PROJECT STORY 01

〜カタールLNGプロジェクト〜

チームワークが、総トン数11万のメガ・シップと、
契約期間25年のビッグ・プロジェクトを動かす。

21世紀のクリーンエネルギー、
天然ガス

埋蔵量が豊富で、広く世界に分布していること。二酸化炭素、窒素酸化物、硫黄酸化物の排出量が、石炭や原油に比べ少ないこと。これによって、天然ガスは歴史的に見ると、北米・ヨーロッパを中心に、陸上を走るパイプラインを通じて供給されてきた。

LNG(液化天然ガス)の海上輸送は
日本がリードしてきた

1969年、アラスカからの輸入を皮切りに、LNGの消費は拡大し、今や日本は世界最大のLNG輸入国となっている。それは同時に日本の外航海運業が、LNGの海上輸送というビジネスモデルの発展、及びそのために必要な技術やスキルの開発を牽引してきたことを意味する。

増加する貿易量、拡大する
日本郵船のビジネスチャンス

LNG は現在、環境に優しいクリーンエネルギーとして世界中で需要が高まっており、貿易量も増大している。安全運航が何よりも最優先となるLNG輸送では、その品質を高めつつ、いかにコストを圧縮するかがビジネスとしての課題だ。日本郵船では、船舶管理を第三者に委託することなく分社化することで、コスト構造の見える化を実施。質の向上と同時にコストの圧縮にも目を配るなど、自前で世界トップクラスの安全性とコスト競争力を追求している。

ここでは、まさに今、世界が注目するLNG輸送の現場で活躍する社員たちの姿をのぞいてみよう。

カタールLNGプロジェクト、インサイド・レポート

東京・丸の内、日本郵船本社のとある会議室。通称「カタール(※1)会議」と呼ばれるランチミーティングが開かれている。
「カタール会議」は「LNG(※2)船の運航に携わる社員は、担当業務に関わらず情報を共有するべきだ」という趣旨で始まったミーティングである。

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  • 染谷 光男
    染谷 光男
    Mitsuo SOMEYA
    LNG第二チーム
    現在 Ocean Network Express(Europe)
    Ltd. London
    陸上職事務系 2007年キャリア入社

    営業として内村とタッグを組み、互いにサポートし合いながらともにカタールプロジェクトに取り組む。プロジェクトに関するコスト管理の全て、傭船者との交渉を担う他、カタール以外にもインドなどの案件を担当。安全に安定して運航できるよう小徳、倉地とも日々連携を取る。

  • 小徳 義之
    小徳 義之
    Yoshiyuki KOTOKU
    NYK LNGシップマネージメント社(※3)出向
    現在 海上勤務中
    海上職/船長 1989年入社

    海上職としての乗船経験を経て、現在は陸上勤務中。LNG船の安全運航を目標に船舶管理を行うマリンマネージャー(海務担当課長)であり、カタールプロジェクト海技マターの中心的人物。

  • 倉地 大雄
    倉地 大雄
    Daiyu KURACHI
    NYK LNGシップマネージメント社(※3)出向
    現在 (株)MTI
    陸上職技術系 2003年入社

    TSI(※6)として、カタールプロジェクトを中心に入渠準備から完了までの業務を担当する、船舶がドック中は造船所に常駐し、工事の監督や傭船者への対応を行う。年に2〜3か月はドック監督のために海外出張に出ているが、工期やコスト等収支に直結する為、営業との連携は欠かさない。

  • 内村 秀弘
    内村 秀弘
    Shuko UCHIMURA
    LNG第二チーム
    現在 グループ経営推進グループ
    陸上職事務系 2006年キャリア入社

    営業担当として、染谷とともに傭船者との交渉や効率的な運航、安定収益、コストダウンに向けた取り組みを行う。職域の違うメンバーが揃う中、チームワークを重視し、関係者との情報共有を欠かさない。カタールの他、マレーシア、中国等の案件を担当。

それぞれの立場から安全運航、安定収益に取り組む

染谷
それでは、今週のカタール会議をはじめましょう。全員で集まるのは久しぶりですね。
小徳
3週間ぶりかな。それぞれ海外出張も多かったしね。
倉地
私もドック視察を終え、昨日シンガポールより帰国したばかりです。日本は現地より暑いですね。
内村
この暑さで、ガス需要が急増しており、本船スケジュールがタイトになっているので安全運航よろしくお願いします。

もちろん、電力会社やガス会社は、豊富な過去のデータに基づいて、消費量の予測を行っている。それでも、季節要因等様々な要素でガス需要は変動する。膨大な投資により立ち上がったLNG供給網とその流れを絶つことの無いよう、顧客要望に柔軟に対応しつつ、最も重要である安全運航を確保しなければならない。

染谷
本船Broogのドック状況ですが、進捗どうでしょうか?ドック費用についても適宜傭船者と交渉していきますので、状況教えていただけますか?
倉地
現在、現地にいるSI(※4)から聞いている限り、日本からの交換部品の到着が若干遅れていますが、なんとか予定通りDockOutできる見込みです。
内村
延びるとなると傭船者の年間LNG輸送プランに影響を与えますし、予定数量の輸送が困難になりますね。当社と直接お付き合いのある日本のLNGバイヤーにもご迷惑をおかけすることにもなりかねません。当社にとっても毎日多額の傭船料収入を損失してしまう可能性も出てきますので、引き続きよろしくお願いします。

LNG船(※5)の運航に携わる者たちには、安定供給を確保するためのチームワークを自覚的に構築することが求められる。たわいのない雑談で終始する場合もある「カタール会議」だが、そこにはLNG船の安全で安定した運航を実現するための明確な目的があることを参加者全員が熟知しているのである。

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倉地
私が小徳さんと染谷さんに相談することといえば、TSI(※6)という職務柄、大体がコストの話になってしまいます。LNG船の入渠工事(※7)は費用がきわめて高額な上に船齢も10年を超え、各部の修繕費も増加してきていますが、今のところ突発的な工事もなく予算内に収まりそうです。今後も皆さんと良く相談して、費用の面でも配船の面でも、カタールプロジェクト(※8)全体へのインパク卜をなるべく小さくするように努めます。
小徳
本船のシップマネジメントを預かる身としては、OPEX(※9)の管理とか、営業を通じてお客様の意向を運航にできるだけ反映させるとか、常に気を遣っているのですよ。

費用という言葉が出てくることで、日本郵船にとってはLNG輸送は単なる社会貢献活動ではないということを思い出させる。確かに我が国の経済と社会にとってLNGの輸送は重要な意味を持つ。だが忘れてならないのは、LNG輸送は日本郵船の事業、それも経営の根幹を成す事業の一つであること。
カタールプロジェクトは25年間にわたって、一定の傭船料が確保されている。つまり収益性を向上させるには、コストダウンが有効な手段となるのだ。だからこそ「カタール会議」のメンバーは、安全な運航に心血を注ぎつつも、無駄なコストの削減にも執念を燃やすのである。

チームワークが巨船を快走させる

カタールプロジェクトに投入された10隻のLNG船の第10番船、AI Jasra (アル・ジャスラ)は、総トン数111,168トン、全長297.5m、全幅45.75m。この巨大な船に乗り組むのは船長以下約30名。しかしその30名だけでLNGの輸送ができるわけではない。日本郵船が提供するサービスに対価を支払うカタール液化ガス社、同社との接点に立つ様々な担当業務を担う社員が、見事なチームワークで、遥か中東から日本までの航路を見守っている。

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綿密な情報共有とコミュニケーションがトラブルを回避し、
新たなビジネスチャンスを生む

染谷
最近、ソマリア沖アデン湾やホルムズ海峡での海賊出没や、一般商船への襲撃のニュースが多発していますが、我々のカタール船への安全対策はうまく機能していますでしょうか?
小徳
今のところ問題は起きていませんが、他船襲撃の例を見るに、対象海域の迂回ルート航行と、場合によっては昼間限定の航行が必要になってきますね。
内村
迂回ルート、昼間限定航行となると、予定よりも多くの燃費と時間を要することになりますね。営業サイドより傭船者に対して許可を得るべく交渉します。何かあれば、傭船者自身にとってもデメリッ卜が多いでしょうから、納得してもらえるはずです。
小徳
分かりました。お願いします。ところで、NYKシップマネジメントシンガポールより船員費値上げの要求が来ており、近々現地と電話会議を行い、詳細をヒアリングする予定です。市場に対し妥当なレベルなのであれば優秀な船員確保のためにも必要なことだと考えているのですが、いかがでしょう。
染谷
おっしゃるとおりです。OPEXは船員費含め単に削減すればよいという類のものではなく、船の安全、安定的運航のため、適正レベルでコストをかける必要があることは私たち営業も重々承知しています。
内村
ところで、他外国船社が投入しているカタールプロジェクト船が、多数フジャイラ沖で停船しているという情報がありますが、何かご存知でしょうか?
小徳
気になるところですね。実際現場でどうなのか生の情報を、カタール各船の船長へ可能な範囲で収集してもらうようお願いしてみましょう。
染谷
よろしくお願いします。カタールは世界最大のガス輸出国ですから、カタールの動向を知ることは世界のガス需給、LNG船需給を知る上で大きな要素となります。
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染谷
カタールは米国向け需要を期待していたわけですが、同国でLNGの代替となり得るシェールガス(※10)の開発により思惑が外れたような形になっており、その分の販売先探しに躍起になっています。彼らの狙う先にはLNG需要があり、すなわち輸送需要があるということになりますね。我々は、ガスの売り手、買い手両方共にアプローチをして、彼等のかゆいところに手が届くような輸送サービスを売り込まないといけないですね。
内村
Upstreamでの動きをいち早く知ることが新規輸送のチャンスにつながるため、Supplyサイドに投資しているMajor系ガス会社をはじめとした各社とのTOP外交を含めた継続的なお付き合いも重要です。また陸上LNG生産施設、液化施設(プラン卜)の建設Engineering会社との付き合いも新規ビジネスの情報を追いかける中では欠かせませんし、やることは色々ありますね。
倉地
新規市場で何が求められるのか気になるところです。引き続き、担当職務や地域に縛られること無く、些細なことでも幅広く情報共有させてください。

「LNGチェーン(※11)」という言葉がある。人がつながるにはコミュニケーションによる信頼関係が必要不可欠。だからこそLNG輸送に携わる人間同士に職種を越えたチームワークが生まれるのは、必要でもあり、また必然でもあるのだ。
今LNGの需要は、中国、インド、韓国、台湾といったアジアの国々でも、欧州や北米・南米でも増大しつつある。それに伴ってLNG輸送のマーケットも新たな成長の時期を迎えようとしている。当然、成長市場を目指して新たなプレーヤーが登場し、新たなビジネスチャンスが生まれている。それをいかに日本郵船の事業に取り込むか。こうした次世代の課題に挑戦する際にも、カタールプロジェクトで培われたチームワークは、必ず力を発揮するであろう。

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Dictionary

※1 カタール

ベルシャ湾に突き出た半島国家。首都はドーハ。面積はほぼ秋田県と同じ。人口は160万人だが、カタール本国人は30万人。主要輸出品は石油、天然ガス、石油化学製品。

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※2 LNG

Liquefied Natural Gas(液化天然ガス)を略してLNG。主成分メタンは、約摂氏マイナス162度まで冷却すると液化する。液化すると容積が600分の1になって、海上輸送で大量に運べる状態になる。天然ガスが排出するCO2は石炭の55%ほど。LNGは液化の前工程で硫黄分を除去するので、よりクリーンなエネルギーとなる。このように環境負荷が低い優れたエネルギー資源でありながら、石油のようには普及していない。理由は輸送の難しさ。ヨーロッパや米国では、パイプラインによる輸送が発達しているが、日本はパイプラインで輸送できる距離にガス田がなく、採算的に困難だった。脚注5も参照。

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※3 NYK LNGシップマネージメント社

日本郵船のグループ会社の一つでLNG船に特化した船舶管理会社。船舶を外航海運で使用するためには、国際条約や船籍国・寄港地などの定める法令や規則に則り、船舶の運航に必要な場所に必要な能力を有する乗組員を配置し(配乗)、必要な船用品・予備部品・潤滑油などを供給し、保険会社と損害保険契約を締結する(付保)、といった様々な手配を行わなければならない。航海に就いた後も、乗組員の交替者の派遣、機器類の調整整備、部品の交換、消耗品の補充、修繕、修理のためのドック入り(入渠工事)、法定検査の受検、証書類の更新、といったハード・ソフト両面で船舶の堪航性(船舶が航海できる状態)を維持していく必要がある。これらの業務を総称して船舶管理業務と呼ぶ。

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※4 SI

Superintendentの略。船体管理、運航管理、資産管理、コスト管理など多岐にわたる船舶管理業務を行う監督者。

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※5 LNG船

LNG船は液化天然ガスの輸送専用の船。LNGには船貨として以下のような特徴がある。①脚注2で述べたように、約摂氏マイナス162度に冷却された結果、本船上及び陸上の貯蔵タンク内では常に沸騰状態。②本船上及び陸上の貯蔵タンクは、防熱剤により外部からの熱の侵入を防いでいるが完全ではない。LNGは沸騰状態で常に気化している。
③タンクやパイプから漏れたLNGは、常温では瞬時にガス化する。ガスは拡散しやすく可燃性である。上記のようなLNGの特徴に対応してLNG船は、独特の構造・設備を備えている。本船上のタンクやパイプラインなど、LNGと接触する部分には耐超低温材料を使用。LNG積載時と空荷時との温度差による材料の伸縮にも推進機関の燃料として再利用。ほとんどのLNG船が、蒸気タービンエンジンを搭載しているのはこのため。

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※6 TSI

"Technical Superintendent"の略。入渠監督として、入渠工事前の修繕計画策定〜入渠工事中の現場監督、入渠工事後の造船所との価格交渉までの一連の業務を担当する。LNG船は危険物を輸送する船舶のため、運航中に実施できる修繕工事は非常に限定的であり、修繕工事全体における入渠工事の比重が高い。また、LNG船は特殊・特注品的な部材・部品・機器を使用しているため、建造費が高額で、そのため修繕工事費用もかさむ。入渠工事費も例外ではなく、1隻1回あたり2〜10億円にも達する。このようにTSIは入渠工事の、品質とコストとスケジュールに責任を負う仕事であり、工学系出身者にとっては大きなやりがいが得られる職務である。

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※7 入渠工事

船をドック(船渠)に入れて工事すること。各船舶は5年に2回造船所で受検、整備及び修繕工事を実施するよう法律で定められている。

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※8 カタールプロジェクト

売主をカタール液化ガス社、買主を日本の電力・ガス会社8社とするLNG売買契約の実施にともない、日本郵船など邦船4社がLNG船10隻を保有するコンソーシアムを組成、保有するLNG船をカタール液化ガス社が傭船し、LNGを積地のラスファファン(カタール)からアラビア海、インド洋、マラッカ海峡、南シナ海を経由し、揚地の日本まで年間600万トンのLNGを輸送するプロジェクトのこと。日本郵船は10隻のうち4隻の船船管理を行っている。契約期間は1996年から25年問。このプロジェクトにより日本郵船は、わが国へのエネルギー資源の供給という社会貢献を果たすとともに、長期にわたって安定した収益源(傭船料)を確保することになる。

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※9 OPEX

"Operating Expense"の略。一般的には事業などを運営していくために継続して必要となる費用のこと。船舶管理の場合は、船舶を運航可能な状態に保つために必要な保険料、乗組員の給与、諸手当、修繕費、消耗品費などを指す。

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※10 シェールガス

泥岩に含まれる天然ガスで、特に固く薄片状にはがれやすい性質をもつシェール(頁岩)に含まれることからシェールガスと呼ばれる。米国では膨大な量が埋蔵されていたが採掘が難しく、放置されていた。数年前に硬い地層からガスを取り出す技術が確立されたことで、開発が一気に進んだ。

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※11 LNGチェーン

LNGは火力発電や都市ガスなどに用いられるが、実際に海を越えて消費地で利用されるためには、ガス田の探査、開発、採掘、液化、輸送、再気化といったそれぞれの役割の長大な連鎖が不可欠である。これをLNGチェーンと呼ぶ。LNGチェーンを構築するには長い時間(ガス田探査、採掘、生産設備の建設、液化基地の建設、LNG船の建設などには、設計期間も含め最低5年が必要とされている)と膨大な投資(新規プロジェクトの立ち上げには国内基地を除いても数千億円が必要とされる)が必要であり、また投資を回収するまでにも長い時間がかかる。しかもチェーンの各部分は完璧に連携していなければならず、ー箇所でも役割を十分に果たせなければ、チェーン全体が機能不全に陥ってしまう。したがってLNGチェーンに参加するためには、巨額の資金を調達できる信用力と、財務的な体力、それに高い技術力の全てを備えていなければならず、参入障壁は極めて高いとされている。

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PROJECT STORY 01

〜カタールLNGプロジェクト〜

PROJECT STORY 02

〜海洋事業への挑戦〜

PROJECT STORY 03

〜グローバル自動車物流〜