FUTURE #03

[ 海運におけるデータ活用 ]


船乗りの“現場”目線で、船舶IoT技術を半歩先へ

FUTURE #01

[ NYK SUPER ECO SHIP 2050 ]

コンセプトシップに示された実現すべき未来

FUTURE #02

[ グリーンボンド ]

海運業界世界初の
グリーンボンド起債に挑む

Outline of the Project

世界中の海を巡り貨物を輸送する日本郵船。700隻を超える運航船一隻一隻の船舶ビッグデータを活用できれば、より安全かつ効率的で、環境に優しい航海を実現できるのでは…
2008年、そんな思いで始まった船舶IoTプロジェクトは、日本郵船の掲げるDigitalization & Greenを実現する上で大きな鍵となるプロジェクトである。今回は、船舶IoT技術の更なる進化の為、陸上オフィスで奮闘するひとりの若き船乗りを追った。

Member

TANAKA TASUKU

海務グループビッグデータ活用チーム
2013年入社

STORY 01

自社養成制度で船乗りに、
そして船舶IoT技術の最先端へ

日本郵船では、2008年から業界に先駆けて船舶IoT技術の開発に取り組んできた。鍵となるシステムは“SIMS”(Ship Information Management System)と“LiVE” (Latest information for Vessel Efficiency)だ。船からのデータ収集をSIMSが担い、LiVEがそれを可視化する。

「船には航行状況や機関プラントの状態を把握するためのさまざまなセンサーが搭載されています。それらのセンサーで収集されたあらゆるデータを陸上へ送信するシステムがSIMSです。送信されたデータはLiVEと呼ばれるアプリケーションによって見える化され、最適運航やトラブルの早期発見などに活用されています」

そう語るのは2019年6月からビッグデータ活用チームに加わった田中翼だ。田中は法学部出身ながら「自社養成コース」で海上職社員となった船乗りである。これまで機関士として多くのLNG船やコンテナ船と航海を共にし、2019年6月に新たに配属されたのが海務グループビッグデータ活用チームだった。

しかし生粋の船乗りが、なぜ船舶IoTプロジェクトに抜擢されたのか…

STORY 02

求められたのは「現場」の感覚

田中が配属される以前から、SIMS及びLiVEは事故防止に一定の成果を上げていた。

例えば、ある船がインド洋を航行していた際、LiVEをチェックしていた担当者がメインエンジンに発生・進行していた異常を察知して本船に連絡し、重大事故を未然に防いだ事例があった。船を監視する目を船上だけでなく、陸上にも増やすことで、異常にいち早く気づくことができたケースだ。しかしそれではまだ足りないと田中は言う。

「このチームでの私の役割は、異常自動検知システムの開発を見据え、SIMSやLiVEのシステムに海上職としての“現場”感覚を吹き込むことです。」

一体どういうことか。

異常自動検知システムでは、膨大な船舶ビッグデータを24時間365日間モニタリングし続けることで、人間より早く異常の兆候を察知することができる。ただ、異常検知の難点は何をもって異常とするかという判断基準の置き方にあり、“異常な状態”が常に決まっているわけではない。航海中、航海士や機関士はメインエンジンや機関部の温度・圧力・稼働状況などのデータを随時チェックし、海況や船のクセなどを総合的に判断して船の状態を把握している。わずかな圧力の上昇でも要注意のケースもあれば、その前後の航行状況から異常には当たらないケースもある。

「そうした現場の目線を開発に活かし、より航海士や機関士に近い感覚で判断できるシステムを構築することが重要なのです。異常自動検知システムの導入で船乗りの負担を減らし、より早期にトラブルの種を発見していくことで安全性・効率性を更に高めていくことができると考えています。」

STORY 03

船舶IoT技術の進化が企業価値を高める

日本郵船が航海ビッグデータを活用した船舶IoTプロジェクトを進める理由について、田中はこう語る。

「ハードウェアとしての船舶の質は均質化しています。こうした市場環境において、いかに差別化を図り質の高いサービスを提供するか。そのための新しい方法のひとつが船舶IoTプロジェクトなのです」

2018年のNYK運航船における総遅延時間のうち、29%近くはトラブルによる遅延が占めていた。この遅延時間を船舶IoT技術によって削減できれば安全運航とともに経済運航を実現でき、環境への負荷も軽減できる。

「船舶の状態を常時正確に把握できるようになれば、メンテナンスも従来の期間基準保全(Time Based Maintenance)ではなく、状態に応じた適切な保守を行う状態基準保全(Condition Based Maintenance)に移行することも可能です。船舶IoT技術の更なる進化は、Digitalization & Greenの実現を目指す日本郵船の企業価値を高めていく切り札のひとつでもあるのです。」