FUTURE #02

[ グリーンボンド ]


海運業界世界初のグリーンボンド起債に挑む

FUTURE #01

[ NYK SUPER ECO SHIP 2050 ]

コンセプトシップに示された実現すべき未来

FUTURE #03

[ 海運におけるデータ活用 ]

船乗りの“現場”目線で、
船舶IoT技術を半歩先へ

Outline of the Project

世界単一市場の中、莫大な金額が動く海運ビジネス。日本郵船が担う事業の中にも、1社の資金力では実現が難しく、業界を超えた連携があって初めて実現できる事業は数多ある。Digitalization & Greenを通し持続可能な社会を実現する上でも、投資家や金融機関と長期的な協力体制を築いていくことは不可欠であり、これから紹介する当社社員、白根が牽引するグリーンボンドプロジェクトは、まさに業界の最先端を行く試みと言える。グリーンボンドとは、調達資金の使途を環境改善効果のある事業に限定して発行される債券である。全世界的にESG投資への機運が高まる中、日本郵船は、2018年5月、外航海運業界としては世界初となるグリーンボンドを起債。その先進的な取り組みは内外の注目を集め、環境省主催のジャパン・グリーンボンド・アワードにおいても、環境大臣賞に選ばれている。

Member

SHIRANE YUICHI

財務グループ 統轄チーム(現在:LNGグループ オーストラリア駐在)
2005年入社

STORY 01

目指すは外航海運業界世界初

一般的に、財務部門は資金調達を通して事業を支える縁の下の力持ちであり、営業部門のような目立つ売上成果はなく、技術部門のように新技術開発で世間を騒がせることもない。ところが、その財務が一躍世界の注目を浴びた事例がある。

きっかけは2018年1月の社長のある言葉だった。

「これから日本郵船のキーワードとなるのはDigitalizationとGreenだ。」

社をあげてグリーンビジネスを推進していくという強いトップメッセージを受け取った財務グループ統轄チームの白根佑一は、すぐにグリーンボンド起債が頭に浮かんだという。

「グリーンボンドについては以前からスタディしており、関心もありました。トップメッセージを受けて、グリーンボンドが当社の経営方針に沿った資金調達手法となると確信し、すぐに具体的な起債に向けて準備を進めました。」

グリーンボンド起債にはさまざまなメリットがある。ひとつは資金調達先の拡大。環境意識の高まりを背景に、ESGを強く意識する、これまでとは異なる投資者層と接点を持つことができる。また起債によって、企業としての環境への取り組みを国内外幅広いステークホルダーに知ってもらえるとういう発信効果も期待できる。そして―。

「世界の海運会社でグリーンボンドを発行した会社がまだなかったため、当社が第一号となることで海運業界全体の牽引役となり、存在感をアピールできると考えました。世界初、が重要だったのです。」

STORY 02

いきなりの試練。
評価機関から突き返された回答

しかし、その思惑は最初から躓いた。グリーンボンドを起債するには、第三者の評価機関によるグリーンボンドの評価(second party opinion)を取得することが必要だが、それが想定以上に高いハードルだった。

「調達資金の使途で予定していたLNG燃料船・LNG燃料供給船開発事業について、投資家はもっとグリーン度が高いものを求めている、という理由により複数の機関から評価を断られてしまいした。これにはほんと、参りました。」

 落ち込む白根を救ったのは、上司の一言だった。「実現したら世界初なんだろう?だったら迷うことはないじゃないか」。それで肩の力が抜けた。

「チームでやれることは何でもやってやろうと。社内の各部門に協力を仰いで、資金使途の環境効果を示すデータを揃えつつ、証券会社と打ち合わせを重ね、環境省の『モデル発行事例』にも応募しました。成功させることを前提に、評価機関以外の課題を前に進めたのです」

 嬉しかったのは、財務のこの挑戦に、社内外の誰もがきわめて協力的だったことだ。環境、工務、営業、IRなどの社内部門はもちろん、証券会社や環境省もさまざまなアドバイスを送ってくれた。そして、ようやく話を聞いてくれる評価機関を見つけるに至る。

「大型の外航船舶の燃料として現時点ではLNGがベストであること、またLNG燃料が当社のゴールではなく、長期的な目標を達成するために必要な中間ステップである点を説明し、評価に値することを納得してもらうことができました。」

STORY 03

グリーンファイナンスの牽引役に

2018年5月、外航海運会社として世界初のグリーンボンドが起債された。発行額100億円の5年債。利率0.29%。投資家の評価は、いくつもの評価機関から断られた経緯があったとは思えないほど高かった。その注目度は白根が当初予想した以上に大きく、連日のようにマスコミ取材やセミナー講演依頼が舞い込んだ。白根も、起債の検討から実行までのプロセスを主導した立場から、グリーンファイナンスセミナーやフォーラムにも時間が許す限り登壇し、情報発信に努めた。

「起債を通して当社の企業姿勢を広くアピールする、という狙いは十二分に達成できたと思います。また財務としても新たな投資家との接点を広げ、調達先の拡大にもつながりました。」

時代の半歩先を読み、社内外の協力を獲得しながら、前人未到のプロジェクトを達成した白根。しかし、彼の目は既にその先を見据えている。

「今後は今回の起債ノウハウを、海運業界全体のグリーンファイナンス推進のために役立てていきたい。その一環として、Climate Bonds Initiativeという国際NGOが主催する、国際海運のグリーンボンド世界基準策定のワーキンググループにも加入しました。そこでも意見発信をして基準策定に貢献していきたいと考えています」

 海運業界世界初のグリーンボンド起債。日本郵船は更なるDigitalization & Greenの前進、日本郵船の目指す未来の実現に向け、今確かな一歩を踏み出した。