グループの総力で創る、電気推進タグボートに挑む若き技術者たち(後編)
公開日:2026年06月17日
更新日:2026年06月17日

日本郵船グループが総力を挙げて取り組む電気推進タグボートの建造プロジェクト。コンセプト設計や基本設計、詳細設計を経て、いよいよ建造のフェーズへ踏み出しました。さまざまなチャレンジを乗り越えながら、新たな船の誕生に向けて着実な歩みを進めています。前編に続き、このプロジェクトに携わる技術者たちの声をお届けします。
チャレンジはあらゆるフェーズに
――まったく新しいタグボートを開発・設計・建造するプロジェクトですので、苦労もあったのではないでしょうか。
前田:船型から運用設計まで、タグボートの仕様をイチから創り上げることは、当社にとって初めての取り組みだったので、まずは、タグボートの運航の理解から始めました。全国各地の運航会社を訪問し、実際の作業内容や運用方法を学びながら設計に反映していきました。また、詳細設計の過程で、深く踏み込んだ電気推進技術の理解に苦労がありましたが、日本郵船グループのアンテナをフル活用しつつ、造船所、メーカーの皆さんの協力を得ながら、進めてこられました。
日本郵船 技術開発グループ プロジェクトエンジニアリングチーム 前田晃佑
小大塚: この一年は、日本郵船 技術開発グループでは私と前田さんの2名で本プロジェクトを担ってきました。非常に少ない人数で本船の開発・設計やプロジェクトマネジメントなどの全方位に対応してきたので苦労する部分もありましたが、京浜ドックや内海曳船、関係メーカーの皆さんと密に連携して取り組んでいます。
日本郵船 技術開発グループ プロジェクトエンジニアリングチーム 小大塚直樹
竹田:完全に新規の船型ということもあり、建造現場からも、造りやすさなどを念頭に、多くのフィードバックを得ています。船の材料が入ってきてから設計を手直しすると、手間も手戻りも大きくなるため、その前に必要な修正をできるように検討を重ねました。「こういうふうに変えたらどうか」「ここはこうしないと難しい」といったやり取りは現在進行形で続いており、一つずつ乗り越えていっています。
京浜ドック株式会社 追浜工場 設計部設計課 竹田博文
矢野:機関室の機器配置などを一般配置図(船のレイアウトを決める基本図)であらかた決めた後も、「本当に機器類が収まるのか」を再検証しました。
京浜ドック株式会社 追浜工場 設計部設計課 矢野太郎
竹田:速力を出すために、船の幅を絞った船型にしたことも、機器配置に大きく影響しました。また、今回のタグボートは船舶の入出港時に伴走できるエスコート資格(大型船の進路及び側方警戒、並びに本船火災等緊急時の消防業務を担うための性能基準)を持つ船になるのですが、そのためには速力や消防能力に関する細かな規定を満たす必要があります。そこが機器配置や船体形状に大きく関わりました。
矢野:通常は、一度決まった配置を大きく変えることはあまりありませんが、造船所としてのノウハウを総動員して見直しを進めました。
舞台は船造りの現場へ
――開発・設計の段階を終えて、2026年5月から実際の建造に入っています。京浜ドックの追浜工場(神奈川県横須賀市)がその舞台となります。日本郵船から前田さんが常駐するそうですね。
矢野:小大塚さんや前田さんとは、これまでも定期的な会議でよく顔を合わせていますが、このプロジェクトに対する思いの強さを感じます。単にハードとしての船を完成させるためだけでなく、日本の海事産業全体を巻き込んで“かっこいい船”を創るという感覚を持っている方々だと感じています。設計フェーズから建造に向けたタイミングで、前田さんが京浜ドックに駐在することになったので、さらにいろいろなお話ができると思います。
竹田:現場に来ていただけるようになると、その場ですぐ会話できることが大きな強みになります。これまでであればメールでやり取りしていたことも、対面で話せるようになりますしね。困ったときにすぐ知恵を借りられるのは非常に心強いです。
小大塚:開発や設計のフェーズでこれまで議論してきた内容が実際に形になっていく過程を現場で見られること、一緒に船を作り上げていくことはとても楽しみです。京浜ドックはこれまでも電気モーターとディーゼル機関を組み合わせたハイブリッド推進方式のタグボート「翼(つばさ)」やLNG燃料船で後にアンモニア燃料船に改造された「魁(さきがけ)」といった最先端のタグボートを建造してきた実績があります。建造段階においても様々な課題が現れてくるとは思いますが、京浜ドックの豊富な経験とその底力には大いに期待しています。
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“誰も見たことのない船”を創る
――技術者として、今回のような新規性のあるプロジェクトに携わるやりがいをどのように感じていますか。
矢野:今回のような特殊なプロジェクトに携われること自体が、大きなやりがいです。京浜ドックは決して大きな造船所ではないので、1隻の船に対していろいろな範囲で関わることができるのは魅力です。さらに、今回のプロジェクトは、本来ならもっと大手の造船所が手がけるようなものかもしれませんが、当社が日本郵船グループであることで参加することができ、非常に面白いです。
竹田:今まで誰も見たことがない船を創り上げられるところが、こうした新規プロジェクトの醍醐味ですね。
前田:単に要望を出すだけではなく、「こうあるべき」という仕様を自分たちで整理し、それを関係者と合意形成していくプロセスは非常に難しいものでもありますが、一方でやりがいのある部分だと感じています。造船所やメーカーの方々と幾度となく打ち合わせを重ね、これまで以上に船主として深く入り込んで議論することで、見えていなかった造船所側、メーカー側の苦労も理解できるようになってきました。理想を掲げるだけでは成立しませんので、日々の細かなやり取りや意思決定の積み重ねが重要であることも、このプロジェクトを通じて改めて感じました。
小大塚:技術者としては、従来の船主工務の業務よりもさらに一歩踏み込み、設計の細部まで関与する経験ができることは大きなやりがいです。また、船の仕様やデザイン、船名など細かな判断に至るまで自分たちで決める場面が多く、責任の重さを感じる一方で、この船に対する愛着も非常に強くなっています。
前田:船のデザインや内装にもこだわりを持って取り組んでおり、“かっこいい船”“乗りたくなる船”を意識した設計としています。
小大塚:静かで振動が少ない快適な船にすることで、乗組員にとって魅力的な環境を実現したいという思いがあります。本プロジェクトでは設計から建造、そして運航までを一貫して見据え、関係者と密に連携しながら船を創り上げています。実際にこの船が海上で活躍する姿を見ることができる時を心待ちにしています。
完成後のタグボートは、内海曳船によって広島県尾道エリアで運用されます。電気推進船に関する知見の海事産業への還元、内航海運の活性化も見据えた、新たな船の誕生をご期待ください。
新鋭のタグボートを造るのは京浜ドックの追浜工場。決して規模は大きくないながらも、LNG燃料やアンモニア燃料のタグボートを生み出してきた造船所
瀬戸内海エリア初の電気推進タグボートとして2026年度末に運航を開始する予定










