未来へ共創!環境にも人にも優しい 「電気推進タグボート」
公開日:2025年07月30日
更新日:2025年07月30日

日本郵船グループはリチウムイオンバッテリーを搭載する電気推進タグボートの建造を決定しました。環境にも人にもやさしい“未来のタグボート”は、商用船用として日本初となる国内メーカー製モータードライブシステムの採用など、革新的な船舶を目指しています。それは、船こそ小さいけれど、日本の海運業の可能性を拓くための、挑戦なのです。
電気推進システムは、環境にやさしく、タグボートとの相性も抜群
地球規模で深刻化する環境問題や、少子高齢化による働き手の不足などは、日本の海運業も向き合っていかなければいけない課題となっています。そんな状況を背景に始まったのが、日本郵船の電気推進タグボート建造プロジェクトです。
タグボートとは、主に港湾内で大型船の入出港をサポートする小型船のことです(日本語では「曳船(えいせん)」とも)。大型船をロープで牽引したり、船首で押したりして、安全かつスムーズに離着岸できるよう補助する重要な役割を担っています。タグボートがいなければ物流がストップしてしまう可能性すらあるほど、私たちの暮らしになくてはならない存在なのです。
従来のタグボートは、重油を燃料とするエンジンでプロペラを回すディーゼル推進方式が一般的でした。対して、電気推進タグボートは、電気モーターでプロペラを回して駆動し、主な電力源としてリチウムイオンバッテリーを利用しています。
電気推進タグボートは大半のオペレーションではバッテリーのみを使用した運航が可能となるよう設計されており、二酸化炭素排出を大幅に削減可能な環境にやさしい船舶です。日本郵船グループでは、2015年に日本初のLNG燃料を使用するタグボート「魁(さきがけ)」を竣工させ、さらに環境負荷の少ないアンモニア燃料を使用するタグボートに改造しました。その経験を基に、今回の電気推進タグボート建造へと、さらなる挑戦を進めています。
電気モーターは燃料を使うエンジンよりもプロペラの回転数をコントロールしやすいメリットがあります。大型船の周囲で細やかに動いてサポートする場面が多いタグボートにとって、電気推進方式は非常に相性の良いシステムとなる可能性を秘めているのです。
電気推進システムにおけるモータードライブシステム。電気推進タグボートでは、エネルギー源にリチウムイオンバッテリーと発電機を併用するハイブリッド方式を採用 。
皆さんもご存じの通り、“脱炭素”は、環境保護の観点からも今や世界的な潮流となっています。しかしながら、タグボートにおいて、電気推進方式の普及は進んでいないのが実情。先述の通りメリットの多い電気推進システムですが、実現にはさまざまなハードルがあるのです。
その理由の一つは船内のスペースの問題です。タグボートは大型船を牽引できる大きなパワーを継続して出力する必要があるため、動力源のバッテリーを大量に積み込むスペースが必要です。バッテリーの搭載スペースを確保しながら、小回りの利くスリムな船型を維持するために、日本郵船グループの技術を総動員しています。
国内製モータードライブシステムを新規開発
陸上向けモータードライブシステムで業界トップクラスの技術力と実績を有する国内メーカー株式会社TMEICは、本プロジェクトを契機として大容量・高効率モーターと小型水冷ドライブ装置を船舶向けに新規開発しました。
国内メーカー製モータードライブシステムを搭載する電気推進タグボートは日本初です。このシステムは、高価なレアアースを使用しないリラクタンスモーターを採用し、高効率かつ経済性やメンテナンス性に優れるなど、海外メーカー製で主流の永久磁石モーターにはないメリットも発揮します。
国内メーカー製であれば、万が一のトラブルの際にも素早くメンテナンスに駆け付けることができ、よりきめ細かいアフターフォローも期待できます。さらに、国内で開発することで得られた知見は、日本の海運業全体の強化にもつながります。
株式会社TMEICの前にいるTMEICマン
会議で訪れた株式会社TMEICの社屋
国内のタグボートとして初となるDPS(船舶定点保持装置)も搭載
もう一つの新機軸は、DPS(Dynamic Positioning System)の採用です。これもタグボートとしては日本初の試みです。
DPSとは、風や波などの外力を計算し、船が一定エリアに留まるように自動的に制御する装置のことです。
タグボートでは、運航中に数時間にわたって洋上で待機する、いわゆる「沖待ち」が発生します。その際、乗組員は船体位置を保持するため、微調整を手動で繰り返さなければなりません。
しかし、この沖待ちで一定エリアに留まることは、身体的にも精神的にも乗組員には大きな負担になっていました。DPSがあれば、ボタン一つで船を留めてくれるため、乗組員の負担を大いに軽減してくれます。
DPSによって働きやすい環境を作る今回の取り組みは、国の「内航変革促進技術開発費補助金(NX補助金)」の対象事業にも採択されており、業界の期待を背負いながら労働環境改善に向けた努力を進めていきます。
設計・建造・運航までの全工程を日本郵船グループ内で完結
今回のプロジェクトで特筆すべきは、全てのプロセスを日本郵船グループ内で完結させていることです。具体的には、日本郵船技術開発グループがシステムインテグレーターとして開発を牽引し、運航関連情報の分析や船型開発を含む基本設計を行いました。これを基に京浜ドック株式会社が建造し、完工後の運航を内海曳船株式会社が担当します。
日本郵船グループ内で工程が完結することにより、各工程における緻密なフィードバックを行うことが可能になります。こうして、電気推進船の開発における知見を蓄積することができると考えています。
電気推進タグボート事業の会議風景
目指すのは日本の海運業全体のより良い未来
環境にも人にもやさしいタグボートを作りたい。プロジェクトチームは、そんな思いで開発プロジェクトに取り組んでいます。
プロジェクトチームには、プレスリリースには書かれていないもう一つの思いがあります。それは“カッコいい”船にしたい、ということです。その思いが意味するのは、乗組員が誇りと愛着を持って従事できる船にすること、そして、これまで海運業に縁のなかった人にも「船ってカッコいいね」と関心を持ってもらうことです。
日本全体の大きな課題である少子高齢化による労働人口の不足、それは海運業にとっても深刻です。作業負担を軽減でき、かつ“カッコいい”船を作ること。それによって海運業を魅力的にしていくことができると信じています。
日本初の国内メーカー製モータードライブシステムを搭載した電気推進タグボートの建造プロジェクトは、2026年末の運航開始を目指し、着々と進んでいます。今後の進捗にもご期待ください。