日本郵船「ツウ」の方へ挑戦する企業

日本郵船「洋上データセンター」商用化へ。未来へのモチベーション

洋上データセンター

来るべき高度IT社会に向け、日本郵船が再生可能エネルギーを活用した洋上データセンターの商用化に取り組んでいます。「海のポテンシャルを最大限活用し、デジタルインフラと地球環境の両立を目指す」を目標に、現在日本郵船社内で中心的な役割を担っている二人、イノベーション推進グループの森福将之と大東鷹翔に、新規事業へ挑戦することになったきっかけや仕事に対する意気込み、今後の展望などを聞きました。

洋上データセンターの原点と、新規事業挑戦へのきっかけ

森福:日本郵船に入社後、社会人大学院で2年間事業構想を体系的に学ぶ機会に身を置いたのですが、社会課題を広く理解するための外部講師による講義で、「将来的にデータセンターの爆発的な需要増加が見込まれ、対応する電力確保や温室効果ガスの排出対策、将来の増設を見据えた広大な敷地が必要になっていること」を知りました。

ちょうど同じタイミングで、「海」をテーマに何か新しい事業を生み出せないかと社内の数人で議論していました。その中でデータセンターの話題を持ちかけたところ、「海」というフィールドを活かして解決できないかと、議論が深まっていったのです。

イノベーション推進グループ・森福将之

イノベーション推進グループ・森福将之

大東:2022年から森福と同じイノベーション推進グループに所属しています。洋上データセンター事業に参加することになった理由は二つあります。

一つ目は、自分のスキルが活かせるということでした。日本郵船に入社する前にIT企業に長く勤めていた関係で、IT系の資格を複数持っています。データセンターに関する詳しい知識も持ち合わせていました。

二つ目は、自分のやりたいことと合致したことです。そもそも日本郵船を志望した理由は、多くの人に貢献したいという思いからでした。データセンターが抱えている課題を解決することは、人々の生活を良くすること。ひいては世界全体を良くすることにつながると考えたのです。

イノベーション推進グループ・大東鷹翔

イノベーション推進グループ・大東鷹翔

森福:私は入社以来、機関士としてコンテナ船やLNG船に乗船してきましたが、ITに関する知識は浅かったんです。そんな中、「データセンターに詳しい人間が入社してきた」という噂を聞きつけ(笑)、私から大東に声をかけました。そこから2023年に6人の有志が集まってワーキンググループが立ち上がり、洋上データセンターの事業化に乗り出していったというのがこれまでの流れです。

日本郵船ならではの強みを活かした洋上データセンターのメリット

大東:洋上データセンターのメリットは「安さ」と「早さ」です。この2点がまさに陸上のデータセンターにおける課題を解決できる鍵だと考えています。

「安さ」のポイントは、まず土地を確保する必要がありません。また、陸上で施設を建設する場合、例えば地震、液状化対策で地中深くまで杭を打ち込む必要があり、コストがかさみます。その点、洋上浮体型(フロート)の場合は構造が複雑化しないため、初期費用を抑えることができます。さらに、電力コストの削減も大きなメリットです。船会社としてのノウハウを活かし、海水で冷却することで通常データセンターの運用コストの3〜4割を抑えられます。

「早さ」のポイントは、洋上風車のような発電設備に近接した立地や自家発電型にすることで、陸上の電力系統に依存せず稼働させることができることです。データセンターは、規模にもよりますが、1棟当たり10M〜100MW(メガワット)の電力を必要とするのですが、電気系統を敷設する工事が長期化しているのが課題となっていました。陸上の電力系統を利用しなければ、稼働までのリードタイムの短縮につながります。

新規事業を進める上での課題や試行錯誤

大東:初期段階においては、IT産業との横のつながりが薄いことが課題でした。そこで徹底したのが、積極的に社外に出て行ってアイデアをプレゼンし、“仲間集め”をすることでした。これまで100社以上の方々とお話してきました。

現在、洋上データセンターのアイデアに賛同していただいた企業や自治体と共同で事業を進めています。今回の実証実験では、株式会社NTTファシリティーズ、株式会社ユーラスエナジーホールディングス、株式会社三菱UFJ銀行、さらに横浜市と、再生可能エネルギーを100%活用する洋上データセンター実現に向けた実証実験に関する覚書を締結しました。

各社ロゴ

2025年年度に実証実験がスタートする洋上データセンター(縦25m×横80mの一部を占有)。横浜港大さん橋国際客船ターミナルに係留される

2025年年度に実証実験がスタートする洋上データセンター(縦25m×横80mの一部を占有)。横浜港大さん橋国際客船ターミナルに係留される

実証実験 イメージ図

実証実験 イメージ図


再生可能エネルギーを100%活用する洋上データセンター実現に向けた実証実験に関する覚書を締結
https://www.nyk.com/news/2025/20250327_03.html

森福:今回の事業は日本郵船の「みらいファンド」という枠組みを活用してスタートしました。「みらいファンド」は、NYKグループ発の新規事業を後押しするための研究開発費をイノベーション推進グループが支援するという自社制度です。

ただ「みらいファンド」の活動に費やせる時間は限りがあり、有志で活動していた当時は、「どうすれば専業化できるか」を日々試行錯誤していましたね。

大東:とはいえ、私は中途入社ですが、他社では新規事業を立ち上げようにも「みらいファンド」のような支援スキームすらありませんでした。そう考えると、日本郵船の新規事業に対する理解や懐の深さは、非常にありがたいものだと実感しています。

新規事業に取り組むモチベーションとは

森福:日本郵船に入社したときから、海技力を生かして何か新しいことに挑戦したいと考えていました。なので、今は毎日が本当に充実しています。それなりに苦労することもあるのですが、誰かに言われてやっているのではなく、自分たちがやりたいからやっている。“大変だな”よりも“楽しい”という気持ちの方が圧倒的に大きいですね。一方で取り組みを継続できるかどうかも自分たち次第なので、いい意味で緊張感を持ちながら業務に取り組めています。郵船マンとしての力量を試す意味でも、これからも多くの打席に立ってフルスイングしていきたいと思っています。

大東:自分が働く理由を体現できているので(少しでも多くの人々に貢献する)、少々のトラブルでは精神的負担をあまり感じることなく頑張れます。次に何をすべきか、全て自分たちで考えてハンドリングできるのは、やはりこの仕事のやりがいであり、醍醐味だと感じます。協力してくださる企業の方々と一緒に、目的地までたどり着きたいと思っています。

洋上データセンター商用化後の展望

大東:当面は国内での事業展開を目指していますが、例えばインドネシアやフィリピンなど、インフラが脆弱な島嶼部にも市場としてのポテンシャルは眠っているはずで、そこにもビジネスチャンスを広げていけるのが理想です。さらにいえば、日本郵船のような企業がオープンイノベーションで新規事業を立ち上げること、それを海外に輸出することも含めてモデルケースになるといいですね。

森福:今後事業化が軌道に乗れば、日本の海事クラスター(海事に関わる産業の集合体の意)を盛り上げることにもつながると思っています。洋上データセンターの建造を国内の造船所に依頼することができれば、日本の造船業が盛り上がります。私たちは“船屋”なので、日本の造船業に活気があってこそ、技術立国としてうまく回っていくのではないでしょうか。

新しい挑戦に向けて、仲間求む!

大東:新規事業においては、目標達成に向けて自分で判断して、何かあれば軌道修正しながら動ける“自走できる人”がベストではないかと考えます。通常の人事異動でイノベーション推進グループに来るパターンもありますが、最近はジョブポスティングのような形で、社員自らが手を挙げて入ってくるケースも増えています。皆さんモチベーション高く働いている印象を受けますね。

森福:新規事業において必要な人材はフェーズによって違ってくると思います。洋上データセンターの事業でいえば、現在のフェーズでは、大東が言うように、“自走できる人”が必要だと思います。新しい挑戦では「いざやってみたら全然違う景色だった」みたいなことが大いにあり得ます。事業の軌道修正も含めて楽しめるような人じゃないと厳しいですし、手間と労力が必然的に多くなる中で、常に“自分事”化してあがいていけるかどうかは、とても大事なポイントだと思います。

ある程度事業化の目途が立ってくれば、例えばファイナンスのプロや造船/設計のプロ、運用/保守メンテナンスなどの人材がうまくはまるポジションが出てくるはず。そのためにもこれから行う実証実験をまずは成功させて、商用化に向けて尽力していきたいと思っています。

DELL講演会の写真

DELL講演会の写真

デル・テクノロジーズが主催する「水冷サミット「DLC Servers & Datacenter Summit 2025 (DSDS25)」 東京リターンズ」にてクロージング前に講演を行った


今年度の実証実験に向け、現在着々と準備が進んでいます。また、7月15日には、デル・テクノロジーズが主催する「水冷サミット「DLC Servers & Datacenter Summit 2025 (DSDS25)」東京リターンズ」にて、新時代における洋上データセンターの社会実装に向けた講演を行いました。データセンターの可能性と日本郵船の新たな挑戦への姿勢が高く評価され、盛況を博しました。今後の展開にご期待ください。

洋上データセンターを軌道に乗せ日本の海事クラスターを盛り上げたい(森福)。自分たちで考えてハンドリングできることに、やりがいを感じている(大東)。

洋上データセンターを軌道に乗せ日本の海事クラスターを盛り上げたい(森福)。自分たちで考えてハンドリングできることに、やりがいを感じている(大東)。