日本郵船ってどんな会社?世界中の船から

日本郵船これくしょん Vol.1 タグボート編 ― 小さな船の大きなちから ―

タグボート

“Bringing value to life.”──海を越えて価値を届ける。日本郵船の企業理念を体現するさまざまな船が、今日も大海原を行き交います。「日本郵船これくしょん」では、人々の暮らしと経済を支える船種を、詳しく分かりやすくご紹介します。

タグボートは港湾で活躍する“頼れる裏方”

タグボートという船をご存じですか?名前は知らなくても、港で目にしたことはあるかもしれません。

タグボートの主な役割は大型船の港への出入りや安全な離着岸をサポートすること。

大型の船舶は全長300〜400mになるものも。その巨体ゆえに港の中では細かい操船が難しく、自力で接岸するのは困難な場合もあります。タグボートは全長20〜40mほどの小さな船体ながら、自分よりはるかに大きな船を押したり曳いたりしながら、港への出入りや接岸をサポートするのです。大型船にとって安全で正確な運航に不可欠なパートナーであり、頼れる裏方といったところでしょうか。

タグボートは大型船をロープで曳いたり(tug)、船首で押したり(push)しながら、バックや横移動させるなど自由自在にサポートします。日本語だと、曳船(えいせん)といいます。通常、タグボートは大型船1隻につき2~5隻で1チームを編成します。互いに連携を取りながら、いわばチームワークで大型船をサポートするのです。

全国主要港湾で活躍するタグボート

全国主要港湾で活躍するタグボート

自動車運搬船もサポート!

自動車運搬船もサポート!

タグボートって一体どんな船?

大型船を押したり曳いたりするには相当なパワーが必要です。小さい船体ながらもタグボートは力持ち。搭載しているエンジンは3600~5000馬力と、200tほどの船体に比して格段の高出力を誇ります。大型船を動かす強い力や、大型船と並走するのに必要なスピードも、なんなく出せるパワフルさです。

タグボートならではの特徴は他にもいろいろあります。

①アジマススラスター
例えば推進装置であるプロペラ(スクリュー)には、アジマススラスターを使っています。これは水平方向にグルリと360度向きを変えることができるプロペラです。このおかげでタグボートは、その場で360度回頭することができ、真横に動くこともできます。

②タグライン
船首部分には誘導する船とタグボートをつなぐタグラインというロープが装備されています。大型船を曳くには50t以上もの力がかかるので、万が一にも切れたら大惨事につながりかねません。質の高い頑丈なロープを使って、使用回数なども綿密に記録管理しています。

③巨大タイヤ
船首付近の外側にグルっと装着した巨大タイヤも重要です。大型船を押して向きを変えるときにロープは使えません。船体を接触させて押すのです。タイヤはその際に互いの船体を傷めないために緩衝材(フェンダー)の役割を果たします。日本郵船グループのタグボートでは、ジャンボジェット機や重機で使用された古タイヤを活用しています。

大型船をよく見ると、タグボートで船体を押してもよい場所を示したタグ・プッシュエリアが描かれています。船体のフレーム(骨組み)は縦方向に並んでいますが、フレームとフレームの間は外板だけなので強い力で押すとへこんでしまいます。タグボートが押す場所はこのタグ・プッシュエリアだけに限定されているのです。

タグ・プッシュエリア

さらに、海上火災に備えて消防用消火ノズルを装備しているタグボートもあります。消防船を待たずとも、近くの船舶火災に素早く対応する役割も持っています。

360度回転するアジマススラスターで機動力をアップ!

360度回転するアジマススラスターで機動力をアップ!

緩衝材となる巨大タイヤ

緩衝材となる巨大タイヤ

タグラインは船首部分に搭載

タグラインは船首部分に搭載

タグボートがこなす多様な仕事

港でのタグボートはどのように働いているのでしょうか。

誘導すべき本船(大型船)の入出港では、まず港から水先案内人が乗船して、タグボートと連携して誘導を行います。水先案内人の指示でタグラインをつなぎ、本船を曳いていきます。これが“tug”です。本船を減速させるため船尾側からロープで引き留めることもあります。しかし、これだけでは本船をスムーズにサポートすることはできません。

例えば、船首側で左舷、船尾側では右舷にタグボートが接触して押せば、本船は右向きに回転できます。これが“push”。片側から複数のタグボートで押せば桟橋に向けて横移動もさせられます。このpushは機会があったらぜひ見て欲しい超絶テクニック!ロープでのtugも、前方向だけでなく、斜め方向に曳くなどの形でpushと効果的に組み合わせている様子も必見です。

タグボートの仕事はここまでお伝えしたものばかりではありません。前述の海上消火のみならず、港内の安全確認、進路警戒、気象情報のチェックなども大切な役割です。例えば原油タンカーが到着するときには入港から出港まで24時間、万一に備えて近くで待機しています。港の安全を守るために不可欠な船なのです。

消防用消火ノズル

消防用消火ノズル

赤く小さいのがタグボート。押したり曳いたり自由自在に大型船をサポートする。

   赤く小さいのがタグボート。押したり曳いたり自由自在に大型船をサポートする。

進化し続ける日本郵船グループのタグボートに注目!

大型蒸気船の登場以来、タグボートは世界の主要港で活躍してきました。日本でも横浜開港の頃から港内での曳船は不可欠でした。国内初登場は江戸時代が終わる直前の1866年。幕府の依頼により横濱製鉄所で作られた、10馬力の木造船が端緒といわれています。

当時はタグボートの名の通り、本船をロープなどで曳く「tug」が主な仕事でした。

やがて蒸気機関からディーゼルエンジン、スクリューをはじめとした技術が発達していくことでコントロール性も高まっていきます。性能が増すにつれ、前述のようにタグボートの役割も大きく広がっていきました。

そして現代、タグボートの進化はなおも止まることはありません。

アンモニアタグ

ぜひ注目していただきたいのは、環境に配慮した新型タグボートの開発です。日本郵船グループでは、2015年に日本初のLNG燃料を使用するタグボート「魁」を竣工させ、さらにこの「魁」をより環境にやさしいアンモニア燃料を使用するタグボートに改造しました。運航実験を経て2025年から実用化、グループ会社である新日本海洋社が運航を行っています。アンモニアは燃焼してもCO2を排出しないカーボンフリーの燃料として注目されています。さらに、2026年末に向けて電気で推進する未来のタグボートの竣工も目指しています!


小さな船体でこその機能をフルに生かして頼もしく活躍するタグボート。日本の主要港湾であればその姿が日々見られます。その機敏な動きを目にすれば、乗務員の高度なテクニックと、それを可能にする性能の高さに惚れ惚れすること間違いなし!喫水(船体の海に沈んでいる部分の深さのこと)が船体の大きさに対して深いのも、エンジンの大きさを感じます!見かけたら思わず応援したくなっちゃうかも。

活躍するタグボート