「日本郵船これくしょん」Vol.11 アンモニア燃料船編 ー温室効果ガス削減に向けて日本郵船が取り組みを加速ー
公開日:2026年04月24日
更新日:2026年04月24日

次世代燃料として世界がアンモニアに注目
温室効果ガス削減が世界的な課題となる中、アンモニアが次世代燃料として注目されています。
身近なところでは農業用肥料の原料などに使われているアンモニアですが、一般にはあまりなじみのない物質かもしれません。アンモニアは、次世代燃料としてどのような点が優れているのでしょうか。
アンモニアは、窒素原子1と水素原子3が結合した化合物(NH₃)です。どこにでもある空気(窒素N)と水(水素H)から生成でき、燃焼しても二酸化炭素(CO₂)を排出しないという特長があります。
太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーを使い、水を電気分解して得た水素を原料とする「グリーンアンモニア」は、製造過程でも二酸化炭素を排出しないため、より脱炭素性の高い燃料とされています。
カーボンニュートラル社会の実現に向け、アンモニアは火力発電や工業炉だけでなく、船舶用燃料としても大きな可能性を持っています。
国際海運において、主な温室効果ガスである二酸化炭素の排出量は、世界全体の約2.1%を占めています。一見少ないようにも思えますが、これはドイツ1国の排出量とほぼ同じ規模です。さらに、何も対策を講じなければ、2050年には約7.0%にまで増加するといわれています。
これを受け、国連の専門機関であるIMO(国際海事機関)は、国際海運における環境規制の枠組みの中で、2050年頃までに温室効果ガス排出ゼロを目標に掲げています。
日本郵船は、こうした国際的なルール形成を踏まえながら、関連技術の開発と実装に取り組んでいます。その重要なピースの一つが、アンモニア燃料なのです。
アンモニアの特性をいかに制御するかが鍵
日本郵船がまず取り組んだのは、既存のLNG燃料タグボートをアンモニア燃料利用に転換する試みです。しかし、アンモニア燃料を利用するには、エンジンや船体設計を含め、全てを新たに開発する必要がありました。
アンモニアには、燃料として利用する上で克服すべき三つの特性があります。
(1)毒性
皮膚や粘膜への刺激が強く、高濃度アンモニアの接触や吸入は健康被害をもたらす。
(2)難燃性
安定燃焼には、既存燃料との混焼率や空気量、温度などを検討した上で専用エンジンが必要。
(3)亜酸化窒素(N₂O)の発生
燃焼時に、二酸化炭素の約300倍の温室効果を持つ亜酸化窒素が発生するため、触媒による排気処理が不可欠。
毒性への対策として、アンモニア関連区画は壁で隔てて乗組員から遠ざけ、万一の漏えい時には完全に遮断。漏れたアンモニアはシャワー状の水に吸着させる仕組みを採用しました。
乗組員が関連区画に立ち入る際のルールや保護具の選定も徹底し、アンモニア燃料船に特化した安全管理マニュアルを整備しています。
タグボート用アンモニア燃料エンジンの開発を担ったIHI原動機は、安定燃焼条件を探るために多くの実験を重ねました。その結果、燃料の約95%をアンモニアでまかなう高い混焼率を達成しました。これにより、重油のみを使用した場合と比べ、温室効果ガスの排出量を最大約94%削減できます。また、排ガス中の亜酸化窒素を処理する装置は船外に設置し、安全性を高めています。
こうして世界に先駆けて2024年8月に完成したのが、アンモニア燃料タグボート「魁」(さきがけ)です。現在は横浜港での大型船けん引業務に従事しています(本記事掲載時点)。
全世界の二酸化炭素排出量に占める国際海運の割合
出所:IEA「CO₂ Emissions from Fuel Combustion: Overview 2020」
アンモニア燃料タグボート「魁」
アンモニア燃料タグボート「魁」が完成
https://www.nyk.com/news/2024/20240823_01.html
アンモニア燃料アンモニア輸送船の開発にも着手
アンモニア燃料船の開発は、日本郵船だけで完結するものではありません。国土交通省によるグリーンイノベーション基金(次世代船舶の開発)の助成を受け、エンジンメーカーや造船会社などの技術を結集して進められています。
「魁」の開発でも、プロジェクトメンバーの豊富な経験と知見が融合し、世界初の成果を生み出しました。
次なるフェーズは、国際海運で世界初となるアンモニア燃料アンモニア輸送船(Ammonia-Fueled Medium Gas Carrier 以下AFMGC)の開発です。
港湾内で稼働するタグボートとは異なり、AFMGCは40,000㎥型と大型で、長期間にわたる航行のために、エンジンや船体設計はより高度で緻密な配慮が求められます。
安全性の確保も徹底されています。エンジンコントロールルームは居住区に設置し、遠隔操作を採用。エンジンは主機・補機をそれぞれ隔壁で分離して、万一アンモニアが漏えいしても影響が機関室全体に及ばない構造としました。
避難区画は二重扉構造とし、居住区の吸気ラインはアンモニアを一定量検知すると遮断されます。「魁」の安全対策をより高度な形で反映しています。
こうした取り組みにより、AFMGCは完成時に日本海事協会による船級符号、Machinery Room Safety for Ammonia(MRS)を取得予定です。アンモニア燃料船における最高レベルの安全基準をクリアすることを目指しています。
AFMGCは、輸送するアンモニアを自船燃料としても利用します。アンモニア燃料の供給インフラが未整備な現状においても円滑な運航を可能とし、設備建設に伴う二酸化炭素排出や作業リスクを低減します。
世界で初めてのアンモニア燃料による外洋航海に、世界中が注目しています。
2026年11月の完成を予定しているAFMGC(予想図)
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未来を見据えて、より多くのアンモニア燃料船を開発
グリーンイノベーション基金の助成を受けて進められてきたプロジェクトは、さらなる未来を展望しています。
日本郵船をはじめとするコンソーシアムでは、アンモニアを燃料とする自動車専用船の開発が進められています。また、2033年までに外洋航海船を中心にアンモニア燃料船を合計15隻に拡大する計画です。
さらに、日本郵船は2025年2月、ノルウェー・オスロに本社を置くYara Clean Ammoniaと、AFMGCの定期傭船契約を締結しました。同社は世界最大級のアンモニア供給ネットワークを有しています。
Yara Clean Ammoniaとの連携により、温室効果ガス削減への取り組みはさらに加速していきます。
貿易量の99%を海上輸送に依存する日本。温室効果ガス削減に向けた次世代エネルギー船の実現は、日本郵船の使命です。
https://www.nyk.com/news/2025/20250210_03.htm







