これが私たち日本郵船の「仕事」です日本郵船グループの取り組み

(中編)ロケット洋上回収船に挑む技術者たち

3人が手にしているのは、ロケット洋上回収船の模型

海の上でロケットを打ち上げ、その機体を回収する。宇宙という新たな事業領域に、日本郵船は挑戦しています。宇宙分野では近年、民間企業による取り組みが広がり、技術開発が加速しています。当社は2024年12月、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の宇宙戦略基金事業に採択され、再使用型ロケットの洋上回収システムの開発を進めています。日本郵船の宇宙事業を前編・中編・後編の全3回にわたって紹介します。

日本郵船が取り組む再使用型ロケットの洋上回収システムでは、回収を担う船そのものにも、これまでにない役割が求められます。ロケットが安全に着陸できる船とは、どのような船なのか。中編では、洋上回収船の開発に挑む3人の若手技術者に、船に求められる機能や技術、開発に込める思いを聞きました。

前例のない「ロケット洋上回収船」への挑戦

――まず、ロケットの洋上回収システムを支える土台として、洋上回収船にはどのような性能が求められるのでしょうか。

加藤:ロケットを船上に着陸させるには、船の上甲板を出来るだけ安定した状態に保つことが重要です。そのためには、船を定点に留める技術や、揺れを出来るだけ抑える技術が欠かせません。さらに、着陸後にはロケットを固定し、機体に残った推進薬(ロケットを動かす燃料など)を排出する機能も必要になります。

技術開発グループ・海洋技術チーム 加藤祥太

技術開発グループ・海洋技術チーム 加藤祥太

――海運会社として培ってきた経験は、今回の開発にどのように活かされていますか。

加藤:日本郵船グループは、これまでさまざまな貨物を運んできました。その経験は今回の開発にも活かせると考えています。特に、ロケットをどのように固定し、どう運ぶのが適切なのかという点では、船の運航や安全管理に詳しい海技者の協力を得ながら検討を進めています。

上野:一方で、ロケットは日本郵船グループとして扱ったことのない「貨物」です。上空から降りてくる貨物を船で受け止めるという発想は、これまでの船にはない考えでした。洋上回収船は、既存の船とは異なる設計思想を取り入れる必要があります。

技術開発グループ・海洋技術チーム 上野隆治

技術開発グループ・海洋技術チーム 上野隆治

加藤:これまで扱ってきた貨物とは違うロケットを、どう安全に扱うのか。そこが、今回の開発で新たに取り組んでいる部分です。

――現在の開発状況はどの段階にありますか。

白石:洋上回収船の性能を検証するための水槽試験の準備を進めています。開発している洋上回収船の模型を使って、性能を検証する試験です。全長3メートル、幅1メートルほどの船の模型を大きな水槽で浮かべ、実際の運用を想定しながら、波の高さや波長、風、潮流などの条件を変え、船の揺れや同じ位置に留まる性能を確かめていきます。

技術開発グループ・海洋技術チーム 白石耕一郎

技術開発グループ・海洋技術チーム 白石耕一郎

加藤:船の揺れを抑える技術については、実現に向けた道筋が少しずつ見えてきました。一方で、ロケットの固定や、残った推進薬を排出する仕組みを船にどう組み込むかは、再使用型ロケット開発の進捗も踏まえながら、さらに検討していく段階です。

――開発を進める上での難しさはどこにありますか。

加藤:洋上回収船とロケットの設計条件を、どうすり合わせるかは難しいポイントの一つです。例えば、船の揺れや傾きをどのような範囲に収めるかは、ロケットの誘導制御性能や機体を支える着陸脚との関係性を考慮する必要があります。そのため、ロケットメーカーとも相談しながら、船とロケットの双方にとって現実的な設計条件を一つひとつ検討しています。

白石:船単体の実証試験であれば、これまでの経験の蓄積があります。一方で、船とロケットを組み合わせて性能を確かめる試験は、これまで例がないものです。模型と実機とは大きさも違うので、何をどう再現するかが重要になります。関係各所と対話しながら、最も重要な現象は何かを見極めているところです。そこが難しいところでもあり、面白いと ころでもあります。

上野:ロケットも船も実機を製作して試験することは容易ではなく、日本では再使用型ロケットも依然開発段階にあります。そのため、仮の数値を置きつつ、さまざまな条件を想定しながら検討を進めています。海外ではすでにロケットの洋上回収に取り組む企業もあるため、日々更新される海外の最新情報も参照しながら、自分たちの仮説やアプローチと照らし合わせ続けています。

熱と衝撃に耐える「着陸場所」

3人が手にしているのは、ロケット洋上回収船の模型

3人が手にしているのは、ロケット洋上回収船の模型

――洋上回収船にはさまざまな技術課題があります。その一つが、ロケットが降り立つ場所となる着陸用甲板です。通常の船の甲板とは異なる条件が求められそうです。

上野:再使用型ロケットは着陸時、エンジンを逆噴射して落下速度と姿勢を調整しながら船の上に降りてきます。一般的にロケットエンジンの出口温度は約2000〜3000度に達すると言われています。そのような通常の船の甲板では想定していない超高温環境や空から降りてくる貨物の衝撃にどう耐えるかが、検討の出発点になりました。

――そうした条件を踏まえ、材料や仕様をどう決めていくのでしょうか。
上野:ロケット射場のように耐熱材料を甲板全面に敷けば、ある程度は熱に耐えられるかもしれません。ただ、必要な材料の特性・適用範囲・厚みなどをしっかりと考えて甲板を設計しなければ、コストも重量も上がる一方です。高級な材料と仕様を追い求めるだけでなく、事業として成り立つコストに収めることも重要です。

――ロケットを一度受け止めて終わりではなく、繰り返し使うことも前提になります。

上野:船は通常20年、30年にわたって運用されますが、安全に長期間運用するためにはメンテナンスは欠かせません。洋上回収船の着陸用甲板は熱や衝撃にさらされるため、特に消耗が大きい箇所だと想定しています。ロケット着陸で甲板が傷んだときに、全面取り替える必要があるのか、港で部分補修・部分交換できるのかも重要なポイントになります。ロケットを一度回収して終わりではなく、繰り返し使う船だからこそ、全体のライフサイクルを考慮した最適な甲板のあり方を探っています。

新しくつくる「安全のものさし」

――洋上回収船を実際に安全に運用するためのルールづくりも必要になります。

上野:法規制面でも日本では、ロケットを洋上で回収することがまだ想定されていません。そのため、洋上でロケットを回収する場合、場面ごとにどの法規則が適用されるのかを整理し、必要に応じて関係各所と調整を行う必要があります。

――具体的にはどういう作業となるのでしょうか。

上野:洋上回収船が出港し、海域に到着し、ロケットを回収し、帰港するという一連のオペレーションフローを整理することが第一歩目です。その上で、必要な人員や具体的な作業へと分解し、それぞれの場面と作業に適用される法規制を有識者とともに調査しています。

法規制に加え、ロケット洋上回収を安全に実施するための設計・運用の要件についても、船級協会とも協力して整理を進めています。発生しうるすべてのリスクを評価して、安全ガイドラインを整備することで、皆が安全に設計・運用できる土壌づくりを進めています。

船での経験を、新しい領域へ

左左から加藤祥太、白石耕一郎、上野隆治 日本郵船の宇宙事業のキーフレーズ「From Ocean, To Orbit.」ロゴTシャツを着用 関連リンク:シンガポールの宇宙産業向け展示会「GSTCE 2026」に共同出展 | 日本郵船株式会社

左から加藤祥太、白石耕一郎、上野隆治
日本郵船の宇宙事業のキーフレーズ「From Ocean, To Orbit.」ロゴTシャツを着用
関連リンク:シンガポールの宇宙産業向け展示会「GSTCE 2026」に共同出展 | 日本郵船株式会社

――ここまで、洋上回収船の開発の中身について聞いてきました。皆さんのこれまでの経験や専門性は、今回の開発にどう活きていますか。

加藤:前職では、造船所で船の設計に携わり、洋上風力に関する技術検討も担当していました。船づくりの流れや、仕様を決めるプロセスは、今回の洋上回収船開発にも通じる部分があります。設計上の制約を整理しながら、どのような船にするのかを考える点は、前職の経験が活きているところです。

白石:私は海上技術安全研究所(海技研)から日本郵船に出向しております。もともとは船のプロペラの研究を専門としており、あわせて船の耐航性能、推進性能に関する研究にも従事してきました。
そうした専門性は今回のプロジェクトにも活かせていると思います。研究で論文を書くことも大切ですが、今回はそれを実際に形にし、ビジネスにつなげていく取り組みです。苦戦しながらも、そこに面白さを感じています。

上野:私は新卒で日本郵船に入り、人事ローテーションの過程で海外での船舶管理業務や造船現場を経験してきました。船舶管理会社では日本籍船舶における法規制や船級規則の運用について深く関わることができ、そうした経験は、洋上回収船の安全ガイドラインづくりにもつながっています。

――どのようなやりがいや可能性を感じていますか。

加藤:ロケットの打ち上げ本数を増やすことは、日本の宇宙産業の発展にとって重要なテーマです。そこに貢献できることは大きなやりがいです。海運も社会インフラとしての役割が大きいですが、日本の基幹ロケットも国にとって重要なものです。国益につながる仕事ができていると感じています。

白石:新しいビジネスに挑戦し、まだ誰もやっていない領域に取り組めることに魅力を感じています。展示会でこのプロジェクトを紹介した際には、多くの方に関心を持っていただきました。ロケット回収船への取り組みが、海事産業を盛り上げる新しい流れにつながればと思っています。

上野:日本郵船の技術者として、新しい技術分野・新しい事業領域に挑戦できることは大変光栄ですし、宇宙産業とのコラボレーションにも日々刺激を貰っています。ロケット洋上回収船の開発を通じて、日本の海事産業および海洋環境活用の新たな可能性を開拓し、一石を投じることができれば嬉しいと思っています。


インタビューの後編は、洋上回収船を海上の決められた位置に留める定点保持技術や、無人の洋上回収船を離れた場所から動かす遠隔運用技術について、担当する技術者に話を聞きます。