日本郵船「ツウ」の方へ挑戦する企業

日本郵船の宇宙事業に広がる共感 2026ICF総会 -海洋と宇宙をつなぐ新たな価値創造-

相関図

海運で培った知見を基盤に、宇宙領域へと挑む日本郵船

2026年3月、産学官の連携によって社会課題解決を目指す「未来共創イニシアティブ」の年次総会で、ロケットの洋上回収という新たな取り組みが紹介され、異業種の参加者から高い関心と共感を集めました。
海洋と宇宙という性質の異なる領域をつなぐこの挑戦は、共創による価値創造の新たな可能性を示しています。

「未来共創イニシアティブ(Initiative for Co-creating the Future)」(以下、ICF)は、多様な主体が知見や技術を持ち寄り、共創によって新たな価値を生み出すことを目的としたプラットホームです。

ICFの年次総会は、さまざまな取り組みを共有し、領域横断の連携を深める場と位置付けられています。当日は複数のセッションが行われる中で、注目を集めたプログラムの一つが、パネルディスカッション「ディープテックが描く持続可能な未来図~海洋から宇宙まで~」でした。

ディープテック(Deep Tech)とは、気候変動、エネルギー、医療、食料問題など、世界規模の社会課題の解決を目指す技術領域です。

今回のパネルディスカッションには、日本郵船からイノベーション推進グループ先端事業・宇宙事業開発チームの寿賀大輔がパネリストとして参加、小型衛星の開発に取り組むアークエッジ・スペース社の中村大地氏、海洋×宇宙の可能性をテーマに研究を進める三菱総合研究所の武藤正紀氏らと、議論を交わしました。

海運、宇宙、政策研究という異領域の知見の融合に期待は高まります。

パネルディスカッションの様子。右からパネリストの寿賀大輔、アークエッジ・スペース社の中村大地氏(宇宙インフラ事業部 海洋ソリューション部長)、三菱総合研究所の武藤正紀氏(フロンティア政策本部 主任研究員)。左端のモデレーターはケップルグループの松田信之氏(ディレクター、三菱総合研究所 客員研究員)。

パネルディスカッションの様子。右からパネリストの寿賀大輔、アークエッジ・スペース社の中村大地氏(宇宙インフラ事業部 海洋ソリューション部長)、三菱総合研究所の武藤正紀氏(フロンティア政策本部 主任研究員)。左端のモデレーターはケップルグループの松田信之氏(ディレクター、三菱総合研究所 客員研究員)。

海洋×宇宙という新たな接点

日本郵船が掲げる「海洋×宇宙の融合」というテーマは、従来の研究や事業の枠組みを超えた取り組みとして位置付けられます。

海洋と宇宙は一見すると異なる領域のように思われますが、海上輸送の現場では、宇宙(衛星)からの観測データが不可欠な役割を担っています。

船舶の運航では、航路最適化や気象判断、さらには船上での通信環境の確保に至るまで、衛星を通じた情報が日常的に活用されています。近年の船舶の高度化や自動運航の進展などに伴い、その重要性は一層高まっています。

このように海運はすでに宇宙と密接に結び付いていますが、その関係はさらに新たな段階へと進みつつあります。

宇宙分野では今、ロケットの再使用を前提とした技術開発が進められており、機体を回収し再利用する仕組みの確立が重要なテーマとなっています。

ロケットの機体回収に適しているのが海上です。広大な回収エリアを確保できる海上では、安全性を担保しながら機体の回収・運用を行うことが可能です。

海洋は宇宙からのデータを活用する場であると同時に、宇宙輸送を支える現場へと役割を広げつつあるのです。

(リンク)
宇宙事業への参画でイノベーションを起こす日本郵船のチャレンジ
https://www.nyk.com/stories/04/02/20250122_24.html

海運会社が担う宇宙事業の一端

日本郵船が取り組んでいるのは、打ち上げられたロケットを洋上で回収するシステムの構築です。

打ち上げられたロケットの1段部分(1段ロケット)は、推進剤を使い切った段階で切り離され、宇宙に向かわず落下します。1段ロケットをそのまま捨ててしまう方式では、打ち上げ1回当たりのコストが高くなってしまうため、繰り返し使用可能な1段ロケットが研究・試作されています。


1段ロケットが落下してくる位置をあらかじめ計算し、打ち上げ前にそこに船舶を向かわせ回収するシステムの構築を目指しているのです。

海運の知見が宇宙輸送を支える

寿賀大輔は日本郵船における宇宙事業開発の取りまとめ役です。

「日本郵船は長年にわたり船舶を運航し、海象を読みながら安全な運航を行ってきました。その知見は宇宙分野でも十分に生かせると考えています」

日本郵船は2022年、JAXA(宇宙航空研究開発機構)が推進する「革新的将来宇宙輸送システム研究開発プログラム」において「洋上回収技術」に関する共同研究先として選ばれました。

この共同研究は、再使用型ロケットの実現に向けた重要技術の一つとして、海上での再使用型ロケット回収運用に関する知見が求められる中、日本郵船が長年培ってきた船舶運航や海象把握のノウハウが評価されたものです。

さらに2025年度より、JAXAの宇宙戦略基金における「再使用機体の回収に係る地上系基盤技術開発」に、海運会社として初めて採択されました。

宇宙分野において海上運用の重要性が高まる中で、日本郵船の技術と知見が生かされています。

ロケットの洋上回収のイメージ

ロケットの洋上回収のイメージ

洋上回収システムにおける回収船

洋上回収システムにおける回収船

司令船と回収船

司令船と回収船

JAXAの宇宙戦略基金事業に海運会社で初めて採択
https://www.nyk.com/news/2025/20250422_01.html

(リンク)
再使用型ロケット洋上回収システムのコンセプト承認(AiP)を取得
https://www.nyk.com/news/2025/20250724_02.html

異業種連携が生み出す技術革新

ロケットの着陸制御、機体の捕獲、無人運用や遠隔操作、専用甲板の設計など、いずれも高度な技術が求められます。これらは単独の企業で完結するわけではなく、複数の分野の連携によって初めて成立します。

「海事産業と宇宙産業では研究開発における文化に大きな相違もあり、当初は専門用語や文化の違いに戸惑うこともありました。しかし、対話を重ねることで共通理解が生まれ、連携は着実に進んでいます」と寿賀は語ります。

アークエッジ・スペース社の中村氏も、分野横断の意義を指摘します。

「私たちが目指しているのは衛星を活用した“海のデジタル化”。海運と宇宙という異なる分野が交わることで、新しい発想や価値が生まれることを期待しています」

技術の融合に加え、異なる産業が持つ視点の融合が、新たな価値創造を後押ししています。

宇宙と海洋が交差する未来

宇宙と海洋の関係は、今後さらに深化していくと見られています。

三菱総合研究所の武藤氏は日本郵船の取り組みを以下のように評価します。

「宇宙事業は、宇宙だけを見ていては成立しません。海を熟知している海運大手の取り組みを頼もしく思っています。今後もさまざまな企業の連携によりオープンイノベーションをさらに推進し、宇宙×海洋のエコシステムを広げていきたいですね。日本郵船がそのイノベーションをけん引してくれること期待しています」

「宇宙と海洋という異なる領域が相互に補完し合うことで、新たな産業基盤が形成されつつあります」(武藤氏)。

「宇宙と海洋という異なる領域が相互に補完し合うことで、新たな産業基盤が形成されつつあります」(武藤氏)。

共創が拓く新たな価値

現在、洋上回収技術は研究段階にありますが、その先には新たなビジネス機会の創出が見据えられています。

寿賀は熱意を込めて語ります。

「日本は四方を海に囲まれた海洋国家だからこそ、海を活用した新しい事業創出に取り組み、グローバルに展開していける可能性があるのだと思います。異業種同士で知恵を出し合い、新しい価値を創造する。海洋と宇宙をつなぐ。その最前線に日本郵船がいることを意識しながら、より一層の共創の輪を広げていきたいです」

実際、国内外の企業や研究機関から技術連携の提案も増えており、日本郵船の取り組みへの期待は着実に高まっています。

海運で培った知見を起点に、宇宙という新たな領域に取り組む日本郵船。その挑戦は、単なる事業領域の拡張にとどまらず、日本の海事産業全体を巻き込んでの、社会課題解決に向けた価値創造へとつながっていきます。

ICF総会で得られた共感は、その可能性を裏付けるものであり、海洋と宇宙をつなぐ取り組みは、今後さらに広がりを見せていくことが期待されます。

「今回のパネルディスカッションを通じて、宇宙産業の方々が海をどう活用できるかを真剣に考える熱意と期待をあらためて感じました」(寿賀)。

「今回のパネルディスカッションを通じて、宇宙産業の方々が海をどう活用できるかを真剣に考える熱意と期待をあらためて感じました」(寿賀)。