日本郵船「ツウ」の方へ技術力でつなぐ

自動車専用船AI配船システムを開発・本格導入 最適計画を迅速作成、GHG削減にも貢献

左から、日本郵船自動車事業統轄グループDX・BPMチームの野崎裕行氏、 調整チームの本橋直樹氏、MTI 船舶物流技術グループの光嶋徳博研究員、 前田佳彦グループ長代理

左から、日本郵船自動車事業統轄グループDX・BPMチームの野崎裕行氏、調整チームの本橋直樹氏、MTI 船舶物流技術グループの光嶋徳博研究員、前田佳彦グループ長代理

チームで課題に対応

 自動車専用船の配船計画は、どの積地からどの揚地へ、いつ、どの船で、どれだけの貨物を輸送するかを決める極めて重要な業務だ。営業担当者が顧客の各拠点の在庫状況や希望納期を把握し、輸送ニーズを整理した上で、船舶の輸送能力、入出港・荷役スケジュール、ドック入り、燃料補給、用船契約など多様な制約条件を考慮しながら、コストの最小化あるいは利益の最大化を目指した計画を策定する。近年はGHG排出削減の観点から最適速度での航行といった要素も加わり、配船計画立案の難易度が高まっている。加えて、航行遅延やトラブル、貨物スケジュールの変更などに応じて計画を随時見直す必要がある。
 日本郵船は約120隻という世界最大規模の自動車専用船団をグローバルに運航しており、数カ月先までの数百航海に及ぶ配船計画を限られた人数の熟練担当者が作成してきた。配船計画の作成はその業務の性格上、属人性が非常に高く、効率化や継承が大きな課題となっていた。
 こうした課題を背景に、日本郵船は自動車専用船の配船業務に関わる情報や判断要素を整理・構造化し、計画立案の精度と効率を高めることを目的に、21年からAIを活用した配船システムの開発に着手した。プロジェクトには、自動車船事業統轄グループの配船担当者やDX・BPMチームに加え、MTIから数理最適化に精通した技術者が参画。システム開発会社として複数候補の中からグリッドを選定した。DX・BPMチームの野崎裕行氏はグリッドと共に開発を進めることを決めた理由を「自社のシステムや技術だけを謳うのではなく、われわれの業務内容や課題にきちんと向き合い理解しようという姿勢が決め手だった。実際の開発でも柔軟かつ前向きで誠実に対応してくださった」と振り返る。

 MTI 船舶物流技術グループの前田佳彦グループ長代理は「開発にあたって、まずDX・BPMチームが配船業務に関わる判断要素を丁寧に整理・構造化してくれたことが大きかった」と強調する。「AIの計算能力が注目されがちだが、本質的に重要なのは、精度の高いデータを社内から集めるプロセスと、最適化結果を配船担当者が理解し、意思決定に活用できる形で可視化する仕組みだ」と語る。自動車専用船で配船システムの開発が先行した理由については「燃料消費量が多く船隊規模が大きい点もあるが、それ以上に当社の自動車船部門では配船に関する情報と業務プロセスがすでに整理されていたことが大きい」と説明した。一方、野崎氏は今回のプロジェクトでのMTI の役割を「AI 開発についてはこれまでDX・BPMチームに経験がなく、開発チームが提案する技術的な方針や進め方の妥当性をどう見極めるか、また開発チームが本当に必要とする情報は何か、要件をどのような形で整理すれば理解しやすく伝えられるのかといった判断に難しさがあった。そうした局面で、数理最適化に深い知見を持つMTIの前田さんと光嶋さんが技術面・要件整理の両面から伴走してくれたことは、このプロジェクトを前に進める上で極めて重要だった」と語った。

配船最適化の流れ

業務変革への挑戦

 自動車事業統轄グループで配船業務を担当する本橋直樹氏は、AI 配船システムの導入効果として「業務効率化に加え、ドック入りや用船契約終了時の返船ポイントといった重要条件の見落としなど、ヒューマンエラーをより回避できるようになった」と評価する。また、例えば米国通商代表部(USTR)の入港税やEUのGHG 排出規制といった外部環境の変化を条件として組み込める柔軟性も大きな利点だという。「従来は何かが起こるとExcelで試行錯誤しながら計画を組み直していたが、今は条件を変えてボタン一つで再計算でき、通常業務の負担がかなり軽減された。繁忙期の残業も減っている」と語る。さらに「AIが計画作成を支援することで、万一自分が不在でも他の担当者がバックアップに入りやすくなった。BCP(事業継続計画)の観点でも大きな意味がある」
 本格導入まで約4年を要した背景について、野崎氏は「最適化エンジンの開発だけであれば、より短期間で実現できるかもしれない。しかしAIが算出した配船計画は、人が評価・調整できる仕組みと合わせて初めて実行性を持つ。また、配船に必要な本船動静などのデータ入力まで含めたシステムと業務プロセスの構築も極めて重要だった。こうした要件を満たすUI/UXシステムは、これまでに経験した中でも、特に複雑な機能と高い精度のデータ管理が求められるものだったため、開発には相応の時間を要した」と説明する。その上で、「長期にわたる開発期間を通じて、配船・営業・運航担当などの現場の方々が日常業務のかたわらで時間を捻出して対応してくださったことに感謝している」と振り返る。
 社内には長年続けてきたやり方を大きく変えることへの抵抗感や不安もあったようだ。野崎氏は「当時、配船業務には改善の余地があると感じる点がある一方で、自動車船事業の核心中の核心であり、当時は今ほど一般に浸透していなかったAI 導入はもちろん、システム化そのものに対する社内の理解形成が極めて難しい領域だと捉えていた。それでも取り組みを前に進めることができたのは、自動車事業本部に業務改善や新たな挑戦を後押しする風土があったことに加え、これまでと同じやり方を続けていては将来がない、という当時の配船担当者の強い危機感と覚悟があったからだ」と語る。

GHG 削減にソフトウェア対策有効

 今後の展開について、野崎氏は「自動車専用船での運用を通じてブラッシュアップを続けるのはもちろん、将来的には船隊整備や関連業務との一体的な最適化にも挑戦していきたい」と述べる。
 前田氏は「GHG 削減において、ソフトウェアによるアプローチは非常に効果が高い」と指摘する。日本郵船とMTIは配船の最適化以外にも荷役時間短縮による減速航行や、積載効率向上による単位輸送当たりのGHG 排出削減などに取り組んでおり、「省エネ付加物や風力推進装置の設置、燃料転換などのハード面が注目されがちだが、コストと削減効果を考えるとソフトウェアには大きなポテンシャルがある」と語る。
 また、AIの活用などで今回のように海事産業の企業、研究機関などとのコラボレーションが増えているという。前田氏は「MTIでも、従来の造船工学系だけでなく、私も含めて情報工学や数学を学んだ人材が増えている。造船とIT、双方の技術者の知見がクロスオーバーすることで新たな価値の創出につながっている」と話し、新たなコラボレーションによる技術開発の進展に期待を寄せる。

2026年3月31日発行の海事プレス増刊号を再編集

配船最適化で期待するメリット