日本郵船「ツウ」の方へ挑戦する企業

オールジャパンで日本造船業の国際競争力復活へ 次世代船の開発・基本設計を集約、MILESに出資

オールジャパンで日本造船業の国際競争力復活へ

日本の造船業は、いま大きな分岐点に差し掛かっている。脱炭素という不可逆の潮流の中で、船はかつてないほど複雑さを増し、 設計・開発の負荷は高まった。一方で、国内造船業が抱える設計人材の不足と分散という構造問題は、個社努力の限界を超えつつある。この現実に向き合い、日本郵船は「日本造船再生」を支援する取り組みを進めている。

7社アライアンスで設計基盤を創る

 日本郵船は川崎汽船、商船三井という海運大手、そして造船大手である三菱造船、今治造船、ジャパンマリンユ ナイテッド(JMU)、日本シップヤード(NSY)ともに、次世代船の共通基本設計を開発し、国内造船所へ展開する「標準設計スキーム」の構築に踏み出した。対象は、液化二酸化炭素(LCO2)輸送船やアンモニア燃料船をはじめとする新燃料船。脱炭素時代の主戦場となる船型群だ。
 その中核を担うのが、三菱重工業と今治造船の合弁会社MILES(旧MI LNGカンパニー)だ。日本郵船は他の6社とともにMILESへ出資し、同社を母体とした開発・基本設計の体制を構築する。船のユーザーである船会社と作り手である造船所が共通の設計基盤を築く。日本の海事産業にとって、これまでありそうでなかった枠組みが、現実のものとなった。
 日本郵船はかねて、日本造船業の国際競争力回復を自らの責務として捉えてきた。「日本の造船所には競争力をいっそう高めてもらいたいと思っている」。曽我貴也社長はこう語る。そのために、海運の立場からできることに着手している。
 造船業は設計段階におけるマンパワー不足に陥っている。人材を呼び込む土壌づくりはもちろん不可欠だが、 同時に「限られた人数で、いかに効率よく設計できるか」「造船プロセスをどれだけ合理的に回せるか」が、競争力につながる。その解の一つが、MILESを核とした次世代船の開発・基本設計の集約だった。
 LCO2船や新燃料船は、一般的な商船と比較して検討項目が格段に多く、開発・設計工数は膨大だ。しかし、日本の造船業界では設計リソースが各社に分散し、全体として不足している。この非効率を打破するために浮上したのが、「日本版SDARI」という発想だった。
 中国では、上海船舶設計研究院(SDARI)などが基本設計を一手に担い、造船各社がその標準図面を活用するモデルが確立している。日本でも同様に、共通の基本設計を起点とした分業体制が模索されてきた。MILESに海運・造船各社が出資することで、同社は「日本海事クラスターの共同デザインセンター」としての性格を強めることになる。

業界の垣根を越えた連携へ

 重要なのは、船舶の発注者である海運会社自身が、日本における業界の垣根を越えた連携を加速するためにMILESへ出資を決めたことで、これにより、MILESを核とした設計スキームを活用して多くの国内造船所での建造促進に取り組んでいくことになる。そのために「仕様の共通化」も検討する。
 「同じ形の船を複数の造船所が造り、それを複数の船会社が使うような標準化ができれば、効率化と合わせて、人手不足や工期長期化への対応にもなる」(曽我社長)
 2025年、国は造船業再興に向けた支援策を打ち出し、2035年に建造能力1800万総トンの回復という目標を掲げた。官民合わせて1兆円規模の投資も具体化する。しかし、建造量を増やすだけでは国際競争には勝てない。設備投資と並行して、設計のあり方そのものを変え、海運・造船の連携を深める必要がある。
 設計・開発手法の刷新に向けた取り組みも動き出している。東京大学の社会連携講座「海事デジタルエンジニ アリング講座(MODE講座)」によるモデルベース開発の研究に加え、大阪大学では人工知能(AI)を船舶設計に 適用する共同研究講座「先進海事システムデザイン共同 研究講座(OCEANS)」が始動。さらに内閣府の「経済安全保障重要技術育成プログラム(Kプログラム)」として、シミュレーション基盤の開発もスタートした。これらは、日本郵船グループで研究開発を担うMTIが先導してきた挑戦でもある。
 日本郵船の長澤仁志会長は、「日本海事クラスターを 魅力ある産業として復権し、未来へ引き継いでいくことは、今ここにいる私たちの責任だ」と語ってきた。現在は日本船主協会会長として、その思いを業界全体へと広げている。
  政府支援、設備投資、設計革新、そして標準化――。 「2030年に次世代船で世界トップシェア」「2035年に建造量1800万総トン」という高い目標を掲げる日本造船業の挑戦を日本郵船はユーザーとして支える。

2026年3月31日発行の海事プレス増刊号を再編集