これが私たち日本郵船の「仕事」です日本郵船グループの取り組み

(前編)船でロケット回収、日本郵船が切り拓く新しい宇宙インフラ

宇宙事業世界観図

海の上でロケットを打ち上げ、その機体を回収する。宇宙という新たな事業領域に、日本郵船は挑戦しています。宇宙分野では近年、民間企業による取り組みが広がり、技術開発が加速しています。当社は2024年12月、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の宇宙戦略基金事業に採択され、再使用型ロケットの洋上回収システムの開発を進めています。
今回から、日本郵船の宇宙事業を前編・中編・後編の全3回にわたって紹介します。

繰り返し使うために不可欠な「回収」

再使用型ロケットは、一度打ち上げた機体を回収して繰り返し使用することで、宇宙輸送のコストを大きく下げる可能性を持つ技術として世界的に開発が進んでいます。これまでロケットの打ち上げは高コストで実施頻度にも限りがありましたが、再使用によって打ち上げの高頻度化も期待されています。その実現に向けては、打ち上げ後の機体を安全かつ確実に回収し、次の打ち上げにつなげる仕組みが不可欠です。
こうした中、当社は海運で培ってきた技術を活かし、この新たな分野に参入しました。開発中のシステムでは、無人の回収船と有人の司令船による2隻体制を想定しています。陸から離れた海上でロケットを回収船が受け止め固定し、安全な状態にした上で司令船と回収船が連結、港まで輸送します。この回収は、単に「着地させる」だけではありません。着陸直後のロケットには高温や残留燃料といったリスクが伴うため、それらを適切に処理しながら安全に輸送する必要があります。こうした一連のプロセスを海上で実現する点が、このシステムの特徴です。

洋上回収システムにおける無人回収船(イメージ)

洋上回収システムにおける無人回収船(イメージ)

有人司令船(イメージ)

有人司令船(イメージ)

すでに日本海事協会(ClassNK)から、システム全体の技術的な実現可能性を確認するコンセプト承認(AiP)を取得しており、現在は各要素技術のさらなる開発に取り組むとともに、地上・洋上での実証試験に向けた検討が進められています。
このプロジェクトは三菱重工をはじめとする複数企業との連携で進められており、宇宙産業と海事産業のそれぞれの技術を融合させることで、これまでにない宇宙インフラの構築を目指しています。海運会社が宇宙輸送の一端を担うという点でも、注目される取り組みです。

海運で培った強みを宇宙に展開

総合物流企業として陸・海・空へと展開を拡げてきた当社にとって、宇宙は新たな事業フィールドです。一方で、日本郵船グループがこれまで培ってきた技術や知見は、この分野でも十分に活かすことができます。例えば、風や波の影響を受ける海の上でも、GPSや推進装置を用いて船の位置を自動的に保ち続けるダイナミック・ポジショニング技術は、ロケット回収において不可欠です。上空から降下してくるロケットを正確な位置で受け止めるためには、高い精度で船をその場に留めている必要があります。
開発中の自動運航技術も、無人運用を支える重要な要素となります。ロケット回収時には、爆発などのリスクを回避するため、人が乗らない状態での運用が前提となることから、回収船は完全無人の想定で開発を進めています。
さらに、日本周辺の海域は天候や海の状態が厳しいことで知られており、そのような環境下でも安定して回収・輸送を行うためには、海運会社として長年蓄積してきた安全運航や輸送のノウハウが重要な役割を果たします。また、衛星の輸送で実績をもつ郵船ロジスティクスなど、グループ会社の知見も活かされます。
このように、これまで海運をはじめとする総合物流の現場で培われてきた技術は、宇宙分野においても基盤となる役割を果たします。特に、海上での位置保持や安全運航といった技術は、洋上で精密な作業を行ううえで欠かせない要素であり、長年の実績に裏打ちされた強みとして活かされています。
当社の宇宙事業は、社内研修制度「NYKデジタルアカデミー」で若手社員が提案したアイデアを起点としています。海運を中核とした事業で培ってきた強みを活用し、新たな事業を創出するという発想から、当初は洋上でのロケット打ち上げ構想としてスタートしました。その後、ロケット回収技術の共同研究を経て現在の事業へと発展しています。

宇宙分野において当社が担う役割は、単なる輸送にとどまりません。ロケットの打ち上げ・回収といったインフラ提供から、衛星データの活用や物流への応用まで、宇宙産業のバリューチェーン全体に関与することを視野に入れています。特に、再使用型ロケットの回収は、ロケットの打ち上げで課題となっているコストの低減と打上頻度の向上に直結する重要な領域で、宇宙産業全体の成長を支える基盤となります。当社では2023年度からの中期経営計画で宇宙関連事業を新規事業の1つとして位置づけ、2023年4月にこの分野の事業を開発する先端事業・宇宙事業開発チームを発足しました。
これまで培ってきた高品質な輸送サービスとその技術の応用により、新たな価値創出を図るとともに、将来的には宇宙と物流を結びつけた新たな事業機会の創出を目指します。

洋上回収船を実現する主要技術

回収船と司令船の2隻体制での実施を想定する洋上回収システムでは、2隻一体となって回収海域まで航行し、ロケットの回収作業を行うことを想定しています。司令船が回収船を回収海域で切り離し、回収船は回収地点にとどまりながら落下するロケットの着地地点としての役割を果たします。着地後はロケットを安全に固定し、司令船が回収船と連携しながら港へと戻るかたちです。

ロケットの洋上回収の流れ

ロケットの洋上回収の流れ

このシステムを実現するためには、複数の高度な技術を組み合わせる必要があります。日本郵船が取り組む宇宙戦略基金事業では、その中核となる要素技術の開発が進められています。
具体的には、降下してくるロケットを短時間で捉える「機体捕獲技術」、回収後に機体を固定し、残った推進薬を安全に処理する「安全化技術」、ロケット着陸時の高温ガスや衝撃に耐える「着陸用甲板」、そしてこれら一連の作業を遠隔で行うための「遠隔運用技術」等です。
これらの技術はそれぞれが独立しているわけではなく、一体のシステムとして連携することで初めて機能します。海上でロケットを確実に回収し、安全に輸送するためには、すべての要素が高い精度で連動することが求められます。
現在はこれらの技術について検討・開発を進めるとともに、地上と洋上での実証試験を通じて実現性の検証を行う計画です。当社は三菱重工をはじめとするパートナー企業と連携しながら、洋上回収という新たな技術領域の確立に取り組んでいます。
いずれの技術も高度な専門性を必要としますが、当社がこれまで培ってきたノウハウを結集し、宇宙と海運という異なる分野の技術が融合することで、これまでにない新しいインフラの実現に貢献していきます。
この連載では次回から、宇宙事業に関わる若手技術者に当社が研究開発を主導する各要素技術(定点保持・着陸用甲板・遠隔運用技術・洋上回収船開発)への取り組みを聞いていきます。