これが私たち日本郵船の「仕事」です日本郵船グループの取り組み

グループの総力で創る、電気推進タグボートに挑む若き技術者たち(前編)

日本郵船株式会社 技術開発グループ プロジェクトエンジニアリングチーム

国産の電気推進タグボートをゼロから創り上げる――。日本郵船、京浜ドック、内海曳船の日本郵船グループ3社が開発・設計・建造・運航を一体で進める前例のないプロジェクトに挑んでいます。タグボート(曳船)は、大型船を押したり引いたりしながら入出港を支える小型船です。船主である当社自ら設計に踏み込み、グループの造船所や運航会社と連携して全く新しい船を生み出す共創の現場では、熱き思いを持った20代~30代の技術者がよりよい船を追求しています。プロジェクトの実像を前編と後編に分けてインタビュー形式で紹介します。

日本郵船株式会社 技術開発グループ プロジェクトエンジニアリングチーム 前田晃佑(左)小大塚直樹(右)

日本郵船株式会社 技術開発グループ プロジェクトエンジニアリングチーム
前田晃佑(左)小大塚直樹(右)

京浜ドック株式会社 追浜工場 設計部設計課 係長 矢野太郎(左)竹田博文(右)

京浜ドック株式会社 追浜工場 設計部設計課
係長 矢野太郎(左)竹田博文(右)

開発・設計・運航を一体でつなぐ

――2024年からスタートしたプロジェクトは、2026年度末の運航開始に向けていよいよ、造船所である京浜ドックで建造が始まりました。プロジェクトの特徴について教えてください。

前田:最大の特徴は、電気推進船の心臓部となるモータードライブシステム(電気でモーターを動かし、船を推進するための中枢システム)に国内有数のパワーエレクトロニクス機器メーカーである㈱TMEICの製品を採用していることです。当社ではこれまでも電気推進船を運航してきましたが、モータードライブシステムは海外メーカー製を採用するケースがほとんどでした。今回のプロジェクトでは国産モータードライブシステムを採用し、国内メーカーと協力して開発を進めています。

矢野:モータードライブシステムを国産化したことに加えて、日本郵船がシステムインテグレーター(複数の機器を組み合わせ、船全体として機能させる司令塔)となり、開発、設計、建造、運航まで日本郵船グループ内で進めていることも大きな特徴です。

前田:船主が日本郵船、建造造船所が京浜ドック、その船を運航するのが内海曳船という、グループ3社で取り組んでいます。開発から運航までの全てのフェーズで密に連携することで、より良い船を創るためのシナジーが生まれます。また、建造や運航に関する知見を蓄積し、フィードバックに繋げられるため、電気推進船が普及する未来にもつながるプロジェクトであると考えています。

小大塚:本船を無事完成させることはもちろんのこと、将来的な展開として、バッテリーを搭載した電気推進船を、今後計画されるタグボート及び国内輸送を担う内航船全体に広げていくことも見据えています。電気推進には脱炭素という側面に加え、静粛性や振動低減による乗組員の居住性向上、さらにはメンテナンス負担の軽減といったメリットもあります。
内航分野では人手不足が深刻化しており、こうした付加価値によって業界のさらなる魅力向上に貢献していくことが重要だと考えています。また、内航では日本メーカーによるサポート体制や日本語での対応といった点も大きな安心材料になります。そのため、モータードライブシステムを始め国産化を進めたことは、今後の普及にも寄与すると考えています。


――日本郵船は海運事業で外航船を主としていますが、内航船にも注目している理由は。

小大塚:バッテリーの搭載は外航船でも採用が進んでいますが、主推進動力源として搭載する場合には航続距離に制約が生じます。一方で内航船は、バッテリーを利用した電気推進との親和性が高く、内航分野でその利用や電気推進技術に関する実績と知見を蓄積していくことも必要であると考えました。また、脱炭素に向けた取組みの推進や、より魅力的な船上環境の構築を通じて、目指したい姿に向けて日本の海事産業全体をリードしていくという観点からも、この取り組みには意義があると考えています。コスト面など課題はありますが、段階的な普及を目指して取り組んでいます。

船主自らが設計に踏み込む

――日本郵船の技術開発グループが船のコンセプトや基本となる設計を行いました。通常は造船所が行う設計に、船主が関与する意義についてはどう考えていますか。

小大塚:造船所は、人手不足や船に求められる要求の高度化といった課題を抱えており、船主側が望むタイミングで新しい設計に対応する余力が常にあるとは限らない現状があります。その中で、船主側がコンセプトを決める段階から関与し、具体的な形まで落とし込むことで開発スピードを高めることを目指しています。そのためには、われわれ船主自身がエンジニアリング能力を高めることが重要との考えから、2021年に自身でエンジニアリングを担う組織である「プロジェクトエンジニアリングチーム」を設置し、経験を重ねてきました。その実践の1つが今回のプロジェクトです。

――プロジェクトエンジニアリングチームはこれまでもアンモニアを船舶燃料として供給する船や多目的コンテナ船のコンセプト設計、基本設計を行ってきました。

小大塚:コンセプト設計、基本設計に取り組んできたほか、就航船の改造プロジェクトについては工事の施工まで完遂した実績がありましたが、新コンセプトの船を一から創るプロジェクトは今回が初めてです。われわれは船舶設計の上流に位置づけられるコンセプト設計、基本設計に加え、システムインテグレーターとして建造中のサポートも行い、京浜ドックに伴走していきます。

従来船と同等以上の性能を追求

――矢野さんと竹田さんは京浜ドックの設計部門に所属しています。今回のプロジェクトで、設計プロセスにおける特徴はありますか。

矢野:当社が普段取り扱うタグボートは基本的に平面(2次元)の図面を用いますが、今回は3D(3次元)モデルを用いました。当社ではタグボートの「魁(さきがけ)」をLNG燃料船からアンモニア燃料船へと改造する際にも3Dモデルを活用した経験があります。詳細設計のフェーズでは、通常は船のセクションごとに搭載機器などを順番に決めていくのですが、3Dモデルを使うことで、並行してさまざまな検討を進めることができます。また、電気推進タグボートは通常のディーゼル機関を搭載したタグボートと比べて、電線の量が約3倍にもなります。電線と配管が干渉することを避けるために、3Dモデルを使って設計していくことは非常に有効でした。


竹田:前例のない設計であったことはチャレンジでもありました。私は船体構造の設計を担当しているのですが、従来のタグボートは、当社で建造した実績のある船型を基にして、中身をアレンジしていきます。このため、中身が特殊な構造であっても、建造の現場は経験がある分、造りやすさがあります。一方、今回は日本郵船が目指すコンセプトを一から設計に落とし込んだので、建造部門と相談を重ねながら進めていきました。

前田:船型開発も行いました。より多くのバッテリーを搭載しようとして船体の幅を広げると、そのままであれば速力が落ちてしまいます。それを従来船と同等以上の性能を得るために、船首や船尾の形、航行姿勢などを検証し、最適な船型を探っていきました。

小大塚:タグボートは船を曳航するだけでなく消防や警戒などさまざまな業務を兼ねるケースも多いです。大型船の周囲で安全を確保する警戒業務ではある程度の船速が必要になります。つまり、速さと船を押したり引いたりするパワーの両立が求められる中で、その両方を高いレベルで実現したのが今回の設計の特徴です。本船は同出力の電気推進タグボートとしては最高レベルの速力15ノット、曳航力54トンという能力を実現します。これは消防・警戒を含めた幅広い業務に対応可能なタグボートとして十分な性能レベルになります。

ハイブリッド型で汎用性を持たせる

――今回の船はバッテリーからの電力だけで走る船ではなく、バッテリーと発電機とのハイブリッド方式を採用していますね。

前田:タグボートの運航データを分析した結果、発電機を組み合わせたハイブリッド方式を採用することにしました。技術的には、バッテリー単体よりもハイブリッドの方がシステム設計の難易度は高くなります。バッテリーの残量を維持しながら発電機との負荷バランスを最適化する必要があり、その制御設計が重要なポイントとなります。また、ハイブリッドの知見を獲得することで将来的な拡張性も期待できます。

小大塚:将来展開を見据えたときに、フェリーなど航路や船速が一定に決まっている船であればバッテリーだけでの運航を計画しやすいですが、航路が完全に限定されていない貨物船ではより運用面に留意する必要があります。ハイブリッドにすれば、基本的にはバッテリーのみで運航し、ややイレギュラーな運用ではハイブリッドで運航する、といった形で、幅広い運用への対応が可能となります。このように汎用性も考慮した結果ということになります。


※後編では、建造の現場で交わされる議論と挑戦の最前線を、技術者たちの言葉でお届けします。