日本郵船ってどんな会社?船の世界

LNG船 ― 「気化する貨物」がエンジンを進化させた 日本郵船これくしょん#12

メンブレンタンク、ディーゼル機関を搭載した最新鋭のLNG船

メンブレンタンク、ディーゼル機関を搭載した最新鋭のLNG船
https://www.nyk.com/news/2026/20260805_01.html

天然ガスを-162℃の液体に― LNG船が運ぶクリーンエネルギー

天然ガスを海上輸送するための専用船が「LNG運搬船」(以下、LNG船)です。 発電や都市ガスなど、私たちの暮らしを支えるエネルギーの一つである天然ガスは、メタンを主成分とする可燃性のガスで、石炭や石油に比べて燃焼時の二酸化炭素(CO2)排出量が少ないという特徴があります。環境にやさしいクリーンエネルギーとして、世界的に需要が高まっています。

この天然ガスを大量に海上輸送するために欠かせないのが、液体にして運ぶという工夫です。天然ガスをおよそ-162℃という極低温まで冷やすと、無色・無臭の液体になります。これがLNG(液化天然ガス/Liquefied Natural Gas)です。液化すると体積は気体のときの約600分の1まで小さくなるため、大量の天然ガスを一度に運べるようになります。
海上ではさまざまなタンカーが液体貨物を運んでいます。VLCC(大型原油タンカー)は大量の原油を運び、プロダクトタンカーはガソリンや軽油、ナフサといった石油製品を、ケミカルタンカーは多種類の化学品を輸送します。LNG船もタンカーの一種ですが、ほかとは大きく異なる特徴があります。それは、LNGを-162℃という極低温に保ちつつ、さらに気化したガスも適切に管理しながら輸送をする必要があることです。このLNGならではの性質が、貨物タンクの構造や、船を動かすエンジンの進化にも大きな影響を与えてきました。

極低温に耐える特殊タンク― LNGを冷やし続けるしくみ

LNGは極めて低い温度で液体の状態を保っています。そのため、一般的な液体を入れるタンクにそのまま積むことはできません。LNG船の貨物タンクには極低温に耐えられる材料が使われ、外から熱が入りにくいように防熱が施されています。また、-162℃という低温が船体に直接伝わらないようにすることも重要です。

こうした防熱処理を施していても、航海中は外気の影響で時間とともにタンク内の温度は上昇していきます。そこで、液体が気体になるときに周囲から熱を吸収する作用(気化熱)を利用して温度を下げます。具体的には、貨物であるLNGをスプレーポンプで吸い上げてタンク内に噴出し、強制的に気化させています。一方で、防熱材を通じて外部から入る熱によっても、LNGの一部は航海中に自然に気化しています。

航海中のLNGタンクの冷やし方

LNG船の貨物タンクにはいくつかの方式があります。代表的なのが「モス型」と「メンブレン型」です。モス型では、大きな球形の独立したタンクを船体に搭載するため、甲板上に球形タンクの一部が突き出した独特の外観になります。一方、メンブレン型では、船体内部に薄い金属膜と防熱材を組み合わせた貨物格納システムを設けます。

モス型・メンブレン型

このほか、四角い独立タンクを使う「SPB(Self-supporting Prismatic Shape IMO type B)型」もあります。
こうした貨物タンクの技術が発展する一方、世界的なLNG需要の拡大に伴い、LNG船そのものも大型化していきました。世界初の商業LNG船「メタン・プリンセス」は1964年に竣工し、LNGの積載容量は2万7400立方メートルでした。その後、LNGの需要拡大に伴って船は急速に大型化し、1970年代には12万5000立方メートル型が登場しました。この大きさが長くLNG船の標準的な船型となりました。1990年代には13万5000立方メートル型、2000年代以降はさらに大型の船が建造されるようになりました。
現在では17万立方メートル型のLNG船が広く建造されています。ただし、LNG船は大きければ大きいほどよいというわけではありません。大型のLNG船としては、21万立方メートル型や26万立方メートル型もありますが、これらの船は中東カタールからの輸送に特化した船型です。カタール用にはさらに大型になる27万立方メートル型の建造も予定されています。LNG船は積み地や揚げ地のLNGターミナルに接岸して荷役をするため、港の水深や桟橋、荷役設備などに合わせた大きさにする必要があります。船だけでなく、陸上側の設備とも一体になってLNGの輸送は成り立っているのです。

液体から気体へ。「気化する貨物」と向き合う

LNG船の貨物は、航海中にその一部が液体から気体へと変化します。貨物タンクは厚い防熱材で覆われていますが、外から入ってくる熱を完全に遮断することはできません。そのため、タンク内のLNGは少しずつ自然に気化して天然ガスに戻ります。この気化したガスを「BOG(Boil-off Gas)」と呼びます。船の揺れもBOGが生じる原因の一つです。LNG船にとって、このBOGをどう扱うかは非常に重要です。気化したガスをそのままタンク内に貯め続ければ、内部の圧力が高くなってしまいます。発生し続けるBOGを安全に処理しなければなりません。LNG船には、誕生したときからこの課題がついて回りました。

そこで考えられたのが、BOGを船の燃料として使う方法でした。積み荷から自然に発生したガスを捨てるのではなく、船を動かすエネルギーとして利用する。この「BOGをどう処理し、いかに有効に使うか」という問いへの答えを追い続けてきたことが、LNG船のエンジンの進化につながりました。

船舶のエンジンはディーゼルエンジンと蒸気タービンエンジンに大別されます。一般の商船ではディーゼルエンジンへの移行が早くから進みましたが、LNG船では蒸気タービンが長く使われ続けました。その大きな理由がBOGでした。

蒸気タービンエンジンを搭載したLNG船では、貨物タンクから生じたBOGをボイラーで燃やして水蒸気を発生させ、その高温高圧の水蒸気でタービンを回します。タービンの回転をプロペラに伝えることで、船を前に進めます。BOGだけでなく、一般的な船舶燃料である重油も使うことができ、構造が比較的シンプルで信頼性も高かったため、LNG船と非常に相性の良い推進方式でした。

タービン機関

蒸気タービンエンジンからディーゼルエンジンへ

一方で、蒸気タービンには弱点もありました。燃料を使って得られるエネルギーを推進力に変える効率が、ディーゼルエンジンに比べて低いことです。LNG船の大型化が進み、燃料価格も上昇する中で、より少ない燃料で船を動かす技術が求められるようになりました。

そこで2000年代半ばから普及したのが「DFDE(Dual Fuel Diesel Electric)」と呼ばれる方式です。天然ガスと重油の両方を使うことができるディーゼルエンジンで発電し、その電気でモーターを回してプロペラを動かします。蒸気タービンよりも燃料を効率よく使うことができ、BOGも引き続き船の燃料として活用できることから採用が広がりました。複数の燃料を使用できるディーゼルエンジンとしては、天然ガス、重油に加えて、舶用ディーゼル油などを使用できる「TFDE(Tri-Fuel Diesel Electric)」方式も登場しました。

ガスだきディーゼル電気推進機関

そしてLNG船のエンジンは、さらに次の段階へ進みます。2000年代にDFDE/TFDE方式が普及した後、2010年代半ば以降は、BOGと重油の両方を使うことができる低速2ストロークのガス焚きエンジン(X-DFエンジン)が広く採用されるようになりました。DFDE/TFDEでは、エンジンで発電し、その電気でモーターを回してプロペラを動かしていました。これに対してX-DFエンジンでは、エンジンの回転を直接プロペラに伝えることができます。モーターを介する必要がないため、エネルギーの変換に伴う損失が少なく、燃料消費を抑えながら効率よく航行できるようになりました。この優れた燃費性能から、現在建造されるLNG船では、こうした低速2ストロークのガス焚きエンジンが主流となっています。

ガスをボイラーで燃やして蒸気をつくる蒸気タービンから、ガスなどを用いてディーゼルエンジンで発電してモーターを回すDFDE/TFDEへ。そして、ディーゼルエンジンでガスなどを燃やし、直接プロペラを回す方式へ。LNG船は時代とともに、より効率よく航海する方法を手に入れてきました。その進化の裏側には一貫して、「航海中に発生するBOGをどう無駄なく使うか」という問いがありました。

LNG輸送の効率化という終わりなき挑戦

BOGへの挑戦は今も続いています。貨物タンクでは防熱性能を高めることで、そもそもBOGの発生量を少なくする技術が進んでいます。また、発生したBOGを冷やして再びLNGに戻し、貨物タンクへ返す「再液化装置」を備える船もあります。燃費効率を高める技術開発も進んでおり、より効率的な輸送が追求されています。

一方、天然ガスを船の燃料として利用する上では、新たな課題もあります。その一つが「メタンスリップ」です。天然ガスの主成分であるメタンの一部がエンジン内で燃えきらず、大気中に排出される現象で、メタンには強い温室効果があります。このため、燃焼技術の改良などによってメタンスリップを少なくする取り組みも進められています。

より多くのLNGを、より少ないエネルギーで、そして安全に運ぶ。そのためにLNG船では今も、貨物タンク、エンジン、船体などさまざまな部分で技術開発が続いています。

40年の知見を次の時代へ。日本郵船とLNG輸送

日本郵船がLNG船事業に参入したのは1983年。インドネシアから日本へとLNGを運ぶ事業でした。それから40年以上にわたりLNG輸送に取り組み、日本向けの輸送だけでなく、欧州やアジアなどさまざまな国へとクリーンエネルギーを届けています。今後もアジアを中心にLNGの需要が増えていく見通しです。LNGの供給地も、中東やオーストラリアなど従来の地域に加え、近年は米国の存在感が高まっています。供給地が広がれば、LNGを運ぶ航路も長く、多様になり、海上輸送が果たす役割も大きくなります。

日本郵船がLNG船の運航を通じて培ってきた経験は、LNGそのものを運ぶことだけにとどまりません。天然ガスを「貨物」と「燃料」の両方として扱ってきたことで得られた知見は、LNGやアンモニアなどを燃料として使う船にも生かすことができます。