「海を利用する会社」から「海を支える会社」へ 日本郵船が描くネイチャーポジティブ
公開日:2026年09月29日
更新日:2026年09月29日

2026年7月、日本郵船は熊本市で開催された「グローバル・ネイチャーポジティブ・サミット(GNPS)2026」に参加しました。この国際サミットでは、世界各国から企業や金融機関、政府、国際機関、研究者などが集まり、「ネイチャーポジティブ」を理念から具体的な行動へどうつなげるかをめぐって幅広い議論が交わされました。当社もパネルディスカッションや分科会への登壇、展示会への出展を通じて、海運会社として「ネイチャーポジティブ」にどう向き合うのか、その考え方や取り組みを発信しました。
ネイチャーポジティブは「理念」から「実装」へ
「ネイチャーポジティブ」とは、自然の損失を食い止め、回復へと転じさせることを目指す考え方です。2022年、196の国・地域が参加する生物多様性条約の会議で「昆明・モントリオール生物多様性枠組」が採択され、2030年までに「ネイチャーポジティブ」の実現に向けた行動を推進することが世界共通の目標となりました。
2030年まで残された時間は4年。いま、その目標を企業活動や政策、地域での取り組みなど、具体的な行動に移すことが求められています。
こうした世界的な流れを背景に開催された「グローバル・ネイチャーポジティブ・サミット(GNPS)2026」。2024年にオーストラリア・シドニーで初開催され、2回目となる今回の熊本には、企業や金融機関、政府、国際機関、研究者、市民社会など、世界各国から多様な立場の関係者約2700人が集まりました。
GNPSで議論の中心となったのは、「ネイチャーポジティブ」を実際の社会や経済の中でどう形にしていくかということです。企業経営や金融の意思決定に自然への視点をどう取り入れるか、自然への影響をどう測り、情報開示や地域との連携につなげるか。さまざまな立場から、具体的な行動に向けた幅広い議論が交わされました。
日本郵船もGNPSに参加し、海運会社の立場からこうした議論に加わりました。海という豊かな自然環境に支えられて事業を営む海運会社にも、「ネイチャーポジティブ」の実現に向けて果たすべき役割があります。
「海洋は、世界経済を根底から支える自然資本」
国際海運は、世界の貿易量の約9割を担う重要な社会インフラです。同時に、世界の海を舞台とし、海洋環境と密接に関わる産業でもあります。船舶の運航に伴う温室効果ガスの排出は、気候変動を通じて海水温の上昇や海洋酸性化などにもつながります。水中騒音や外来種の移動など、海洋生態系との接点は多岐にわたります。
日本郵船は、代替燃料や省エネルギー技術の導入、運航効率の改善などを通じて環境負荷の低減を進めてきました。これに加え、海という自然そのものに目を向け、その状態を知り、健全性を守り、回復につなげていくことも一層重要になっています。
今回、GNPSで行われた「海のネイチャーポジティブ」と題したパネルディスカッションには、当社常務執行役員の筒井裕子が登壇し、海運会社として「ネイチャーポジティブ」にどう向き合うか、日本郵船の考え方を説明しました。
「真に持続可能な海運業を実現するため、私たちは『海を利用する会社』から『海を支える会社』への転換を目指しています」
常務執行役員・サステナビリティ戦略本部長 筒井裕子(中央)
この背景にあるのが、脱炭素化と海洋環境の保全を切り離さずに捉える考え方です。
「私たちは、脱炭素化と海洋環境の保全を別々の課題ではなく、表裏一体のものと捉えています。私たちの脱炭素化の取り組みは、単に温室効果ガスの排出量を削減するためだけのものではありません。海洋の健全性を守るための取り組みでもあります」
日本郵船は「海を支える会社」への転換に向け、さまざまな取り組みを具体化しています。これらの活動は、大学や研究機関、地域社会、NPO、パートナー企業など、多様なステークホルダーとの連携によって進められています。海の状態を知るための調査から、森林・河川・沿岸の自然再生まで、そのフィールドは広がっています。
<海を知る>
●環境DNA調査
運航船を活用して海水を採取し、環境DNAを用いた調査を通じて、海に生息する生物の種類や分布の把握につながるデータの蓄積に貢献しています。
●海洋マイクロプラスチック調査
運航船を活用して外洋のマイクロプラスチックを採取し、その分布や実態を把握するためのデータ収集を進めています。
<自然を回復させる>
●愛知県・佐久島での藻場再生
アマモの苗付けや寄付を通じて、佐久島での藻場再生活動を支援しています。藻場は、多様な海洋生物の生息・産卵・成育の場として重要な役割を担っています。
●フィリピンでの河川再生
フィリピンの河川回復プロジェクトを支援し、河川の浄化や廃棄物の海洋流出防止を通じて、河川から海へとつながる環境の改善に取り組んでいます。
●森林再生プロジェクト「ゆうのもり」
静岡県御殿場市で、人工林を多様な植生の森へ再生する取り組みを進めています。「豊かな森林は豊かな海を育む」という考えのもと、森林の機能回復を海洋環境の保全にもつなげています。
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海を単なる輸送の場ではなく、世界経済を根底から支える「自然資本」と捉える――。その考え方が、日本郵船の一つひとつの活動につながっています。
ネットゼロとネイチャーポジティブを共に
GNPSでは、全体セッションに加え、さまざまなテーマの分科会が開かれました。その一つ、「気候と自然の両立を探るバイオ燃料」と題した分科会に、当社サステナビリティ経営企画チーム長の藤原愛之が登壇。海運の立場から、燃料転換に向けた日本郵船の考え方や取り組みを発信しました。
バイオ燃料は温室効果ガスの削減に貢献する一方、原料の生産方法や土地利用によっては、森林や生態系に影響を及ぼす可能性もあります。そのため、気候変動対策と自然環境の保全を一体で考えることが重要です。
サステナビリティ経営グループ・サステナビリティ経営企画チーム長 藤原愛之
日本郵船は、バイオ燃料の活用に加え、アンモニアやメタノールなど複数の次世代燃料に対応する船舶の整備を進めています。燃料転換では温室効果ガスの削減を推進するだけでなく、複数の選択肢を持ち、自然環境への影響や安全性も踏まえながら、それぞれの特性を見極めることが重要です。分科会では、荷主、金融機関、NGO、研究者など異なる立場が知見を持ち寄り、ネットゼロとネイチャーポジティブの両立に向けた議論を深めました。
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自然資本を未来へ
GNPSと併催された展示会「NATURE TECH!」では、「海への恩返し」をテーマに日本郵船のブースを出展しました。環境DNA調査や海洋マイクロプラスチック調査などを紹介し、企業関係者から地元の小中学生まで幅広い来場者が訪れました。来訪者からは「どの海域で海水を採るのか」「調査の先には何があるのか」といった、取り組みの一歩先に踏み込む質問も寄せられました。
サステナビリティ経営グループ・サステナビリティ経営企画チーム課長代理 加藤恵利子(左)
GNPSや展示会では、異なる立場の参加者との対話を通じて、さまざまな問題意識や知見に触れる機会となりました。会場で生まれたつながりも、今後、海運にとってのネイチャーポジティブを考えていく上での一つの起点となります。
海という自然資本を守り、将来世代へ引き継いでいくことは、日本郵船の責任であると同時に、海運業界の持続可能性を高めることにもつながります。
自然保全を単なるコストではなく、社会の基盤となる資産への投資として捉えていく。そうした視点を持ちながら、日本郵船はネットゼロとネイチャーポジティブの双方を見据え、「海を支える会社」への歩みを進めていきます。











