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海運会社の業績の仕組みとは?世界情勢や市況(運賃)変動が与える影響を徹底解説

世界情勢や市況

「海運会社の業績は、なぜこれほど激しく変動するのだろうか」と疑問に思ったことはありませんか? 近年、世界規模の大きな出来事が立て続けに起こっており、現在も中東情勢が世界を揺さぶっています。

海運業は、資源・エネルギーから製品まで、さまざまな貨物の輸送を通じて世界経済と人々の暮らしを支えています。一方で、海運市況は世界の経済情勢や地政学リスク、自然災害など様々な要因の影響を受けるため、企業業績も大きく変動する特徴があります。
そこで本稿では、様々な事象が海運マーケットや海運会社の業績にどのような影響を与えるのか、そのメカニズムを近年の事例を交えながら解説します。

海運会社の業績を左右する「需要と供給」の基本メカニズム

海運会社の売上高(※)は、単純に言えば海上輸送サービスの対価である運賃と、輸送する貨物量の掛け算で決まります。そして運賃水準(海運市況)は、貨物の輸送需要と、それを運ぶ船舶の供給量のバランスによって刻々と変動しています。

通常、海運市況の変動は緩やかですが、世界規模の金融危機や国家間の対立、大規模災害などが発生すると、急激に上昇または下落する傾向があります。これは、大きな出来事が海運の需要と供給の双方に直接的な影響を与えるためです。
※実際には運賃収入や貸船料など複数の収益源から構成されていますが、本稿では市況の影響を受けやすい運賃にフォーカスして解説します。

需要面の変動要因(1):世界的な「消費と生産」の動向

世界的な「消費と生産」の動向

では、様々な出来事が海運の需要と供給に具体的にどのような影響を与えるのか、近年の事例を交えながら説明します。
まず貨物の輸送量に影響するのは、工場や発電所、自動車・航空機などで使用される燃料や、製品の原料、そしてそれらから生産された製品の消費量です。消費量は景気が良くなると増加し、悪化すると減少します。それに伴い海運の輸送需要も増減します。2008年のリーマン・ショックのような経済危機では、世界的に消費が急速に冷え込み、貨物輸送量の減少を通じて運賃が急落しました。
貨物輸送量は消費側だけでなく、製品の供給側の事情でも変動します。2011年の東日本大震災では自動車部品工場の被災により自動車メーカーが減産を余儀なくされ、その結果、完成車の海上輸送量が急減しました。近年では半導体不足による自動車の生産制約も、完成車輸送に影響を与えました。

需要面の変動要因(2):地政学リスクによる「輸送距離」の長距離化

海運の需要を決めるもう一つの重要な要素が輸送距離です。同じ貨物でも輸送距離が2倍になれば、輸送に要する時間が長くなるため、必要な船腹量(輸送キャパシティ)もおおむね2倍になります。海運業界では、この「貨物量×輸送距離」を「トン・マイル(Ton-Mile)」という指標で表し、実質的な輸送需要の規模を測定します。

通常、輸出国と輸入国の関係は安定しているため、輸送距離が短期間のうちに急激に変化することは多くありません。しかし、世界的な出来事によって大きく変わることがあります。
例えば、2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻を受けて、エネルギーや穀物などの輸出入のパターンが急激に変化しました。まず、ウクライナからの穀物の輸出が滞ったことで、輸入国は他地域からの調達に切り替えました。また、ロシアへの経済制裁により、同国からエネルギーを輸入していた国々が供給元を変更し、結果として世界全体で輸送距離が大きく変化しました。

供給面の変動要因:実質的な船腹量を決める「速度・距離・滞船」

船腹の供給量は、長期的には新造船の建造量と老朽船の退役によって決まるため、短期間で大きく変化することは通常ありません。しかし、船舶は移動する資産であるため、その運航状況次第で短期間でも供給量が大きく変わることがあります。

ここで重要となるのが「航海速度」「航海距離」「滞船日数」の3つです。これらによって、一定期間に1隻の船が輸送できる貨物量が決まります。
船舶は常に全速力で航行しているわけではなく、輸送スケジュールや市況、燃料価格などを考慮して最適な速度で運航されます。燃料消費量は速度に大きく依存するため、燃料価格が上昇すると減速運航が増える傾向があります。近年は温室効果ガス(GHG)排出削減の観点からも減速運航が進んでいます。

また、本来は最短ルートで航行する船舶も、安全保障やインフラ制約などの影響で迂回を余儀なくされる場合があります。2023年10月のイスラエルとパレスチナ自治区ガザ地区を支配するハマスの戦闘勃発を発端として、紅海を航行する一般船舶がイエメンの武装組織フーシ派に攻撃される事案が発生しました。このためアジアと欧州の間を航行する多くの船舶が紅海・スエズ運河を避け、アフリカ南端の喜望峰を経由するルートに変更しました。さらに、太平洋と大西洋を結ぶ中米のパナマ運河では近年渇水の影響で通航制限が行われ、これも迂回航行を招きました。
加えて、港湾の混雑や陸上インフラの制約などによって荷役作業(貨物の積み降ろし)が遅れると、船舶は長期間待機を余儀なくされます。こうした滞船も供給量を実質的に減少させる要因となります。

ケーススタディ:コロナ禍におけるコンテナ運賃高騰のメカニズム

以上が、様々な事象が海運の需要と供給に影響を与える基本的なメカニズムです。
近年で海運の需要と供給に特に大きな影響を与えた出来事の一つは、2020~23年の新型コロナウイルスの世界的な感染拡大です。感染防止のための移動・行動制限により輸送需要は一時的に減少しましたが、その後、いわゆる「巣ごもり需要」によって製品輸送を中心に急回復しました。
一方で、コロナ禍に起因する陸上の物流インフラの処理能力の低下や乗組員交代の制約などにより、輸送キャパシティ(供給)は減少しました。コロナ禍当初は輸送需要の減少による海運市況の下落が想定されていましたが、結果として需給が逼迫し、特にコンテナ船で運賃が高騰しました。

海運市況に影響を与えた主な出来事

海運市況に影響を与えた主な出来事

船種ごとに異なる運賃市場と日本郵船のポートフォリオ戦略

最後に重要なのは、船舶は貨物の種類ごとに市場が分かれている点です。例えば、石油を運ぶタンカーの需要が増えても、コンテナ船の需要には直接影響しません。供給についても同様です。
リーマン・ショックやコロナ禍、現在の中東情勢のような大きな出来事は海運全体に影響を与えますが、その影響の大きさやタイミングは船種によって異なります。日本郵船はこうした事業環境の変動の激しい海運業を長年にわたり営んできましたが、市況変動の影響を抑えつつ安定的な成長を目指す経営に取り組んでいます。

世界の海運業界では特定分野に特化した企業も多い中、日本郵船グループは多様な船種を運航し、市況の異なる事業ポートフォリオを構築してリスクを分散しています。また、LNG船や大型タンカー、ばら積み船などでは長期契約を活用し、スポットの運賃市況に左右されにくい収益の安定化を図っています。

まとめ:世界情勢を捉え、海運ビジネスを理解する

海運業は、一見すると予測の難しい世界情勢に左右されているように見えます。しかしその本質は、「荷動き量」と「トン・マイル」による輸送需要と、「船腹量」「船速」「航海距離」「滞船」などによって決まる実質的な輸送供給との需給バランスにあります。

日本郵船をはじめとする大手海運各社は、こうした激しい市況変動リスクに対し、多様な船種の保有によるポートフォリオ分散や、長期契約による安定収益の確保などの取り組みを実施しています。今後、海運業界の動向や関連企業の業績を分析する際は、最新の決算数値だけでなく、その背景にある「世界情勢が需給に与える影響」にもぜひ注目してみてください。