(後編)日本郵船が大切にする「船内融和」 ―乗組員インタビューで見えた、安全運航の「見えない推進力」
公開日:2026年08月05日
更新日:2026年08月05日

「船内融和」とは、船の中で働く乗組員同士が互いを尊重し合い、円滑な人間関係のもとで生活と仕事を共にしていくための“雰囲気”を指す言葉です。約20~30名の乗組員が長期間、同じ空間で過ごすのが貨物船の職場。船内融和が保たれている船では、年齢や役職、国籍の違いを越えて声を掛け合い、船の機器に問題が起きても、協力して解決しようとする雰囲気があり、乗船していてとても気持ちがいいものです。そんな「船内融和」をテーマに、自動車運搬船「IRIS LEADER」の乗組員にインタビューをしました。
前編①「渡される機関長のバトン」 矢野機関長・射手機関長
前編②「居心地のよさがつくる船の魅力」二等機関士・三等航海士・三等機関士
前編はこちら→日本郵船が大切にする「船内融和」―乗組員インタビューで見えた、安全運航の「見えない推進力」(前編) | BVTL Magazine | 日本郵船株式会社
後編①「一等航海士として初めての乗船。紡がれる技術の系譜」 松本一等航海士・板垣一等航海士
後編②「船長・機関長に聞くマネジメントのコツ」 小西船長・矢野 機関長 陸上勤務海技者・吉岡・鈴木
「船内融和」は、船全体を一つのチームとして機能させること、そして船員として技術者として「技術を紡いでいく」ための重要な土台です。インタビューからその具体事例をお伝えします。
①一等航海士として初めての乗船。紡がれる技術の系譜
一等航海士は、船体や甲板・荷役設備の管理責任者です。20代後半以降の航海士が担当することが多いのですが、乗組員の約半数である10名以上が部下になることも。訪船時、松本一等航海士から、後任の板垣一等航海士にバトンを渡すべく、ちょうど引継ぎ中でした。
下船する松本祐介一等航海士(左)。陸上勤務から海上勤務へと移り、今回、一等航海士として初めての航海を終えた。
後任の板垣貴也一等航海士 (右)
松本:部下が多いので、「怪我だけはさせない」という点を何よりも意識してきました。本船では30名近い乗組員が乗下船を繰り返しているため、短い期間で人が入れ替わります。初めて会う部下というのはよくあることですが、だからこそ、今回うまくいったから次も同じようにうまくマネジメントできるとは限らないんです。振返ってみると、こうやって一等航海士として職務を全うできたのは、「分からないことは聞く」「頼れる人に頼る」「相談できるキャプテンがいる」という安心感だったと思います。
技術職だからといって、初めから全てわかっているわけではない。だからこそ、整備をしたり不測のトラブルがあったりすると不安を感じるし、迷うこともたくさんあります。それでも上下問わず、安心して相談できる空気や信頼があることで、自分の役割と責任が全うできます。自分もそういう船長になりたいし、会社全体でそんな雰囲気を作りたいと松本は語ります。
—— 5年前の自分に助言をするならば、何を伝えたいですか?
松本:上司の仕事を、穴があくまで見てこい、でしょうか(笑)
板垣:そうですよね、やはり整備作業やトラブル対応をするときに、上司がどんな準備や調整をしていたのかを徹底的に見ておけばよかったと思います。実際に作業が始まれば皆で手を動かしていくしかないですが、やはりそれまでの準備段階で作業がうまくいくのか難航するのか、がほとんど決まる気がします。一等航海士といっても、自分の力だけでできることなんて限りがある。だからこそ、準備段階で他部署のサポートが必要なら説明して助けを求めて、一緒に作業する部下の経験談にも耳を傾け、最善の準備ができているのかを判断することが何よりも重要です。そうやって船内は、多くの人が助け合って動いていると思います。
一等航海士の責務に関する話題として、若手育成についても話しました。いかに部下を信用し話しやすい空気を作り、部下に技術を渡せるかは、管理職個人としても会社全体としてとても重要な課題です。
松本:時間を作って部下と一緒にやる、声をかけて現場に連れていく、といった「機会の作り方」を工夫してきました。船の雰囲気は人が作るものです。乗組員の入れ替わりがあるからこそ、そのたびに人間関係やコミュニケーションのあり方を考え、作り直す必要があります。そんな環境の中でどうやって技術を伝えていくかは一筋縄でいくことではないと思います。
日本郵船を支える「技術」は、信頼という土台の上で受け継がれ、人が人を成長させ、そして信頼が安全運航を達成する。そのためには、話しやすい雰囲気づくりや日々のコミュニケーションが大切で、そういった船の魅力は今も昔も変わりません。1隻の船の上で、同じ方向を向いた乗組員が団結する一体感と、紡がれる技術の系譜。これこそ船乗りのやりがいです。
②船長・機関長に聞くマネジメントのコツ
最後に、IRIS LEADERの2トップである船長・機関長に話を聞きました。これまで様々な乗組員が語ってきた「船内融和」は、船長・機関長が意図して実現してきたことなのでしょうか。現在陸上勤務中の航海士、吉岡と鈴木が聞きました。
小西船長(中央左)と矢野機関長(中央右)に、IRIS LEADER船内でお話を伺いました。インタビュアーは陸上勤務中の航海士吉岡(左)、鈴木(右)
—— 船内の雰囲気を良好に保つために、どのような工夫をされているのですか?
小西:一番大切なことは、マネジメントの対象となる仲間に対して、性別や国籍以前にしっかりと「人として向き合う」ことです。一緒に働く仲間に対し属性を軸に捉えるのではなく、目の前のひとりひとりを理解しようと心掛け、言葉を渡すようにしています。船内には様々な国籍の船員がいます。当たり前のことですが、各個人が持っている性格や考え方は国籍によって異なるものではなく、個人が持っている個性なんです。その考え方を大切にしながら、相手の個を尊重しながらコミュニケーションを取るようにしています。例えば、操船や航海の計画を立てているとき、船長から指示や情報を乗組員に一方的に渡すのではなく、可能な限り問いかけをするようにしています。「この港、誰か経験ある?」「前回どうだった?」といったようなことです。一緒に乗船している仲間、経験者の知見を引き出してメンバーに渡していきます。安全航海のための判断材料を乗組員から単に集めるだけではなく、共有できる形に整える役回りを担っているイメージに近いと思っています。
矢野:本当に偶然なのですが、機関部でも同じ話を先ほどしてきました。機関長であるとはいえ、やはり不安や懸念はたくさんあります。しかし、それを一人で抱え込んで消化するのではなく、この不安・懸念をどう言語化・整理して、チームとして納得できる答えに導くかを考えてきました。もちろん最終決定の責任は機関長である自分ですが、自分にはない経験を持つ部下に意見を求める・相談をする。さらに、決める前に船長に相談・共有する。そんなステップが重要だと考えています。
小西:日々の作業や業務を行う上で、こういったステップを繰り返すことによって、乗組員からも相談をしやすい空気感が出来上がります。船長として、日常的に相談してもらえるのはありがたいことです。気になる点が早めに共有されれば、その後事態が悪化した場合でも状況が想像できたり、同じ温度感で考えたりできるので、短い連絡で解決することもあります。相談を“負担”ではなく“早期発見の入口”として置いていくことが重要だと感じています。
矢野:船長と機関長との間でもこういった相談を日々行っています。機関長が船長に「機関のこんなところを不安に思っているんです」などと言ってしまったら、船長を不安にさせてしまうかもしれない。それでも、そんな共有ができる雰囲気だったので、とてもやりやすかったです。
小西:トラブルが突如発生しても、普段から話をしていれば「機関長が言っていたアレのことだな」と容易に想像ができるので、日々相談をしてもらったほうがありがたいです。それが結果的に最善の判断や早期対応につながるものだと思っています。実はこういった「相談のしやすさ」は、船上インターネットの普及により海陸の壁を超えてきています。問題が起きている個所の特定や修理方法などについても、これまでは管理会社の監督と電話かメールでやりとりするのが主たるコミュニケーションでしたが、今は気軽にチャットで相談ができるようになりました。オンラインでの打ち合わせも可能なので、海陸でもさらに密なコミュニケーションが取れるようになってきています。
「話していい」「聞いていい」が、安全をつくる
IRIS LEADERでは、各々のインタビューの中でそれぞれに「雰囲気」「相談のしやすさ」「納得の大切さ」といった話題が自然と語られていました。この3つは、場面が変わっても何度も顔を出していました。船内は船長、機関長、一等機関士、など役割と責任がはっきりしていますが、そのはっきりさが、気兼ねなく仲間同士で話すときにコミュニケーションを止める壁にならず、「話していい」「聞いていい」という空気の大切さが乗組員から語られました。
伝え方の工夫、相手を信頼すること。これが安全運航ややりがいに一本の線でつながっている、そんな素晴らしい「船内融和」を実現しているIRIS LEADERでした。












