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日本郵船・女性海技者が語る、船上と陸上を行き来しながら築くキャリアストーリー

日本郵船・女性海技者が語る、船上と陸上を行き来しながら築くキャリアストーリー

船舶の安全で効率的な運航に欠かせない役割を担う航海士。日本郵船では2004年に女性海技者の採用をスタートして以来、女性が活躍しやすい環境・制度づくりを進めています。一等航海士の髙橋育実に、これまでのキャリアと、現在の働き方を含めた女性海技者としてのキャリアについて聞きました。

髙橋育実の入社は2012年。国立大学の商船系学部を卒業後、海技者(航海士)として採用され、現在にいたるまでさまざまな船舶で外国航路に従事するとともに、数年おきに陸上勤務にも就いてきました。産休・育休を経た現在は、保育園に通う子どもを育てながら、出向先のNYK LNGシップマネージメント株式会社で船員管理業務に携わっています。女性航海士のキャリア形成とはどのようなものなのでしょうか。

髙橋育実(一等航海士) 2012年に海技者(航海士)として日本郵船に入社。現在はNYK LNGシップマネージメント株式会社に出向し、船員管理業務に従事 (所属は取材当時)

髙橋育実(一等航海士)
2012年に海技者(航海士)として日本郵船に入社。現在はNYK LNGシップマネージメント株式会社に出向し、船員管理業務に従事 (所属は取材当時)

人々の暮らしを支える物資を運ぶ船の仕事に惹かれて

――航海士になろうと考えたきっかけ
実家が海に近く、幼少期から船に親しみを感じて育ちましたが、海運に関心を持つきっかけとなったのは、2000年頃に起きた三宅島の噴火でした。噴火の影響で航空機を飛ばすことができず、救援物資を運んだのは船のみだったのです。

必要な物資を島へと届けるには船舶での海上輸送が必須であることを実感しました。島国である日本全体にとっても海上輸送をはじめとする物流は生命線だと感じ、実際に船を操る仕事に就きたいと考えました。明確な針路として決めたのは高校生のときです。

――大学で学んだこと
大学では商船系の学部で海技免状取得を目指すコースを履修しました。航海学、気象学、船舶工学、操船論、無線、海事法規など学ぶ内容は多岐にわたり、船舶実習もありました。こうした学びを通じて、海上輸送を支える仕事の責任の重さと社会的な意義を、より具体的に実感するようになりました。

当時は海技免状取得を目指す女性は少なく、私の所属したコースでは30人中6人、エンジンなど機関を学ぶコースでは40人中3人だけでした。今は日本郵船をはじめ女性新卒者を採用する企業が増えたこともあり、女子学生も徐々に増加しているようです。

――日本郵船を志望した理由
物流で社会に貢献したいという思いが原点にあり、海上輸送を前線で担いたいと考えたとき、海陸空の総合物流を掲げていた日本郵船は理想的でした。女性を採用する海運会社は、当時は中小を含めても、日本郵船をはじめ数社しかありませんでした。大手である日本郵船ならいろいろな商船に乗れるというのも大きな理由です。OB訪問したときに感じた社内の雰囲気にも魅力を感じました。

入社前の乗船実習中

入社前の乗船実習中

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船の上では女性も対等。安全・確実な運航が使命

――新卒入社後、携わってきた仕事
2012年の入社前に2-3カ月間の社船乗船実習を受けました(現在、社船乗船実習は入社後に行われている)。この実習を通じて、会社が運航する船の基本をしっかり理解できました。入社後、さらに本店で1カ月間の研修を受け、次席三等航海士としてLNG(液化天然ガス)船に配属されました。最初は日本とオーストラリアを行き来する業務に就きました。三等航海士に昇級してからは、4年余りの間に、自動車専用船、コンテナ船、バルカー(ばら積み貨物船)、LNG船で船上経験を積みました。1年半の陸上勤務をはさみ、再び海上勤務に就き、2018年に二等航海士として乗船、そして一等航海士に登用後、2020年にLNG船に乗りました。一級海技免状を取得したのはこのころです。

自動車専用船でサンフランシスコのゴールデンゲートブリッジを通過

自動車専用船でサンフランシスコのゴールデンゲートブリッジを通過

――航海士としての実務
航海士の仕事の目的は、貨物を目的地まで安全・確実に届けることです。予定した日時に到着できるよう、操船、荷役計画、貨物の管理、船のメンテナンスなど、すべきことは多々あり、乗組員と相談しながら仕事を進めます。

例えば、LNG船では船長のほか4人の航海士が乗船します。うち1人は貨物担当で、残り3人で航海当直を24時間シフトで回します。女性への配慮はありますが、業務内容は男性と対等です。

海という自然が相手なので、航行はなかなか予定通りにはいきません。刻一刻と変化する状況に対応していくのが大変でもあり、やりがいです。

特にLNGはデリケートな貨物で、揺れをできるだけ抑える必要があります。オーストラリア航路の場合だと、夏の台風の影響を少なくしたい。安全を第一に考え、航路図と天気図をにらみながら安全を担保しつつ最も効率の良い航路を選択します。シンガポール海峡、スエズ運河やパナマ運河など、狭い海路を抜けるときも緊張が続きます。無事に抜けられるたびに達成感が得られます。

自動車専用船でスエズ運河通峡中

自動車専用船でスエズ運河通峡中

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積み地・揚げ地で現地の人々と交流する楽しみも

――船上業務で大切に考えていること
大切にしているのは安全とチームワークです。何か起きたときにすぐ話し合えるような雰囲気を大切にしています。外国人の乗組員もいるので、しっかりとコミュニケーションを取り、何でも言いやすい環境を作ることがチームワークを醸成し、安全な運航につながると考えています。

――航海の期間と休暇について
1回の航海で往復3~4カ月かかる場合もあれば、1週間で戻って来られる場合もありますが、海上勤務中は基本的に4カ月間乗船すると2カ月間の休暇が得られます。短期の航海だと数回往復してから休暇になるわけです。船上では日々24時間にわたって緊張感を保っているので、ゆっくり休めるのはありがたいです。

――航海中の楽しみ
いろいろな国に行けるのも楽しみの一つです。ベトナムでは、ハロン湾の奇岩を眺めながらボートで水上マーケットに行ったことも印象に残っています。海産物を買い、戻った船上でBBQを楽しみました。自動車専用船で行ったアフリカ諸国、ケニアやタンザニアの港町など、個人旅行ではなかなか行けない土地に、この仕事を通じて訪れることができます。

ハロン湾の奇岩群を通航中

ハロン湾の奇岩群を通航中

水上マーケットでBBQの食材を調達

水上マーケットでBBQの食材を調達

どの船に乗っても居住環境は快適です。個室でくつろげますし、食事もおいしいです。日本人船員がいるときは和食を作れる料理人が乗船します。ちなみに、これまで乗った船の中で一番好きなのは、バルカーです。特定の貨物専用船ではないため、汎用性があり、毎回さまざまな種類の貨物を積むので、面白いなと感じます。

陸上勤務中に産休・育休を取得。子育て中の現在はフレックスタイムを活用

――海技者の陸上勤務について
日本郵船の海技者は、海上勤務と陸上勤務を交互に行います。私の場合、最初の陸上勤務は2016年から約1年半、NYKシップマネージメントに出向し、シンガポールで船舶管理を担当しました。2020年末からは、本店でドライバルク船の営業海技も担当しました。

――海技者として陸上勤務の良さ
なんといっても視野が広がる点です。海上の仕事は、あくまでも“現場対応”が中心です。一方、陸上勤務では、海運ビジネスのあり方や会社の方向性などを幅広く理解できます。多様な業務が現場を支えていることも分かり、その経験を海上勤務に生かすことができます。

陸上勤務中の船質チェックの様子

陸上勤務中の船質チェックの様子

――産休・育休制度について
2024年に産休・育休を取得しました(出産の前後で産休4カ月、その後育休6カ月)。陸上勤務をしている時期だったこともあり、良いタイミングでした。

働く女性にとって、自身のキャリアの中で出産をどこに置くかは、とても悩むところだと思います。日本郵船は、女性のキャリアに対する配慮が行き届いていると感じます。海陸双方の話を理解してもらえる女性の人事担当者がいて、相談しやすい点も、今後入社される若い女性には心強いのではないでしょうか。私自身も、キャリアプランについて定期的に話すようにしてきました。産休前に、すでに育休から復帰されていた陸上職の先輩達や同期に色々アドバイスをもらえたことも有難かったです。

現在は育児フレックスタイム制度を活用しています。子どもが小学校に入学するまで、就業時間を週単位で変更できる制度です。パートナーと分担している保育園の送迎に合わせて、出社・退社時間を調整できています。

日本郵船には、そうした制度を誰もが当たり前に利用できる空気感があります。男性の育休取得も当然という雰囲気は、良い流れだと思います。

【日本郵船の産休・育休制度について詳しく知る
研修制度・福利厚生 | 働く環境を知る | 日本郵船 | 新卒採用情報

性別にとらわれずにキャリアアップを目指せる

――女性の航海士として気になったことや工夫したこと
提案を行い、解決に至ったこともあります。船の中の棚や機器などは、男性の標準的な身長に合わせて作られていて、小柄な私には使いにくさを感じることがありました。狭い船内では、踏み台を置けない場所もあります。陸上勤務中に新造船のプランに携わった際には、身長に関係なく使いやすい配置を提案し、実際に採用されました。

日本郵船女性海技者一等航海士の髙橋育実

――これからのキャリアプラン
まずは船長に昇級することです。現在は子育てをしながら陸上勤務に就いていますが、遠くない将来、船に乗ることになると思います。経験を重ねて船長になれば、1隻の運航の全てを統括する立場として、もちろん責任は重くなりますが、その分裁量さも格段に増えます。数カ月にわたる航海であっても、日本郵船の各種制度を活用し、パートナーの協力を得ながら、“お母さんは海外出張中”という形でやっていけると思います。

いずれは、日本郵船の海運ビジネスを支えていく部署はもちろん、宇宙事業や自律運航船事業にも携わりたいと考えています。そして、これから入社する女性海技者にとってのロールモデルの一つになれたらうれしいですね。

船上での一コマ。二重虹を背景に

船上での一コマ。二重虹を背景に

――海技者を目指す女性の皆さんへ
日本郵船は、女性海技者の採用を開始してから20年を超え、性別を理由に可能性が狭められることなく、誰もが自分らしいキャリアを描けるよう、働きやすい環境づくりを進めてきました。性別や環境によって自分に限界を設けることなく、自分がどんな海技者になりたいのかを考え、夢の実現を目指してほしいと思います。