日本郵船の舞台裏私たちの働き方

海技者のキャリア採用で未来を切り拓く。日本郵船での新たなる挑戦

 鈴木さん

船舶の安全な運航を支える専門職である機関士は、船を動かすためのメインエンジンや発電機、ボイラーなどの運転、管理・点検、故障の修理などを行っています。現在、一等機関士として活躍する鈴木一輝は、29歳でキャリア採用に応募、2025年で入社4年目を迎えます。転職という道を選んだ理由、日本郵船での働きやすさ、キャリアパスについて聞きました。

キャリア採用で世界は大きく広がった

大学時代は歴史学、日本思想史、近代史を専攻しました。就職活動中に、学校に日本郵船の社員が説明に来て「海運」という仕事を知りました。もともと機械のメンテナンスに興味があったことや、「6カ月乗船して、数カ月の休暇があるのも性格に合っている」と思い、船員になることを決意し、大学卒業後に海上技術短期大学に進学しました。

短大では機関士としての基礎知識を学び、海技免状を取得して卒業。新卒で採用されたのは、食品の冷凍輸送を専門とする海運会社でした。

念願の乗船勤務は充実しており、数カ月から1年間かけて世界各国を周り、長期の休暇を得るという働き方も合っていました。ただ、船の種類が冷凍運搬船のみであったため、もっと多種多様な貨物を運ぶ船や、最新の設備・機器を搭載した船などでも知見を広めたいと思うようになりました。

短大時代に乗船した練習船に日本郵船の機関士が来られたことがあり、その際に感じた日本郵船の安全運航への意識の高さ、仕事のスケールの大きさ、その社風に心を惹かれました。卒業後もその方との交流を続ける中で、「一緒に仕事がしたい」という思いが強まりました。そして、採用条件である海技免状を取得後に日本郵船のキャリア採用に応募し、面接を経て採用されました。

研修を経て、初めて乗ったのは日本とオマーンを結ぶLNG(液化天然ガス)運搬船です。エンジンの大きさや機関室の広さなど、前職時の船とはスケールが桁違いで、初めて蒸気タービンを使用したエンジンにも触れ、心が震えたことを覚えています。それと同時に、私の世界や可能性が広がることを確信しました。

大学卒業後、海上技術短期大学校に進学。機関士として冷凍貨物の輸送船業務に6年間従事した後、日本郵船グループのキャリア採用で入社。4年間の外航船勤務を経て、2025年6月からアメリカ・ロサンゼルスで陸上勤務中

大学卒業後、海上技術短期大学校に進学。機関士として冷凍貨物の輸送船業務に6年間従事した後、日本郵船グループのキャリア採用で入社。4年間の外航船勤務を経て、2025年6月からアメリカ・ロサンゼルスで陸上勤務中

充実した研修と徹底した安全管理

日本郵船に入社して最初の乗船前には、約半年間の研修がありました。オンラインや対面で、SMS(安全基準)研修、危険物取扱者研修、高電圧(6600V)取扱者研修などを受講しました。また、最初の乗船勤務では、「次席二等機関士」として乗船し、二等機関士から業務の引き継ぎを受けました。上乗り期間は4カ月間に及び、引き継ぎ説明も丁寧だったため、自分が担当業務を引き継いでからも、スムーズに業務に当たることができました。最初の乗船はこれまでとはまったく違う仕事になるのではと緊張していましたが、いざ始まれば前職で培ってきたエンジニアとしての知識や経験はちゃんと通用しているという感覚もあり、自信をもって業務を行えたことを覚えています。
入社後、最も驚いたのは、徹底した安全基準管理が行われていること。ルールは組織全体に浸透しており、チェック事項も多数あります。前職なら口頭で済ませていたことも、日本郵船では明文化されていて、指示系統も整っていました。

船の機関というのはエンジン、発電機などの大型のものから、センサー、電気系統、配管など、あらゆる精密機器の複合体です。それは町のようでもあり、生き物のようでもあり、複雑かつ繊細です。機関士はそれらを総合的に管理し、不具合を未然に察知し、対策を打つのが仕事です。日本郵船の現場は業務の引き継ぎも分かりやすく、伝達事項も的確で、記録を読めばその船の特性が分かるようになっているので、機関士として目の前の管理業務に集中することができるのです。

機関士の仕事は個人戦ではなくチームワーク。良好なコミュニケーションで協力し合うことがとても大切です。入社して思ったのですが、日本郵船には豪快で自由な人が多い。堅苦しいイメージを先入観として持っていたのですが、実際は真逆でしたね(笑)。懐が深い仲間ばかりで、キャリア採用者である私も違和感なく馴染めています。社内の人脈作りなど、意識しなくても出来上がっていくことに魅力を感じる人は私だけではないはずです。

業務そのものが成長につながる環境

2021年12月に入社してから、蒸気タービンを推進機関とするLNG船や、原油タンカー、自動車船などさまざまな種類の船に乗りました。これらの経験を経て、あらためて「機関士」という仕事には、広く知識を深めることと、感覚を磨くことの両輪が必要だと感じています。

日本郵船での約3年間半の業務を通じ、脱炭素や新型エンジンなどの高度な技術を学べたことで私の総合力が高まったと思っています。現場で実際に使える知識を身に付けることを重視し、研修にも積極的に参加しています。

2025年4月1日に一等機関士に登用されました。二等機関士時代は担当する業務を安全に遂行することが重要でしたが、一等機関士は部下の安全管理や労働時間管理など、船全体をマネジメントする意識も重要です。その新たな役割を意識しながら日々の業務を通じてシミュレーションをしています。現場の上司を見て学ぶこともとても多いです。

鈴木さん

いよいよ陸上勤務かと思っていたところ、アメリカ・ロサンゼルス赴任の辞令がありました。機関士出身者として、船舶管理業務(船舶の安全・保守・配乗・コストなどをオフィスで管理・支援する業務)にも関心を持っていたタイミングでの異動でした。キャリア初の陸上勤務です。日本郵船の海上職には陸上勤務があるのも特徴の一つですね。

陸上勤務を経験した仲間と接し、視野の広さや、社会全体への貢献意識の高さ、さらには予算やスケジュールの管理、会社方針への理解など、陸上で勤務をして初めて深く理解できることもあると感じました。

現在の海運業界は、技術革新、環境対応、世界情勢など、変化の激しい時代の中にいます。日本郵船という大きな組織で働いていると、現場の最前線にいる自覚や自信が育っていきます。会社側がしっかりサポートしてくれるため、多くのことに挑戦できると感じています。

しばらく海を離れることになりますが、高まる環境規制への対応、品質管理や技術面の共有など、エンジニアができることや求められることに応じていきたいと思います。

上司が語る、キャリア採用者が持つ「暗黙知」

海務グループ 就航船サポートチームの阪口宏介機関長(左)

海務グループ 就航船サポートチームの阪口宏介機関長(左)

私(阪口)は4カ月ほど鈴木さんと乗船しました。上司として感じたのは、根っからの「機械好き」ということ。前職での経験もあり、暗黙知を言語化する力があり、多角的な視点を持ちつつ、意見をしっかり伝えてくれるので信頼しています。

彼の機械好きにはいろいろなエピソードがありますが、特に記憶に残っているのは船内の発電機の不具合を見つけたことです。同乗した船ではLNGを燃料とした新型の発電機が搭載されていました。あるとき、その発電機の温度表示が不安定になり、原因が特定できないことがありました。

現場にいた鈴木さんはメーカーに問い合わせながら多くのセンサーや配線を確認し、あるケーブルに緩みを発見し、これを正しく接続したところ不具合が直ったのです。

機械を常に観察していないと気が付くのが難しいことでした。彼に理由を聞くと、「機械の指示系統を把握し、帰納法で原因となる場所を特定しました。ケーブルの電圧値を調べたところ、原因が分かりました」と言っていました。その感覚と知識の融合、技術を持っているところを尊敬しています。

仕事とは直接関係ありませんが、鈴木さんは日本から乗船するときに漬物や和菓子など、日本の食べ物を持ち込んでみんなに振る舞ってくれました。航路によっては長く日本に戻れないこともあるので、日本食はとりわけおいしく感じます。シェアする気持ちを持っているから、多くの人に慕われるのだと感じています。

機関士仲間が語る、揺れる船内ダーツ大会

人事グループ 採用・育成チームの佐々木圭人二等機関士(左)

人事グループ 採用・育成チームの佐々木圭人二等機関士(左)

私(佐々木)は鈴木さんと約4カ月一緒に乗船していました。覚えているのは船内の福利厚生品として、ダーツとハンモックを導入したことです。

オランダのロッテルダムに入港しているときでした。仕事仲間と「ダーツがあればいいですね」と話していたところ、鈴木さんが上陸時に買って来てくれたのです。150種類のゲームができ点数の自動計算もしてくれるダーツボードでした。航海中の揺れる船内でのダーツはとても難しかったのですが、身体能力と集中力が高い鈴木さんは、1カ月半ほどでめきめきと上達しました(笑)。一緒にゲームする中で表示にバグがあることを発見。正しい点数がわかる表示になるように一覧表を作りました。私たちが下船した後もこのダーツは残っていたそうです。

私は現在陸上勤務なのですが、また鈴木さんと船に乗りたいと思っています。機関士としての知識や仕事に取り組む姿勢という点で、学ぶところが大きい。機関士として大きく成長させていただきました。