日本郵船グループが描く環インド洋サプライチェーン戦略——インド・中東・アフリカ成長市場を繋ぐ
公開日:2026年10月02日
更新日:2026年10月02日

地政学リスクの高まりや不確実性の増大に伴い、世界中で企業によるサプライチェーン見直しの動きが加速しています。そうしたなか、世界の新たな経済成長のエンジンとして急速に存在感を高めているのが、世界最大の人口を抱える「インド市場」、エネルギーと物流の要衝である「中東」、そして高い成長ポテンシャルを秘めた「アフリカ」が交わる「環インド洋地域」です。 一方で、この広大な地域には先進国ほど物流インフラが十分に整っていない国や地域も少なくありません。人々の暮らしや産業の持続的な発展を支えるためには、物資を安定的かつ効率的に輸送する物流基盤の整備が不可欠です。
日本郵船グループは、この環インド洋経済圏の将来性に着目。総合物流(ロジスティクス)、自動車事業、コンテナ船事業の3つのコアビジネスを連動させ、内陸輸送の高度化や自動車ターミナルの運営、コンテナ航路の拡充といった最新戦略を展開しています。本記事では、当社グループが推進する次世代のグローバル物流網の全貌を紐解きます。
なぜ今、環インド洋なのか——成長市場のサプライチェーン再編が交わる地域
世界経済の成長の中心は、中国を中心とした東アジアから、少しずつ西側へ広がりつつあります。その中で、今後の成長を支える地域として注目されているのが「環インド洋」地域です。環インド洋地域は、インド、中東、アフリカを結ぶ重要な海上交通の大動脈であり、今後の世界経済をけん引する中核として位置づけられています。近年は、世界各地の地政学リスクの高まりや米中貿易摩擦などを背景に、多くの企業が生産・調達拠点の分散化を模索しています。この劇的なサプライチェーン見直しの流れの中で、環インド洋地域を横断する物流需要はさらに高まっています。
新組織「エマージングマーケットグループ」と「郵船ロジスティクスグローバルマネジメント」の設立
こうした市場の変化に迅速に応えるため、日本郵船グループは事業基盤の整備とサービスの強化を進めています。物流事業を担う郵船ロジスティクスは、2024年4月に環インド洋経済圏を含めた新興経済地域における事業計画を立案する専門組織「エマージングマーケットグループ」を設立しました。さらに2025年4月には、郵船ロジスティクスグループのグローバル事業を統括する新会社「郵船ロジスティクスグローバルマネジメント(YLGM)」を立ち上げました。これにより、郵船ロジスティクスは日本国内の事業に注力する一方、環インド洋地域を含めたグローバルな物流事業はYLGMが中心となって成長を目指す体制になりました。
VOICE 「真のグローバル企業への進化」
阿曽智孝常務執行役員(日本郵船ライナー&ロジスティクス事業統轄本部長)
日本郵船の阿曽智孝常務執行役員(ライナー&ロジスティクス事業統轄本部長)は、新体制の稼働について次のように手応えを語ります。「YLGMの運営を開始し、今年で2年目を迎えました。新体制に移行し、機能と責任範囲を明確にしたことで、意思決定が迅速化し非常に良い形で機能しています。郵船ロジスティクスグループは真のグローバル企業へと進化しつつあります。今後は環インド洋地域のような成長市場に注力し、事業をさらに伸ばしていきたいと考えています」
環インド洋地域をつなぐ——3つのコアビジネスを徹底解説
①総合物流の高度化:郵船ロジスティクスグループが東アフリカの物流ハブに拠点を新設、インド中小都市での営業網を拡大
アフリカ地域では、YLGMがコンテナ船世界最大手MSCグループ傘下の物流会社Africa Global Logistics(AGL)の子会社AGL Kenyaと、2025年に戦略的合弁事業契約を締結しました。これに基づき、ケニアのナイロビで新会社「Yusen Africa (East Africa) Limited」を設立しました。ケニアは東アフリカの物流ハブとして重要性が高まっている国です。新会社は、海上・航空貨物輸送、国境を越える陸上輸送、倉庫、通関などのサービスを提供し、東アフリカの主要な物流ルートを支えます。YLGMは、新会社を東アフリカにおける事業基盤として位置付けるとともに、中長期的には南部アフリカを含むアフリカ主要市場との接続を進め、アフリカ全域を視野に入れた物流ネットワークの構築を目指しています。さらに、インド、中東、アジアとアフリカを結ぶ広域サプライチェーンの構築を通じて、環インド洋経済圏における物流基盤の強化を進めていきます。
ケニア・ナイロビで新会社「Yusen Africa (East Africa) Limited」を設立
Yusen Africa (East Africa) Limited立上げのプロジェクトメンバー。ナイロビのAGL Kenya本社にて。ケニアは東アフリカの物流ハブとして重要性が高まっている
Yusen Africa (East Africa) Limited. ナイロビ事務所の様子
インドでは、 Yusen Logistics (India) Private Limited.が主要都市に加え27の中小都市へ営業網を広げるなど、国内物流需要の拡大に対応するため、販売・営業体制を強化しています。今後はケニアに設立した新会社との連携も進め、インドとアフリカを結ぶ新たな物流需要の獲得を加速していく考えです。
Yusen Logistics (India) Private Limited. 江村保寿 社長
VOICE 「インドとアフリカを結ぶグローバルシナジー」
日本郵船 曽我貴也 社長
日本郵船の曽我貴也社長は、「郵船ロジスティクスグループはこれまでインドで事業を展開してきましたが、アフリカでは十分な足場がありませんでした。今回、AGLと合弁会社を立ち上げることで、東アフリカを足掛かりに、環インド洋地域の物流ネットワークを強化していきます」と話します。さらに、「アフリカだけで完結する物流ではなく、インドをはじめとする他地域とのネットワークをしっかりつないでいくことに注力していきます」と意気込みます。
②自動車事業:巨大市場インド、アフリカでのインフラ展開
自動車事業においても、環インド洋地域は大きな成長が期待される市場です。日本郵船は、世界各地に広がるネットワークを生かし、自動車運搬船による完成車の海上輸送を手掛けています。
エジプト・ケニアでの市場連動アプローチ:アフリカでは、北のゲートウェイであるエジプトで自動車ターミナル事業を、ケニアでは内陸部の完成車物流事業を展開しています。アフリカは国や地域によって、自動車の販売状況や物流事情が大きく異なります。そのため日本郵船は、それぞれの市場の成長スピードに合わせて、柔軟に事業を広げていく方針です。
インド・ピパバブ港ターミナルと鉄道・トラック内陸輸送のサービス強化:インドは自動車事業において最も注目すべき市場の一つです。人口14億人を抱え、自動車の普及率はまだ高くないインドは、今後の所得向上に伴う内需の拡大が見込まれるとともに、各メーカーの生産拠点の集積が進み、輸出拠点としての重要性も増しています。日本郵船はインド北西部グジャラート州のピパバブ港で完成車ターミナルを運営しています。さらに海上輸送だけでなく、トラックや鉄道による内陸輸送も手掛けています。今後のインドでの取扱量の拡大に合わせて、さらなるサービス強化を目指していく方針です。
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③コンテナ船事業:ONEによる航路網の拡充
西アジア地域本社 (ドバイ)を軸とした3エリアの一体運営
コンテナ船事業においても、環インド洋地域でのサービス強化が進んでいます。日本郵船をはじめとする日本の海運3社が出資するオーシャン・ネットワーク・エクスプレス(ONE)は、2024年に6つ目の地域本社となる「西アジア地域本社」をドバイ(アラブ首長国連邦)に設立しました。この拠点は、インド亜大陸、中東、東アフリカをカバーする中核拠点として位置付けられています。地域の物流ニーズをくみ取り、航路網の拡大や寄港頻度の充実を進めるとともに、コンテナ船サービスの品質向上につなげていく狙いです。
結び
環インド洋地域では、今後もグローバルサウスの発展に伴う貿易量の拡大が見込まれます。日本郵船グループは物流・自動車・コンテナ船などの各事業を通じて、人々の暮らしと産業を支える国際物流ネットワークの整備を進め、環インド洋地域の持続的な発展に貢献していきます。










