日本郵船の挑戦

Project Story


アンモニア・サプライチェーン構築に挑む

Outline of the Project

世界的に「脱炭素」の動きが加速する中、地球温暖化対策において有効な手段の一つとされているのが、燃料としてアンモニアを利用する取り組みだ。アンモニアは燃焼してもCO2を排出しないゼロエミッション燃料、かつ長期保存が可能なエネルギーとして注目を集めている。日本郵船は上流であるアンモニアの生産から中流の海上輸送、下流のアンモニアバンカリングに至る各フェーズへ主体的に参加していくことで、早期のアンモニア・サプライチェーン構築に向けた取り組みを加速させている。

Member

Yoichi Miyahara

燃料炭・アンモニアグループ アンモニアバリューチェーンチーム(取材当時)
2018年入社

船に対して漠然としたロマンを感じていた。加えてジョブローテーションで様々な業務を経験できる点に惹かれて入社を決めた。入社後、主計グループに配属。2021年10月グリーンビジネスグループに異動、燃料アンモニア導入に向けた事業開発や事業の実現可能性調査に従事。2023年4月、新たに発足した現部署に配属、引き続き燃料アンモニアの事業開発を担当している。

Hiroka Hairo

燃料炭・アンモニアグループ アンモニアバリューチェーンチーム(取材当時)
2023年入社

海外に住んでいた経験から、異なる言語や文化と触れ合うことに刺激と魅力を感じていた。その経験から、海外の人と関わり、自分の仕事が世界で繋がっている仕事を志望した。就活でコンテナ船を見る機会があり、世界の海をゆく船にロマンを感じ、また自分が求めている環境が日本郵船にあると感じて入社を決めた。入社後、3ヶ月の臨港店研修を経て、現在の部署に配属された。

Story 01

海上輸送に留まらない新たな事業の創出

2019年4月、日本郵船は、再生可能エネルギー、次世代エネルギーをテーマに次世代に向けた新たな価値創出を目指す、グリーンビジネスグループを創設した。脱炭素社会の実現に向けた活動を通じ、企業と社会の持続的な発展・成長とともに、新たなエネルギーバリューチェーンを構築することを目指すものだ。その中で次世代エネルギーとして検討が開始された一つが「アンモニア」である。アンモニアは燃焼時にCO2を排出しないクリーンエネルギーであり、脱炭素社会の実現に有効なエネルギーとされている。グループ発足から2年、入社後主計グループからキャリアをスタートさせた宮原が、グリーンビジネスグループに参加した。以前から「新たなビジネスの立ち上げに挑戦したい」という想いを抱いていた宮原は、自ら手を挙げての参加だった。ミッションは明確である。燃料アンモニアの生産から海上輸送、アンモニアバンカリング(燃料供給)に至るサプライチェーンを早期に構築し、海上輸送に留まらない新たな事業を創出することだ。

「そもそもアンモニアとは何か。そこから取り組みを開始しました。現在、アンモニアは主に肥料用途などで使用されており、世界のアンモニア生産は年間約2億トン。そのうち貿易量は約1割の2000万トン。日本国内で見ると、アンモニア消費量は年間約100万トン程度であり国内生産は約8割という状況です。しかし、燃料用途での活用を実現するには、桁違いのボリュームが必要になります。燃料アンモニアは石炭火力発電に20%混焼することが想定されていますが、1基(100万kW)につき年間約50万トン、大手電力会社がすべての石炭火力発電で20%の混焼を実施した場合、年間約2000万トンのアンモニアが必要となる試算結果もでています。したがって、これまでのアンモニアとは異なる燃料アンモニア市場の形成とサプライチェーンの構築が必要不可欠なのです」(宮原)

Story 02

生産から海上輸送、その最適解を見出していく

宮原が着任以来取り組んできたのは、燃料アンモニア導入に向けた事業開発、FS(フィージビリティスタディ=事業の実現可能性調査)、さらにアンモニア関連の共同研究開発プロジェクトにも参加した。宮原が指摘したように、燃料用にアンモニアを活用する場合、膨大な量のアンモニアが必要であり、将来的に燃料アンモニアがエネルギー構成に実質的な割合を占める段階になれば、安定調達を実現しなければならない。アンモニアは天然ガス等の化石燃料や再生可能エネルギーから水素を取り出し、高温高圧化下の触媒反応によって製造される。世界各エリアで製造が進められているが、単に海外から輸入するだけでなく、長期的に安定的にアンモニアをコントロールして調達することが求められている。宮原はこれら上流であるアンモニア生産プロジェクトにも参画する一方、サプライチェーンの中流である海上輸送に関しては、中心メンバーとして検討を進めている。

「海上輸送は言うまでもなく、船舶のオペレーションノウハウを有する、当社が強みとする領域です。顧客である電力会社やパートナー企業のニーズに応じた最適なアンモニアの海上輸送とは何か。それを突き詰めていくことで、サプライチェーンの一つのピースが構築されていくと思っています。海上輸送には様々な変数があります。アンモニアの積み地、揚げ地、アンモニアの所要量、アンモニア輸送船の適正なサイズ、アンモニア受け入れ拠点、陸側の貯蔵タンクのサイズ等々、多岐にわたりそれぞれに起因する最適解を見出していかねばなりません。さらに、事業開発においては会計や法務、各国の制度など、様々な分野の知識が求められることに加えて、アンモニアの生産、海上輸送、バンカリングでそれぞれ異なる知識が求められるため、業務と並行して勉強の日々ですね」(宮原)

Story 03

新たな部署発足、新入社員がプロジェクトに参加

これまで、グリーンビジネスグループ内の一チームとして進めてきたアンモニアの取り組みだったが、2023年4月、同グループからカーブアウトし、新たに燃料炭・アンモニアグループが発足した。この新しい部署に配属となったのが臨港店研修を終えたばかりの新入社員・葉色広香だった。

「グローバルでスケールの大きな、新しいエネルギーに関わる業務に携わりたいと考えていましたが、希望が叶った環境に配属されました。ただ、まだ新入社員。配属当初は、アンモニアとは、議事録とは、という非常に初歩的な部分からのスタートであり、船の知識もないことから、飛び交っている言葉がほとんど理解できない状況でした。しかし、指導担当(OJT)である宮原さんをはじめ先輩方の教えもあり、プロジェクトの全体感を把握しつつあります。まだ知識不足でわからないことも少なくありませんが、貪欲に知識・情報を吸収して、アンモニア・サプライチェーン構築の一翼を担っていきたいと考えています」(葉色)

そう語る葉色だが、すでにプロジェクトの重要なメンバーとして活躍している。アンモニアは世界が注目しているエネルギーであり、各国で国際会議が開催されている。その際、日本郵船の燃料アンモニアに関する取り組みをプレゼンする際の登壇資料作成、メディア取材やプレスリリース等の広報対応、打ち合わせの議事録作成、国のアンモニアに対する支援制度に関する情報収集といった基本的なサポート業務から、海外の関係者との打ち合わせや顧客との情報交換など多岐に及ぶ。「今まさに走っているビジネス、日々新鮮で刺激的」と語る葉色は、若さを武器にその成長を加速させている。

Story 04

新しいビジネスの創造の醍醐味とやりがい

アンモニア・サプライチェーンの中で、基本的に宮原は生産(上流)、海上輸送(中流)を担当、葉色は海上輸送(中流)、バンカリング(下流)を担当している。海上輸送に燃料としてアンモニアを舶用燃料として供給するバンカリングは、海運業界の脱炭素化を促す試みだが、下流領域であることから、具体的な検討はもう少し先になる。

「今回のプロジェクトは、言うまでもなく、私にとって日本郵船での初めての実業務ですが、ルーティンもなく、マニュアルもありません。何をしなければならないか、なぜこれをしなければならないか、自分で考え、自分で判断していくことが求められます。新しい取り組みなだけに、不透明な部分も少なくありませんが、日々情報をキャッチアップし、学べることを最大限吸収していきたい。多数の関係者によって日々情報が目まぐるしくアップデートされていくのを見て、アンモニアバリューチェーンを構築していくことの重要性を実感しています」(葉色)

アンモニアは燃料としてだけでなく、次世代クリーンエネルギー・「水素」活用においても、重要な役割を果たすことが期待されている。水素自体は、そのままでは輸送しにくい。そこで水素を取扱いが容易な別の物質に変換して運び、燃料として使用する際にその物質から水素を取り出して利用するといった方法が検討されている。この「水素キャリア」の最も有望な物質として注目されているのがアンモニアだ。今後、燃料用のみならず、水素キャリアとしてのアンモニア利用も進むとされる中、宮原らが取り組むサプライチェーンの構築は脱炭素社会実現に向けた大きな一歩になる。

「燃料・水素キャリア用途のアンモニアの普及は、2030年頃を目指す目標が掲げられています。水素エネルギーの利用も、その頃には活発化してくると思われます。そのロードマップに照らし合わせると、私たちのプロジェクトはまだスタートを切ったばかり。新しい取り組みであり、困難な壁に突き当たることも多々ありますが、社内外の幅広い関係者を巻き込みながら、着実にプロジェクトを前進させていきたいと考えています。新たなエネルギー・サプライチェーンの立ち上げを目の前で経験でき、自ら創り出していくことに、ビジネス創造の醍醐味、そしてやりがいを実感しています」(宮原)