日本郵船が「飛鳥Ⅱ」で子どもたちに届ける創造体験―NYKデジタルアカデミーが描く未来の学び―
公開日:2025年11月13日
更新日:2025年11月13日

日本郵船グループ社員のリーダーシップ研修プログラム「NYKデジタルアカデミー」をきっかけとし、新規事業に挑戦するための社内応募ファンドである「みらいファンド」を活用して「子供の地域による文化体験格差を是正する新規事業アイデア」のトライアルとして実施した「小樽における「飛鳥Ⅱ」船内こどもアート体験イベント」が、北海道・小樽の地で実現しました。
2025年9月7日、北海道・小樽港に寄港したクルーズ客船「飛鳥Ⅱ」船内で、地元の小中学生を対象としたアート体験イベントが開催されました。子どもたちは非日常の空間で自由にアートを楽しんだ後、旧日本郵船小樽支店を訪れ、日本郵船と小樽の歴史に触れました。この企画に込められた日本郵船グループ社員をはじめ関係者の熱い思いと挑戦を紹介します。
「飛鳥Ⅱ」で体験する非日常、子どもたちの驚きと感動の一日
「子供の地域による文化体験格差を是正する新規事業を起こしたい」という日本郵船グループの想いと、「子どもたちの豊かな学びと成長を応援したい」という小樽市のコラボレーションから生まれたこのイベントは、小樽市在住の小中学生16人と保護者を合わせた約40人の船内見学からスタートしました。
朝10時、わくわくした様子の参加者が続々と小樽港観光船ターミナルに集結。乗船するや否や高級ホテルのような「飛鳥Ⅱ」の船内装飾やインテリアに皆さんから歓声が。さらに船内を進むと、ダンスホールやカジノ、屋上プールといった豪華客船ならではの非日常空間が目の前に。その傍らには、光の角度まで計算して配置された絵画などのアートや全国各地の伝統工芸品がずらりと、さながら動く美術館です。15階建てビルの最上階に相当する高さの展望デッキに登ると、「こんなに高い場所から海を見るのは初めて」という声も上がっていました。
「飛鳥Ⅱ」の随所にある「非日常」に触れた際の子どもたちの驚きと感動こそが、文化的体験の醍醐味なのです。
小樽港に寄港した「飛鳥II」。
乗客の下船後にアート体験イベントが開催された
「飛鳥II」の船内に乗り込む参加者たち
船上でスイミングが楽しめる「シーホースプール」は大きさ22m!プールには海水を使用している
2層吹き抜けと巨大スクリーン・アスカビジョンがある
レセプション・アスカプラザを見学
船内見学後は、子どもたちのための絵画イベントがスタート。ファシリテーターはART BAR TOKYO の梅津菜々子さん。「飛鳥Ⅱ」という1日限定のアトリエで、一人一つキャンバスに作品を描いていきます。
作品のテーマは「波」。
テーマをあえて曖昧にしたのは、子どもたちに自由な自己表現の楽しさを知ってもらうためとのこと。「自由に楽しく描いてください。紙粘土で形を作り、貼ってもいいですよ」と、梅津さんが制作を楽しむことの大切さを伝えると、子どもたちの緊張感も解け、思い思いの創作活動が始まります。
小学4年生の参加者は、「学校とは違って好きに描けるのが楽しい」と無心に絵筆を動かし、クジラが躍動するダイナミックな作品を仕上げていました。
梅津さんによる画材の特徴や使い方の説明から絵画イベントがスタート!
子どもたちはアクリル絵の具や船の型紙を使って思い思いの世界を表現しました
2時間にわたって行われた絵画イベントの後は、小樽市内にある旧日本郵船小樽支店(国指定重要文化財・1906〈明治39〉年完成)に移動。通常は非公開の貴賓用玄関から入り、館長のガイドのもと、海運と小樽港の歴史についてのさまざまな展示を見学します。
歴史に触れた後は、館内の壁を彩る、日本の伝統工芸品・金唐革紙(きんからかわかみ:和紙に金属箔を張り、版木に当てて模様を打ち出し、彩色を施した壁紙)の製作を体験。
近代洋風建築を代表する建物である旧日本郵船小樽支店。石造2階建ての洋風建築。1969(昭和44)年に国の重要文化財に指定。設計はジョサイア・コンドルの下で建築を学んだ佐立七次郎。現在は小樽市が所有
金唐革紙の壁紙(復元部分)。明治期の完成当初の壁紙が一部現存
館長のガイドのもと、精緻な船舶模型に夢中になる子どもたち
金唐革紙の体験会場となった会議室。日露戦争後の1906年、この部屋で日露樺太国境画定会議が行われた。天井の漆喰彫刻が見事
金唐革紙製作体験の様子。「だんだん模様が浮き上がるのが面白かったです」と子どもたち
昭和期の復元工事の木型に錫箔を当て、コットンや綿棒で押し、模様を浮き上がらせていく
デジタルアカデミーから生まれた新規プロジェクトの芽
芸術と文化に触れ、郷土への思い深まる充実のアート体験イベントを企画したのは、日本郵船の社内研修プログラムであるNYKデジタルアカデミーの8期生、山口淳也(日本郵船所属)と、宮木大輔(郵船ロジスティクス所属)を中心とした4人のメンバーです。
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NYKデジタルアカデミー8期生、日本郵船 主計グループ 単体決算チーム・山口淳也
NYKデジタルアカデミー8期生、郵船ロジスティクス 事業推進本部 海上事業部 海上輸送センター 輸送一課・宮木大輔
山口:NYKデジタルアカデミーでは、イノベーションにつながる思考メソッドを学び、社会潮流を的確に捉え、次の一歩となる新規事業にチャレンジするマインドの形成を目指します。さらに、海外研修やインタビューなどを通して視野を広げると同時に、自分の興味や過去を振り返り、深掘りをします。新規事業を作るには相当な熱量が必要なので、本当に熱くなれるテーマを見つけなくてはならないのです。こうして、「社会を見つめる視点」と「自分を見つめる視点」という二方向からのワークショップや議論を通じて、新規プロジェクトの可能性を追求していきました。
宮木:私たちが着目したのは「地方と都市の文化体験格差」。4人のメンバー全員が地方出身で、都市部との文化的な経験の違いについて関心を持っているという共通点がありました。
山口:文化施設の充実度は都市部が圧倒的に高いです。都市部は子どもが文化施設にアクセスしやすく、プログラムも充実しています。私自身、生まれ育った街から最も近い美術館に行くには、電車で片道1時間半もかかりました。
宮木: 2024年、NYKデジタルアカデミーの研修でシンガポールとフィリピンに行ったのですが、そこで現地の大学生や若者にインタビューを行いました。特にシンガポールで出会った音楽活動をしている20代の男性との対話が、このプログラムに影響を与えています。
山口:その男性は、結婚式に使う楽曲をAIで作成し提供する活動を通じて、「人間は果たしてクリエイティビティーを維持できるのだろうか」と疑問を抱いていました。私は学生時代から、俳句の創作に親しんできましたが、今やAIの作句能力は人間とほぼ同等だと感じています。AIは素晴らしい俳句を作りますが、論理を超えた偶発的な表現は人間特有のもの。最後の5〜10%の部分でオリジナリティーを発揮し、人の心を打つ作品に仕上げるのは、人間だけが持つ力だと感じています。その力を育てるためにも、文化体験を含む小さい頃のさまざまな経験は重要と考えています。
宮木:だからこそ、人が何かを創造するプログラムが必要だと感じました。今回の企画のキーワードは「地方」×「子どもたちの文化体験の創出」でしたが、そこに「創造」が加わり、今回の新規プロジェクトの骨子が固まったのです。
絵画イベントでは「波」がテーマ。それぞれがオリジナリティーを発揮していた
「飛鳥II」を活用した“動くアートギャラリー”の発想
新規プロジェクトを考える際には、まず日本郵船グループが持つリソースは何か、というのを議論しました。その中で注目したのが飛鳥クルーズです。「飛鳥Ⅱ」「飛鳥Ⅲ」は動くアートギャラリーといってもいいくらい多くのアート作品が船内にありますし、子どもたちにとって「非日常」となるような設備・装飾が満載です。そのため、日本全国で文化体験を届けるというアイデアが固まりました。飛鳥クルーズだから、日本郵船グループだから実現できる、地方の子どもたちが都市部へ出向かなくてもアートギャラリーが地方を訪れるようなモデルを構想しました。
山口:「飛鳥II」が寄港するタイミングを活用すれば、アクセスにかかる時間、コストの課題を解決できると考えたのです。しかし同じ日本郵船グループとはいえ複数の会社をまたぐプロジェクトです。準備期間7カ月で開催することができたのは、NYKデジタルアカデミー出身者に「飛鳥II」を運航する郵船クルーズの社員がいて、相談できたことも大きかったです。この場であらためて感謝を伝えたいですね。
イベント当日、小樽港に入港した「飛鳥II」。全長241m×全幅29.6m、客室数436室、乗客数872名・乗組員数約490名の巨大で美しい船を見に、多くの人が訪れていた
鑑賞するだけはなく自ら創造する体験を
山口:子ども時代の経験は、大人になっても記憶として残ります。だから、参加した子どもたちが自由にアートを楽しむだけでなく、アートに没頭している様子を見ることができ、未来につながる経験となったのでは、と思えたのでとてもうれしかったです。
宮木:参加した中学2年生の女の子から「絵を描く仕事がしたいと思った」という感想をもらうことができました。このプログラムが将来の選択肢を広げるきっかけになればいいなと思っていたので、このようなコメントを聞けたことは感無量でした。初めて絵筆を使ったという子どもも多く、文化に触れるいい機会を創出できたと思っています。
山口:旧日本郵船小樽支店見学をプログラムに盛り込んだことで、さらに内容が充実しました。保存修理工事のための6年間の休館を経て、今年リニューアルしたばかりという絶好のタイミングで、地元の子どもたちと保護者の方々をご案内できたこともうれしかったですね。
正面玄関から入ってすぐの営業室。あめ色に輝く木製の柱や柱頭飾りに明治時代の職人技を感じる。
館内の家具の一部には明治期の日本郵船の備品番号が残る
宮木:日本郵船が明治時代から欧州航路を含む貨物や旅客の取り扱い業務を行っていたこと、小樽港が国際港として発展してきた背景を知ることができました。地方にはまだまだ多くの文化的な資産があるはずです。寄港地の魅力を深掘りすることで、新しい価値が生まれると感じました。
「このアート体験イベントの開催自体に、自分の作品が世に出るような誇らしさを感じています」と山口と宮木は語ります。今後は郵船クルーズが、既存の社会貢献の取り組みに落とし込む形で、本プロジェクトのアイデアと精神が引き継がれる予定です。子どもたちが、日本郵船グループの「船」を通してどこに住んでいても豊かな文化体験をしてのびのびと成長する、そんな未来を予見する1日でした。
(右)山口淳也 日本郵船 主計グループ 単体決算チーム所属。三重県出身。幼い頃から俳句に親しみ、全国高等学校俳句選手権(俳句甲子園)で準優勝の経験を持つ。現在は業務の傍ら、日本郵船グループのクラブ活動「二引会」にて俳句班の班長を務めている。
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(左)宮木大輔 郵船ロジスティクス 事業推進本部 海上事業部 海上輸送センター 輸送一課所属。愛知県出身。上京後、都市部出身者と地方出身者の文化経験の格差を知り、課題意識を持つ。






