世界が見える海運ゼミナール 海運データから世界経済の潮流を読み解く
公開日:2026年02月18日
更新日:2026年02月17日

NewsPicksプロピッカー
日本郵船株式会社 調査グループ グループ長
林 光一郎が教えます!
海運データは世界経済の動きを最も素直に映す指標の一つです。品目別に荷動きの変化を見ることで、世界の成長と構造的シフトの「流れ」が見えてきます。
◆ここがポイント!
・世界の海上荷動きは1989年から35年で3倍強に増加
・世界経済と海運需要は長期的に連動してきた
・コンテナ輸送は品目別で最も伸び、10倍以上に拡大
・海運需要を押し上げた品目は時期により異なる
・エネルギー転換や経済安全保障が新たな影響要因に
1980年代以降の海上荷動きの変化
前回の記事「数字で見る海運の“底力”。世界貿易における圧倒的存在感」で、世界の海上荷動きの内訳について説明しました。その続編として、その内訳が1980年代末から35年の間にどう変化してきたのかについて分析します。
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今回の分析に利用するのは、前回と同じClarksons社の統計です。世界トップの海事情報会社である同社が品目別の海上荷動き量年次推移を公開しています。「バルカー(ばら積み貨物船)のことをもっと知ってもらいたい ―基本・歴史編―」でも少々書きましたが、外航海運では1950年代に貨物別の専用船種の成立・利用拡大が始まりました。1989年にはこの動きが落ち着き、ほぼ現在と同様の船種構成が成立していましたので、船種別、つまり品目別内訳の推移を分析する起点とします。なお、今回利用するのは前回の記事で使った輸送量(トンキロ)ではなく船積み量(トン)です。
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海上荷動き全体の推移
はじめに世界の荷動きの推移を見てみましょう。1989年から2024年にかけての世界の船積み量の推移は図1のようになります。
図1:世界の海上荷動きの推移
出所:Clarkson Shipping Review and Outlook September 2025
世界の海上荷動きは、1989年の41.6億トンから、2024年には127.3億トンに拡大しました。35年間で3.1倍に拡大し、年率換算で3.2%の成長を遂げたことになります。この期間に世界全体の実質GDPは2.6倍、年率2.8%で拡大してきたため、荷動きの伸びは世界経済の拡大をやや上回るペースで伸びてきたことになります。
図1からは、世界の荷動きがリーマンショック(2008年)やコロナ禍など特殊な時期を除いて着実に成長してきたことも見て取れます。
品目ごとのシェアの変化
続いては、個別の品目について見ていきましょう。図1のグラフからでも品目ごとのシェアの変化に差があることは分かりますが、もう少しはっきりさせるために、1989年と2024年の内訳を対比しました。図2をご覧ください。
図2:1989年と2024年の品目別海上荷動きシェア
出所:Clarkson Shipping Review and Outlook September 2025
図2からは、液体貨物とその他貨物のシェアが低下し、石炭・鉄鉱石とコンテナのシェアが上昇したことが読み取れます。特に変化が大きかったのはコンテナで、1989年のシェアが5.6%だったのが2024年には15.4%まで拡大しています。荷動き量の絶対値で見た場合、2024年は1989年の8.5倍にも達します。
このような品目別のシェアの変化は、35年間一定のペースで生じてきたわけではありません。この期間の海上荷動きをリードしてきたコンテナと石炭・鉄鉱石の伸びの推移を、海上荷動き全体の伸びと比較したのが図3です。年ごとの変動を取り除くため5年移動平均にしています。
図3:品目別荷動き伸び率推移(基準年から前の5年の移動平均)
出所:Clarkson Shipping Review and Outlook September 2025
これを見ると、コンテナ、石炭・鉄鉱石いずれも海上荷動き全体とは異なったトレンドで動いていることが分かります。
コンテナについては、1980年代末から2000年代前半にかけて非常に高い伸びを示していたものの、2000年代後半以降に減速しているのが読み取れます。前半の高い伸びの理由は、1980年代からアジアを中心としたサプライチェーン分業が進み、資源と完成品だけではなく、部品・仕掛品(生産工程途中の製品。半製品)や生産設備などの荷動きが増加したことで、GDPの伸びを上回る高い伸びが発生し、2000年代に入って中国がその分業体制に参加することで荷動きが加速したことです。後半の減速については、2000年代半ばには部品や生産設備の自給化が進むことで荷動きの伸びが鈍化したことが理由と考えられます。
石炭・鉄鉱石については、2000年代に急激に伸び率が加速し、2010年代に入って大幅に減速しています。2000年代の中国が製造業やインフラ投資を中心とした非常に高い経済成長を遂げ、資源の輸入を急拡大させたことが原因です。
「中国爆食」という言葉を記憶している方も多いと思います。2010年代以降になって中国の経済構造の変化により荷動きの伸びが減速し始め、2010年代後半には海上荷動き全体の伸び率を下回るようになりました。
〈まとめ〉
過去40年ほどの間、世界の海上荷動きは着実に拡大してきましたが、内訳を見ると時代ごとに伸びをリードした品目とその理由は移り変わってきました。今後もさまざまな要素、例えばエネルギー転換や各国での経済安全保障意識が海上荷動きに影響を与えていくでしょう。ですが、海上荷動きが世界の人口増加と経済成長につれて増加していくことには変わりなく、日本郵船をはじめとする海運会社は、さまざまな要素の変化をビジネスチャンスとしつつ、必要な荷物を輸送する要請に応えていくことになります。







