「日本郵船これくしょん」Vol.9 シャトルタンカー編 ―海の底から掘削した原油をピストン輸送―
公開日:2026年03月06日
更新日:2026年03月09日

重油とLNGを燃料として使用できる二元燃料シャトルタンカーFrida Knutsen(フリーダ クヌッツェン)
開発が進む海底油田から原油を輸送
「シャトル」は決まった経路を行き来する定期便を、「タンカー」は液体貨物を輸送する船を、それぞれ意味します。では、「シャトルタンカー」は何の液体を運び、どこを行き来している船なのでしょうか。
その答えはこちら。
シャトルタンカーは、海底油田で産出される原油を陸上施設に繰り返し運ぶための専用タンカーなのです。
原油といえば中東などの砂漠地帯で産出されているイメージを持つ人が多いかもしれません。でも、そこがたまたま砂漠(陸地)だったというだけで、海に覆われている地盤の下、つまり海底にも膨大な資源が眠っています。
海洋での油田開発は1947年、米国のルイジアナ沖の大陸棚で最初に始まりました。技術の進歩によって大陸棚の斜面やさらに深海底へと開発は進展していき、1960年代は水深200m程度での採掘だったのが、2005年以降になると水深3000mからも採掘できるようになっています。
現在、海洋油田は北海、メキシコ湾、西アフリカ沖、ブラジル沖など、さまざまな地域で開発され、生産量は世界の約3割を占めるに至っています。
海底油田からくみ上げられた原油を、ガソリンなどに精製するべく陸に運ぶにはどうするのでしょうか?方法はパイプラインかタンカーの2択になります。
パイプライン敷設には膨大なコストがかかります。海底油田の場所が変われば、新たに敷設し直さなければなりません。そのため、海底油田と石油精製・備蓄基地の間をピストン輸送するシャトルタンカーの活躍の場が増えています。シャトルタンカーが別名「フローティング・パイプライン」と呼ばれるのにも納得です!
シャトルタンカーは船首部分のバウハウスと呼ばれる荷役用の区画が特徴
【日本郵船これくしょんシリーズ】
洋上で原油を積み込む特殊仕様のタンカー
洋上で原油を積み込むシャトルタンカーの作業は非常に精密でなければなりません。風や波、潮流など不安定な自然環境のもと、安全確実に原油を取り扱う必要があるからです。
シャトルタンカーは、通常のタンカーと違って、荷役用のBLS(バウ・ローディング・システム)や、自動で船体保持を行うDPS(ダイナミック・ポジショニング・システム)などを備えているのが大きな特徴です。ハンディーサイズ(載荷重量6万トン以下)から、アフラマックス(同8万~12万トン)、スエズマックス(同約15万トン)までサイズはさまざまで、一般のオイルタンカーを改造して作られることもあります。
海底油田側の設備には固定式と浮体式の2種類があります。現在最もポピュラーなのが、浮体式海底石油・ガス生産貯蔵積出設備であるFPSO(フローティング・プロダクション・ストレージ&オフローディング・システム)です。FPSOの見た目はほぼタンカーですが、デッキに備えた生産設備で海底からくみ上げた原油の有用分だけを分離してタンクに貯蔵し、タンカーへ積み出しを行います。産油が続く限り、FPSOは定位置に係留され、シャトルタンカーは主にこのFPSOから原油を積み込みます。
シャトルタンカーで特徴的なのが船首部分にあるバウハウスと呼ばれる区画で、ここにBLSが設けられています。洋上ではFPSOとシャトルタンカーが縦列に並ぶタンデムローディングという配置で荷役をします。バウハウス内のBLSに荷役ホースを接続して原油を積み込むのです。緊急時には速やかに離脱できるよう、ホースの切り離しは通常のタンカーよりも容易にできるよう設計されています。また、シャトルタンカー自体を荷役設備のあるブイに一点係留(SPM、シングル・ポイント・モーリング)して荷役を行う際にもBLSが使用されます。
シャトルタンカー(手前)とFPSO(奥)が縦列で荷役を行う(タンデムローディング)
バウハウスには荷役で使うBLSを備えている
シャトルタンカーはFPSOからメッセンジャーラインにより係留索を受け取る
荷役ホースをウインチで引き揚げ、カーゴラインを接続し荷役を開始する
荷役中に船体を安定させる高度なシステムが鍵
荷役中に船体をあらかじめ設定した位置に安全にとどめるのがDPSです。位置情報や風向・風速、船体の上下動などさまざまなデータをもとに、舵やプロペラ、スラスターなどをコンピューターで常時制御して船体をコントロールするシステムです。
風や波、潮流など自然の外力に関するデータは、各種機器からDPSに取り込まれます。一般商船の場合、風向風速計は1基ですが、シャトルタンカーでは複数設置されています。船体の動揺はMRU(モーション・リファレンス・ユニット)によって計測され、潮流もさまざまなデータから算出してDPSモニター上に表示します。
シャトルタンカーの舵は左右最大65度~70度まで動く特殊仕様。プロペラの羽根の角度(ピッチ)を変えられる2軸可変ピッチプロペラを持つシャトルタンカーもあります。さらにスラスターは2種。横方向の移動が可能なトンネルスラスターや、荷役時だけ使用するアジマススラスター(360度回転するポッドにプロペラが付いている装置)により、船を全方向に動かせます。DPSでは、これらの装備を自動で制御して、船を安定させています。
FPSOとホースを接続し、荷役を行うのにDPSは不可欠です。シャトルタンカーはまず、FPSOまで10カイリ(約1万8520m)のところで減速し、約1000m手前でいったん停止します。DPSをテストして、互いに異常がないことを確認した上で接近し、FPSOから発射されるメッセンジャーラインを受け取り、係留索を巻き上げます。続いて、荷役ホースを接続して安全を確認した上で荷役を開始します。原油はBLSからデッキを経由するパイプを通って各タンクに注がれていきます。
荷役中、FPSOなどの目標物とシャトルタンカー船首の距離は65m~90m、船首と目標との方位差は左右35度以内に保たれるようDPSによって船の位置を制御します。この範囲を逸脱すると荷役が直ちに中止される仕組みになっています。万一流出すれば甚大な環境汚染を招く原油の積み込みは、非常に厳密なシステムとオペレーションに守られているのです!
操縦性能を良くするために、舵板も特殊な形状。港内操船時などきめ細かな操船に役立つ
2軸可変ピッチプロペラ。プロペラの回転数は一定のまま、推力や進行方向を変えられる
MRUでロール、ピッチ、ヒーブ、ヨーなど船の動揺を計測。得られた情報をDPSに取り入れている
地球環境を守りつつ大切なエネルギーを移送する
多様なオペレーションの頭脳としての役割を担っているのがブリッジ(船橋)です。ブリッジには計器類がずらりと並び、右舷側に通常の航海に必要な電子海図やレーダーが、左舷側にはDPSモニターや荷役モニターなどが配置されています。原油積み込み中の荷役指示や監視、バラスト水の調節などもブリッジで行われているのです。
さらに、シャトルタンカーならではの装備も多数あります。
タンクに積まれた原油はガス状のVOC(揮発性有機化合物)を発生します。VOCは環境にも健康にも悪影響を生じる物質。その対策として、パイプ内の原油の流れ方を改善して発生を抑制するシステムを装備しています。近年はVOCを再液化する回収装置を装備したシャトルタンカーも増えています。
海底油田は、北緯70度以上の寒さの厳しい海域にもあります。そのため、乗務員の居住区だけでなく、BLSやパイプライン、電線を覆うデッキ上構造物内部にヒーティングシステムを装備したシャトルタンカーも多数あります。
代替エネルギーへの転換が注目されている現在も、原油が人々の暮らしや産業の主要なエネルギー源であることは変わりません。日本郵船がシャトルタンカー事業に参画したのは2010年12月のことでした。
日本郵船がノルウェーの海運会社とともに設立したクヌッツェンNYKオフショアタンカーズ社のもと、現在は世界各地で29隻が稼働中。シャトルタンカー業界でトップシェアの地位を確立しています。2022年からは温室効果ガスを抑えるLNG燃料を併用するシャトルタンカーの運用をスタートし、2025年にはメタノール・エタノール燃料の使用を想定した新造船にも着手しています。
日本郵船では、長年のタンカー事業で培った技術力を生かし、環境に十分に配慮しつつ、世界の国々に向けての原油安定供給を担っています。
多数の機器、モニターやスイッチが設置されて、ブリッジはさながら航空機のコックピットのよう
VOC発生を抑制するKVOC®を装備
甲板上に設置されたVOCを再液化する装置
寒気を防ぐため両脇のウイングまで覆われている(全天候型船橋)
ライフボートもトランク(筒状の構造物)で覆われている






