無人運航船プロジェクトMEGURI 2040 世界最先端技術の開発で社会課題を解決
公開日:2026年04月28日
更新日:2026年04月28日

日本財団が推進する内航海運を対象にした「無人運航船プロジェクトMEGURI2040」で、日本郵船グループは中心的な役割を担っている。このプロジェクトのステージ2では、完全自動運航が一部可能な自動化レベルとして、自動車の自動運転レベル4相当(条件付き自動運航)を目指しており、海事業界の最先端として世界中から注目されている。海事産業だけでなく他産業も参画してのオールジャパンで技術開発に取り組むと共に、社会実装に向けたルール整備と情報発信を通じた社会的な理解の醸成にも取り組んでいる。このプロジェクトの成果は、国際海事機関(IMO)での自動運航船に関する国際ルールづくりを日本が主導する土台にもなる。
世界初商用運航、社会実装へ前進
日本財団の「MEGURI2040」は、内航海運の少子高齢化に伴う人手不足、ヒューマンエラーによる海難事故といった社会的課題の解決と、日本の海事産業の競争力強化を目的に、無人運航船の実用化を目指して技術開発を進めるプロジェクトだ。このプロジェクトで2019~21年度に実施されたステージ1では、5コンソーシアム・6隻による世界に先駆けた内航船の無人運航の実証運航に成功した。これに続いて22年度からスタートしたステージ2では、無人運航船の社会実験にとどまらず、社会実装を大きく前進させることを目指している。
ステージ2では、ステージ1に参加したコンソーシアムのメンバーが一つにまとまり、オールジャパンで53社、国内外の協力組織を含めると100社超のコンソーシアムがオープンイノベーションによる開発などを進めている。海運・造船・舶用など海事クラスターだけでなく、異業種も参画する。ステージ1とステージ2はそれぞれ100億円規模の事業になり、その8割強を日本財団が助成している。
技術開発では、自律操船、自動離着さん・係留技術、遠隔からの複数船舶の同時支援、より安定的な船陸間通信の確保などに取り組んでいる。新造船を含むコンテナ船2隻と既存のRORO船、離島航路船という船種や船型、航路が異なる計4隻と、常設型と災害時対応を視野に入れた移動型の二つの陸上支援センター(フリート・オペレーション・センター、FOC)を用いて無人運航を実証する。陸上支援センターから同時に複数の船を監視・支援するなど、より社会実装を意識したものになる。陸上からの複数の無人運航船の航行支援は世界初のことだ。
実証船4隻は表のとおり。複数船舶の運航監視、航海機能・機関機能に関する個別支援、航海計画策定などの陸上支援機能をすべて兼ね備えた陸上支援センターが、兵庫県西宮市の古野電気社屋内に完成した。また、複数船舶の同時監視などを可能にしつつ、将来的な普及と災害時の冗長性の担保を見据えて、陸上支援に必要な機能をコンパクトに集約した移動型陸上支援センターを開発した。
社会実装を目指すプロジェクトのため、技術開発だけでなく、ルール作り、次世代に向けた無人運航船の社会的理解の増進も重要視する。ルール作りについては、規制緩和を通じた社会実装の実現と、国際規格化による日本海事産業の国際競争力の強化をねらう。
自動車と異なり、船は実物でテストするのが難しいため、設計フェーズでシミュレーター技術も活用している。日本郵船グループを含む海事産業が参画する東京大学の社会連携講座「海事デジタルエンジニアリング(MODE)講座」で取り組むシミュレーション技術を活用したデジタルエンジニアリング手法を実践する場にもなっている。
実証船4隻のうち“おりんぴあどりーむせと”が25年12月に国内初となる「自動運航船」として国の船舶検査に合格し、商用運航の準備が整った。日本財団の調べによれば、一般乗客が乗船する定期旅客航路で、自動運転レベル4相当による定常的な商用運航が行われるのは世界初となる。自動運転レベル4相当とは、特定のエリアや条件下において人の介入を必要としない完全自動運転が一部可能な技術段階を指し、船舶については現在、国際海事機関(IMO)などで定義が議論されていることから、便宜的に自動車分野の定義を流用している。
“おりんぴあどりーむせと”は、国際両備フェリーが運航する旅客定員数500人の離島航路船で、新岡山港(岡山市)から土庄港(香川県・小豆島)を結んでいる。「MEGURI2040」では、離島航路における自動化実証のための試験船として使用されてきた。船舶往来が盛んで障害物となる島や岩礁も多い瀬戸内海域において、センサーやプランナー(避航ルートを自動で計画)などのシステムが適切に動作するかなどを確認するための安全性評価が進められた。船員のみで自動運航船として航行するためには計2回の検査を受ける必要がある。1回目は設計段階・機器搭載前・船上で実施され、合格すると「初期段階の自動運航船」(自動運航システムのすべてのタスクに人の介在が必要)として検査証書が交付される。2回目の検査にクリアすると「自動運航船」として船員のみで運航可能になる。“おりんぴあどりーむせと”は25年7月と12月にこれら2回の検査に合格した。
「MEGURI2040」の残る3隻の自動運航機能搭載船についても、順次求められている検査に合格させ、4隻同時運航も行う計画だ。
移動型陸上支援センター(画像提供:日本財団)
“おりんぴあどりーむせと”に搭載されている自動運航装備(画像提供:日本財団)
自動車船に自律運航システム搭載
日本郵船は「MEGURI2040」の開発成果の活用に踏み出している。安全運航の達成と船上業務の効率化を目指して、最新のマリンDX機器を26年3月に新来島豊橋造船所で竣工予定の自動車船に搭載することを決めた。「MEGURI2040」で開発された自律運航システムと、大動揺防止システム、船内全域をカバーするWi‑Fiネットワークを搭載。実際の商用航海中にトライアルを実施して効果を検証する。
自律運航システムは、船員の監視のもと、自動で衝突・座礁を回避し、安全な航行を支援する。従来、操船者が手動で行っていた航海当直時の情報収集、状況分析、避航計画の立案などをサポート。船舶の大型化や交通量増加、搭載機器の複雑化などによって増加する操船者の負担を軽減し、ヒューマンエラーに起因する事故を防止する。
日本郵船が搭載する自律運航システムは、人工知能(AI)を活用した画像認識技術や、レーダーターゲットの自動解析技術などにより周囲の情報を収集して状況を分析し、衝突リスクなどの情報を可視化するほか、避航計画を立案して自動で操船を行う。従来通りの乗組員による操船への随時切り替えも可能だ。
大動揺防止システムは、専用のレーダーによって観測された波浪データをもとに本船コンディションに応じた船体動揺をシミュレートし、その結果に基づき最も揺れにくい針路と速力を操船者に提案する。大きな動揺の発生を予防し、貨物の保護と安全性の向上を目指す。海象条件が同じでも、船の針路や速力によって船体の挙動は大きく異なるため、デジタル技術で操船判断をサポートする。
同船は船内全域にWi‑Fiアクセスポイントを設置し、船内の通信環境を大幅に改善する。衛星通信の発達により船陸間の通信環境は改善が進んできているが、船内では船橋や居住区など、通信が可能な場所が限られているのが現状だ。機関室や甲板上、貨物倉内などの現場では、オンラインマニュアルや資料の閲覧のほか、リアルタイム映像によるトラブル状況の確認、傷病者発生時の陸側医療機関とのコミュニケーションなどが困難な場合がある。また、船体は金属でできているため、船内コミュニケーションに使うトランシーバーが届きにくい場所が存在し、日常業務に支障をきたすことがある。これらの課題を解決し、船上業務の効率化と安全運航を実現する。
自動車船に搭載する自律運航システム(御社の2025年11月5日付プレスリリースより引用https://www.nyk.com/news/2025/20251105_01.html)
プロジェクトを動かすキーパーソン
橋渡し役と牽引役を担う
日本海洋科学 桑原悟 執行役員運航技術グループ長、船長
(桑原氏)
1994年日本郵船入社。
原油タンカーなどの海上勤務と陸上勤務を繰り返し経験した後、2017年に株式会社日本海洋科学に出向。
現在「MEGURI2040」のコンソーシアムのプロジェクトディレクターとしてプロジェクト全体を統括。」
——「MEGURI2040」の意義を教えてください。
人手不足という社会的課題は海運業界も例外ではなく、特に内航船や旅客船では船員不足によって実際に船が止まり始めています。この社会的な問題に対して、日本財団は無人運航船が一つのソリューションになると考え、無人運航船の社会実装による国内物流・人流の健全性維持を目指して「MEGURI2040」を立ち上げ、われわれ日本郵船グループも参画しています。今はスマホをクリックすれば翌日には商品が届く時代で、国内物流を支える海運の重要性が感じにくくなっているかと思います。しかし、コロナ禍を経て、海運が止まれば国民生活に大きな影響があるということが、改めて一般の方々にも認識されたかと思います。そのような状況の中、海事立国の日本として、持続可能な海上輸送を実現することがこのプロジェクトの大きな意義です。
——「MEGURI2040」の目標は。
一つ目は、船員不足によって国内物流の健全性が損なわれることに対して、輸送の安定性を確保すること。二つ目は、船員不足への対応策として船上の労働負荷を低減すること。三つ目は、海難事故の約8割がヒューマンエラーと言われる中で、人間の弱点を踏まえ高度なシステムで支援することによって、安全性をより高めることです。
人間は自分の弱点をあまり見たがらない生き物です。私自身の船員としての経験からも、夜間航行の目視には限界がありますし、年齢を重ねれば視力も集中力も徐々に落ちていきます。それをしっかり踏まえた上で、人間の能力をカバーする技術を積極的に取り入れるべきだと考えています。「MEGURI2040」で目指しているのは、安全運航を支援するシステムです。日本財団から最初に与えられた課題は「完全無人」でした。技術的に可能性はありますが、ルールの整備も含めるとその社会実装は決して簡単なことではありません。将来的な「完全無人」は技術者として意識はしていますが、まずは今目の前にある社会課題を解決するために、日本財団と「MEGURI2040」で目指すゴールについて議論を重ねました。
われわれが開発したシステムは条件が整えば無人で船舶を動かせますが、24時間365日、手放し運転ができるものではなく、輻輳度が高く衝突の危険性が著しく高い場合や、システムの安定性が落ちた場合には人が介在する設計となっています。つまり「船橋は無人、船内は有人」という考え方です。
—— 省人化の具体的なイメージは。
例えば、749総トン以上の内航貨物船は通常、航海当直要員が6人(2人×3交代)ですが、当直者1人分をシステムに置き換えることで、3人体制(1人×3交代)が可能になります。機関職員については、機関長と機関士が乗り組むところを、機関長を陸上支援センターに配置して陸上から支援することで、人手不足に対応可能となります。将来的には船員OBに、各地方に設置した陸上支援センターで働いてもらうことで人材を確保するといった未来のビジネスモデルも考えながら取り組んでいます。
また、内航船の初級資格である6級の船員が、自動車のオートマ限定免許のように、システムや陸上からの支援の下で4級相当の船を動かすことが可能になることも考えられます。労働負荷を下げることで、人が減っても安全に船を動かせる、つまりは船舶を簡単な乗り物にすることを考えています。労働負荷というと労働時間の削減と考えがちですが、精神的負担を下げることも重要です。
——「MEGURI2040」での日本郵船グループの役割は。
「MEGURI2040」のステージ2では参加企業が53社に拡大し、協力会社を合わせると100社を超え、海外のメーカーや研究機関ともやり取りしています。私は「MEGURI2040」のコンソーシアムのプロジェクトディレクターとしてプロジェクト全体を統括しており、国土交通省、海上保安庁、全日本海員組合など関係機関に対する窓口も務めています。
日本海洋科学やMTIを含む日本郵船グループに期待されているのは、ユーザーの声をメーカーにしっかりと伝えることです。メーカーの力が強い海外では、メーカーが自分たちの持つ技術を使ってもらうというアプローチなのに対し、日本のメーカーはユーザーとの関係がフラットで、ユーザーが求める商品を作るというマインドが非常に強いと感じます。ただ、現場の船員の「ちょっと違うぞ」「こういうものが欲しいんだが」という感覚をメーカーに定量的に伝えるのは、実は簡単ではありません。そのような時に、海運会社として船と物流の現場を知り、かつ国内外のメーカーの皆さんと共にさまざまな技術開発を行ってきた、われわれ日本郵船グループが間に入ることで、話をつなぐことができます。
また、ユーザー、メーカーそれぞれに対して開発の先を見せるということが非常に重要です。ユーザーとしては安全・効率運航というメリットが得られ、メーカーとしては開発した技術が世の中を支え、ビジネスになるといったウィンウィンの関係で進んでいることを感じてもらうことで、各企業は信用してプロジェクトに集まってくれます。「MEGURI2040」のステージ2自体は延長を経て26年9月までですが、プロジェクトの成果も生かして、日本郵船は26年3月に新来島豊橋造船で竣工予定の自動車船に無人運航システムを搭載し、われわれの使命である航行安全を高めていきます。
実際に見に来てもらえたら分かりますが、「MEGURI2040」のコンソーシアムは高校の部活のような雰囲気で、所属や立場に関係なく、ワイワイガヤガヤとみんなが自由に意見をぶつけ合いながら開発を進めています。そもそも日本人の国民性として、それぞれの利害をいったん忘れて、みんなで集まって力を合わせるという船団形式が得意です。ただ、全体を引っ張ることが苦手で、うまくいかないと烏合の衆になってしまうおそれがありますので、そうならないための牽引役を日本郵船グループは期待されていると思います。
「MEGURI2040」では、技術開発と並行して無人運航船に関するルールづくりなどの環境整備も進めていますが、環境整備のための国交省をはじめとする各方面との調整も、われわれの大きな役割です。環境整備は海事クラスターだけではつくれないため、通信会社や保険会社などにも参加してもらっています。そういった他産業との間の調整役も担っていると思います。
SF調にデザインされた陸上支援センター
—— 他に注目してもらいたい点は。
「MEGURI2040」では対外発信にも非常に力を入れています。こういった新たな技術の開発・社会実装には、「安全」と「安心」という二つの視点があり、技術開発で安全性は高めることができますが、社会実装のためには、無人運航船の安全性に対して一般の方々にも安心感を持っていただくという社会的理解、社会受容性の向上にもしっかりと取り組む必要があります。
さらに、船員の仕事に対して子供たちに興味を持ってもらったり、システムエンジニアをさまざまな分野で取り合う状況の中で、海事関連の開発に携わりたいと思ってもらうためにも、「MEGURI2040」が世の中の注目を浴びるような仕掛けづくりにも力を入れています。例えば、かっこよさをねらってSF調にデザインした陸上支援センターで子供たちの見学会を開催したり、人の目に触れる移動型陸上支援センターの外装デザインを公募するなど、より多くの関心を持っていただけるように遊び心も大事にしています。
2026年3月31日発行の海事プレス増刊号を再編集






