これが私たち日本郵船の「仕事」ですチームワーク

「熱意」と「共創」で生む、国産CTV 建造の舞台裏

alfonsino_arrow

洋上風力発電の拡大に伴い需要の増加が見込まれる作業員輸送船(CTV: Crew Transfer Vessel)。洋上に展開する風車と陸を結び、日々の保守・運用を支える重要な船です。このほど日本郵船と小鯖船舶工業(岩手県釜石市)が手掛けた、国産CTV “ALFONSINO ARROW” の建造プロジェクトは、技術的な挑戦という意義に加え、日本特有の制度の壁を乗り越えるための試行錯誤、そして関係者が熱意を持ち一体となって進めた共創のプロセスがありました。日本郵船技術開発グループ・グリーン技術チームの中山大樹、小鯖船舶工業の小鯖千年社長に、その舞台裏を聞きました。

alfonsino_arrow

2025年末に進水命名式を迎えた、国産CTV “ALFONSINO ARROW”

国産機器の搭載率は9割以上

――まず、CTVとはどのような船なのか、役割から教えてください。

中山:CTVは洋上風力発電設備の日々の運用を支える重要なインフラです。風車の建設・保守の現場に、人を安全かつ効率的に送り届ける役割を担っています。洋上の風車は一度設置して終わりではなく、長期間にわたって保守・点検が必要になります。そのため、CTVの存在は欠かせません。国内では建造できる造船所が限られており、まだまだ数は少ないですが、洋上風力発電が日本の沿岸で拡大していく中、こうした船の日本での需要は今後確実に増えてくると考えています。

nakayama-san

日本郵船 技術開発グループ・グリーン技術チーム 中山大樹

――CVT “ALFONSINO ARROW” は日本郵船にとって、どのような位置づけですか。

中山
:当社が国内に投入するCTVとして2隻目で、24人の作業員を輸送できます。1隻目はシンガポールで建造した船を日本に持ち込んで運航していますが、今回の船は完全な国内建造です。当社は2025年1月に欧州でCTV運航の実績を持つ企業をグループに迎えており、そのノウハウをベースにしています。特に船の基本設計に関する知見は大きく、そこを出発点として日本のルールや環境に適合させていきました。

ただ、その欧州企業のノウハウをそのまま日本に持ってくればいいという話ではなく、日本のルールや港湾条件、運用環境とのギャップがかなりありました。例えば規制の考え方一つとっても違いますし、求められる仕様も異なります。そのため、「実績のある海外の設計思想をベースにしながら、日本仕様に落とし込んでいく」という作業が非常に重要で、かつ難しい部分でもありました。それでも最初に「幹」となる設計を持ってスタートできたことは、このプロジェクトにおいて非常に大きかったと思います。

――本船の特徴について教えてください。

中山
:やはり最も象徴的なのは、国内建造であることと、搭載機器の9割以上を国産とした点です。国内でのメンテナンス性やサポート体制を考えた結果でもあります。CTVは日常的に稼働する船なので、故障時に迅速な対応ができるかどうかが非常に重要です。海外製品だけで構成された船ですと、国内でのサービス網が十分でないケースもあります。その点、国内メーカーであればきめ細かな対応が期待できます。

今後CTVを複数隻運用していくことを想定しているため、仕様を揃えることで効率化を狙っています。一方で、 CTV特有の機器は、現状では国内での調達がどうしても難しく、海外製品を搭載しています。今後、国内のサプライチェーンが育っていくことを期待しながら、引き続き取り組んでいきます。

――建造に携わった小鯖船舶工業の特徴や強みはどこにありますか。

小鯖社長
:当社はもともと鋼船(船体の主要構造を鉄鋼で建造した船)を中心に建造していましたが、私の代からアルミ船の建造に特化するようになりました。特に大型押出型材を活用した構造と、高い品質管理が強みです。アルミは軽量で高速船に適していますが、熱による歪みが出やすく、溶接も難しい素材です。そのため高度な技術と管理が必要になります。当社では長年の経験をもとに、品質と生産性を両立させてきました。CTVのような船は、このアルミ船の建造技術があって初めて成立するものです。長年積み重ねてきた技術が今回のプロジェクトでも活きました。

kosaba-san

小鯖船舶工業 小鯖千年 社長

設計手法に3Dモデルを活用

――このプロジェクトはどのように始まったのでしょうか。

中山:洋上風力発電の導入拡大に伴ってCTVの需要は高まっていくと考えられる一方、日本での本格的な建造実績はまだ少なかったため、今後を見据えて国内での建造体制を整えることが不可欠だと考えていました。そんな中、CTVに不可欠なアルミでの建造ノウハウを持つ小鯖船舶工業さんにお声がけして始まりました。

小鯖社長:日本郵船さんから最初に声をかけていただいたのは7年ほど前です。当時は別の事業もあり、正直迷いました。ただ、2050年のカーボンニュートラルに向けた取り組みとして、国内でCTVを建造する意義は大きいと感じました。社内で相当に議論を重ねたうえで、最終的には「一緒にやろう」という思いで決断しました。振り返ると、「熱意」がなければ踏み出せなかったプロジェクトだったと思います。

――日本郵船は船主という立場ですが、今回のCTV建造に深く関与していますね。

中山:通常、船主としては船を発注し、造船所が設計したものを承認する立場ですが、今回はその垣根を越えて、船主でありながら設計にも踏み込みました。 モニターするのではなく、一緒に作る。そういうプロジェクトでした。

sheats_alfonsino_arrow

遠洋の洋上風力施設まで数時間かけて作業員を送り届けるCTV。到着後すぐに作業できるよう、揺れを吸収し乗り心地を重視した設計になっている。

――設計面でも新しい取り組みがあったそうですね。

中山:今回のCTVを設計するにあたり、3Dモデルを用いました。これにより、設計段階から関係者全員が同じイメージを共有できるようになりました。

小鯖社長:船舶建造のベテランであれば2D図面を見れば頭の中で立体的に理解できますが、現場の全員がそうできるわけではない。特に狭い船内での配置を検討するには、2D図面だけでは理解が難しい部分も多く、3Dの効果は非常に大きかったです。現場でもタブレットを使って3Dモデルを確認しながら作業できるため、意思疎通が格段にスムーズになりました。

中山:3Dモデルは竣工後も、船舶管理やメンテナンスで活用できると期待しています。

ctv_alfonsino_arrow

ctv_alfonsino_arrow_3dmodel

未知への挑戦、規制の壁を乗り越える

――建造で最も苦労した点は何でしょうか。

中山:技術的な課題も多くありましたが、規制への対応もプロジェクトの重要な柱のひとつでした。国土交通省が法令に基づいて実施する船舶検査(JG検査)は非常に厳格で、欧州のCTVとは前提が大きく異なります。欧州ではCTV専用のルールが整備されていますが、日本では既存の制度の中で適合させる必要がありました。24人乗りのCTVを実現させるにあたり、国交省をはじめとする関係者のみなさまと連携しながら、法規制の課題を地道にクリアしていきました。その協力があったからこそ、今回のCTVが完成したと感じています。

小鯖社長:日本では20総トンを超える船は国交省による規制・検査の対象になりますが、CTVに特化した規制がありません。つまり、もともと日本のルールの中で想定されていない船を既存ルールに当てはめるという難しい課題に直面しました。安全性の確保をはじめ、様々な局面で既存法制との整合をはかる必要があり、官公庁の協力を仰ぎながら、一つひとつ丁寧に乗り越えていきました。このプロジェクトは民間企業だけでは絶対に実現できませんでした。「国産CTVをつくる」という共通の目標のもと、官民が熱意をもって取り組んだからこそ、完成させることができたのです。

中山:最終的にJG検査で認められたときは、本当に感慨深かったですね。努力が形になった瞬間でした。

kosaba-san

小鯖社長は「国産CTVは、関わった人たちの地道な努力と熱意の結晶」と語る

―― “ALFONSINO ARROW” は2026年に竣工する予定です。国産CTV建造プロジェクトの成功の要因は何だと思いますか。

中山:未知の分野に挑戦する中、新たな道を切り開いていく必要がありました。そのために重要だったのは「ともに創る」という形だったと思っています。当社の社内ではよく「共創」という言葉を使いますが、まさにそれが体現されたプロジェクトでした。ただ実際には、途中で非常に厳しい局面もありました。そういうときに最終的に乗り越えられたのは、小鯖社長や、現場で働いている方々の力でした。現場の一人ひとりが本当に最後までやり切ってくれたという実感があります。

振り返ると、「誰とやるか」が非常に重要だったと強く感じています。外から見るとスムーズに進んだように見えるかもしれませんが、実際にはかなり苦しい場面も多くありました。それでも前向きに捉えて、どうやって切り拓いていくかを考え続けた結果が、今回の形につながったと思っています。

地域と産業への広がりと貢献を意識

――CTVの建造が釜石地区、岩手県の産業活性化につながるとの期待もあります。

小鯖社長:釜石では人口減少が進み、地場産業も厳しい状況にあります。こうした中で、このプロジェクトが新たな産業の核になればと考えています。CTV建造が継続的に行われることで、地域経済の活性化だけでなく、日本の造船産業全体の底上げにもつながるはずです。

中山:われわれもCTVの建造を通じて、日本の産業を盛り上げたいという思いがあります。

――最後に、プロジェクトを振り返った感想をお聞かせください。

中山:今回のプロジェクトは、技術だけでなく、人と人との連携によって実現したものです。よいチームに恵まれたと感じています。熱意を持った方々と一緒に仕事ができました。小鯖社長は仕事の進め方や考え方で学ぶ点が多く、人生の先輩としても非常に尊敬しています。これまでさまざまなプロジェクトに関わってきましたが、その中でも特に強い思いを感じたプロジェクトでした。今後もこの経験を活かしていきたいと考えています。

小鯖社長:最終的に「ものができる」ということの素晴らしさを改めて感じました。今回の船では、通常であれば各担当企業に委ねる細部な仕様や配置にいたるまで、デザイン性を考慮しながら、一つひとつ丁寧に決めていきました。この船を構成するすべてに、思いや背景があります。こうしてプロジェクトが形になったのは、これまでに関わってくださった皆さんのおかげだと思っています。

alfonsino_arrow