日本郵船「ツウ」の方へ挑戦する企業

日本郵船は未来志向!持続可能なシップリサイクルへの挑戦

リサイクルヤード

日本郵船は、環境と国際海運業の持続可能性を両立させるため、さまざまな活動を進めています。その一つである、船舶の最終処分段階におけるシップリサイクルへの取り組みをご紹介します。2025年6月には安全で環境に優しい船舶のリサイクルを目的とした香港条約(シップリサイクル条約)が発効するなど、世界的に注目度が高まっている大型商船のリサイクルに、日本郵船はどのように向き合っているのでしょうか。

役目を終えた大型商船はリサイクル資源の宝庫!

大型商船の寿命は、経済情勢や市況などに左右されますが、一般的には20~25年程度といわれています。当然ですが、役目を終えた船舶の多くは、リサイクル(解体)されます。

船舶はリサイクル資源が豊富に含まれていることで知られています。船体の総重量に対して廃棄物として処理されるものの割合はなんと10%以下。90%以上がさまざまな形でリサイクルされているのです。

中でも船体鋼板は大海原の荒波にも耐えられるように作られており、良質な鋼材が使用されています。こうした鋼材は船体から取り外された後、プレス成型されて建設用鋼材として活用される場合もあれば、いったん溶かして、別のものに生まれ変わる場合もあります。

いずれの方法でも、鉄鉱石を採掘し精錬することで新しく鉄を作るのに比べて、大幅にGHG(温室効果ガス)の排出量を抑えることができます。

IMO(国際海事機関)では、2050年ごろまでに海運からのGHG排出量をネットゼロにする目標を掲げていますが、既存の船舶の環境性能を向上させるだけでは目標達成は困難です。今後はより環境性能の高い代替燃料船などへのリプレース需要が増加し、既存船舶のリサイクルが進んでいくことが予想されています。

こうした中で、リサイクル鉄を有効活用し、サーキュラーエコノミーを実践していくことは、脱炭素社会の実現にとって欠かせません。

需要増が見込まれる一方、リサイクル過程にはさまざまな課題が

船舶リサイクルを取り巻く環境には、解決すべきいくつかの課題がありますが、中でも重要なのは、“人権”と“環境”の問題です。

近年、リサイクルヤード(以下ヤード)は、安価な労働力と国内の旺盛な鋼材需要を背景として、世界シェアの80%以上がインド、バングラデシュ、パキスタンといった南アジアの国々に集中しています。

こうした途上国のヤードでは、以前は安全・環境意識が低く、作業中の人身事故や海洋への重油の流出などが当たり前となっていました。そこでIMOは、労働者の安全・衛生の確保と環境汚染の防止を目的としたシップリサイクル条約を2009年に採択しました。実際に条約が発効するまでには時間を要しましたが、同条約は2025年6月に発効しました。

シップリサイクル条約ではヤードと船舶に対しそれぞれ一定の要件が課されています。
安全で環境に優しいヤードの建設をはじめ、有害な物質が船体内のどこにどれだけあるかを記載した有害物質リストの作成、船上での保管義務、さらには条約の求める基準を満たしたヤードでリサイクルすることなどが義務付けられています。

条約発効に先駆け、さまざまな取り組みを実施してきた日本郵船

シップリサイクル条約の発効により、安全で環境に優しいリサイクルへの取り組み機運は海運業界全体で高まっています。

日本郵船では、船のゆりかごから墓場まで、ライフサイクル全体に対し責任をもった取り組みを行うという考えのもと、条約発効以前からさまざまな取り組みを行ってきました。まず、ヤードの労働環境や安全対策に対して、シップリサイクル条約以上に厳しい独自の基準を制定し、その基準を満たした認定ヤードのみでリサイクルを実施する認定ヤードシステムの構築です。認定ヤードには、定期的にグループ会社の海技者を派遣し、ヤードとのコミュニケーションを取るとともに、ヤードの設備や作業水準の維持・向上を継続的に働きかけています。

加えて、日本郵船グループの船がリサイクルされる際には、グループ会社社員による定期的な訪問の他、豊富な経験を有する監督を派遣し、リサイクル工程のフルモニタリングを行っています。フルモニタリングを通してヤードに対し業務改善の提案や技術指導を行うことで、シップリサイクル条約および、日本郵船が定めた独自の基準の達成を支援しています。

ここで見逃せないのは、定期的な訪問やリサイクル工程のフルモニタリングを通したヤードへのアドバイスを経験豊富な海技者が行っていることです。船舶業務のプロフェッショナルの知見を生かした提言ができることは、日本郵船ならではの強みといえるでしょう。

先述の認定ヤードシステムの話に立ち返ると、ヤードの認定に当たってはこうした日本郵船からの業務改善提案や指導に対する協力性を重要な評価基準としています。

インドやバングラデシュでの実地経験を持つ溝口雄基(日本郵船 脱炭素グループ 環境規制チーム)に現地での取り組みについて聞きました。

「1隻の船をリサイクルするには半年程度の作業期間が必要です。リサイクル工程のモニタリングは他の海運会社でも実施しているケースはありますが、多くが下請け会社に委託されていたり、限られた一定期間だけ現地を訪れたりといった内容です。日本郵船では、リサイクル工程のフルモニタリングを通したヤードとのコミュニケーションを最重要視しています。こうした取り組みを行っている海運会社は、世界でもまれだと思います」

フルモニタリングの内容は、条約や施設が定めた基準が順守されているかのチェックをはじめ、作業者への注意喚起、施設や作業のさらなる改善のための提言など、多岐にわたります。

「例えば、ヘルメットのかぶり方。見かけはかぶっているようでも、実際は頭に載せているだけで、顎ひもを装着せず、しっかり頭部を守るかぶり方になっていないこともあります。
人件費の安い国では、労働者自身も収入を上げることが第一で、安全は二の次という意識になりやすい傾向があります。しかし、怪我をして働けなくなっては本末転倒です。フルモニタリングを通して安全意識をしっかり根付かせることに貢献することは、とても意義のある仕事。本当に細かい部分までチェックしているのです」

溝口雄基(日本郵船・脱炭素グループ)

溝口雄基(日本郵船・脱炭素グループ)

ビーチング方式を採用するヤードにおいても安全で環境に優しいリサイクルを実施

シップリサイクルにはいくつかの方式がありますが、南アジアの国々で主流となっているのはビーチング方式です。ビーチングとは、満潮時に船舶を砂浜に乗り上げさせ、そのまま砂浜で解体を行う方式です。ビーチングした船舶は、船首部分から船体切断が行われ、一定程度切断が進めば船体そのものを陸側の解体施設に引き込みます。この作業の繰り返しにより解体を行います。

これに対して、欧州などの国々ではドライドック方式が採用されています。これは、船をドックに入れることで海洋から隔離する方法で、油流出などの環境汚染リスクが少なく、気象などによる作業への影響も少ないため安全性が高いといわれています。

先ごろ溝口は、ビーチング方式を採用しているバングラデシュのPHPというリサイクルヤードを訪ねました。

「ビーチングによるシップリサイクルでは、作業の安全性や環境への悪影響などの問題を懸念する声もあります。しかしながらシップリサイクル条約で要求されている基礎的な部分を徹底するヤードでは、そのようなことはありません。我々がフルモニタリングを通してヤードに要求しているのは、決して高度なものではなく、基礎的な部分の徹底なのです」

日本郵船グループでは、2023年に「KAMO」という船をこのPHPでリサイクルしました。作業は非常にスムーズで、無事故・無災害のうちに完了しました。
バングラデシュでの船舶解撤(解体)を無事完了 | 日本郵船株式会社

シップリサイクル条約適合前のPHP

シップリサイクル条約適合前のPHP

シップリサイクル条約適合後のPHP

シップリサイクル条約適合後のPHP

日本郵船の支援は、リサイクルヤードにとってもメリットに

シップリサイクル条約は2009年に採択されながら、実際に発効するまでには16年もの歳月がかかっています。発効が遅れた理由として、一定のリサイクル国の批准という要件がクリアできなかったことが挙げられます。実はリサイクル国の一つであるバングラデシュの批准も遅れていました。

当初、バングラデシュは自国ヤードで条約の基準を満たすのが難しいと判断し、条約が発効するとヤードの稼働率が大幅に低下して産業力に影響が出ると危惧していたと考えられます。

バングラデシュが条約を批准したのは、先述の「KAMO」のリサイクルを完了して間もなくのこと。バングラデシュはこのリサイクル作業を通して、自国ヤードもシップリサイクル条約基準をクリアするポテンシャルがあると判断したのかもしれません。

「条約を批准したことで、バングラデシュ内の他のリサイクル事業者の間でも改善に向けた流れが加速するはずですし、結果的にバングラデシュはシップリサイクルを通じて国際海運における大事な役割を担う国に成長できると思います。」

シップリサイクル条約が求める以上に厳しい基準により選ばれた日本郵船の認定ヤードでは、人権や環境を守りながら、より透明性の高いシップリサイクルが実現できるため、ヤードで働く作業員にも誇りと安心感をもたらします。ヤード側にとっても、日本郵船のアドバイスを通して安全性や環境保護水準を向上させることで、さらなるリサイクル船の受注につながるなどのメリットがあるのです。

社会に対し責任を持つことが、取り組みの目的

シップリサイクルのビジネスモデルは、一般にリサイクルと聞いて想像するような、お金を払って廃棄物を処理してもらうようなものではありません。先述の通り、船体に含まれる廃棄物はわずかであり、多くがリサイクル資源としてのポテンシャルを秘めた有価物です。そのため、船会社は原則として、入札により船舶をヤードに対し売却しています。

ひょっとしたら「認定ヤードのみを使うシップリサイクルは、ヤードの選択肢を狭めることになり、日本郵船にとっては、むしろ不利益じゃないの?」と考える方もいらっしゃるのではないでしょうか。

「認定ヤードシステムのフルモニタリングを通して、安全で環境に優しいリサイクルを実施することは、船社として『船のゆりかごから墓場まで』の責任をしっかり果たすことになると考えています。日本郵船は業界をリードしてきた自負がありますし、社会に対してしっかりと責任を果たしていくべきだと考えています。このため、入札価格への影響も懸念される中で認定ヤードシステムの導入に踏み切りました。結果としてではありますが、認定ヤードも一定の規模を確保できており、入札価格に大きな影響は生じていません」

機関士でもある溝口は、こんな想いも語ってくれました。

「機関士にとって船は人生を預ける舞台といえるものです。当然、愛着もありますし、感謝の念もあります。だからこそ、船の一生についても責任を負いたいと思っています」

バングラデシュの訪問中にも、日本郵船の認定ヤードで働けることに誇りを持つ作業員の姿を見て、そこに貢献できる喜びを感じたという溝口。今度はインドのヤードに赴く準備に取り掛かりました。

現在インドの認定ヤードでは、「FP FUTURE」という船が、2026年2月の作業完了を目指してリサイクルの真っ最中です。また、「LNG JAMAL」という船についてもリサイクルの準備が進行中。本格的な船体切断は12月開始、完了は来年7月ごろを予定しています。これらのリサイクルを安全かつ環境に優しい形で完遂すべく、日本郵船ではグループ企業から現地監督を各船1人ずつ配置しフルモニタリングを実施。溝口も、今後定期的に現地を訪れ、現場で汗を流す予定です。

FP FUTURE

FP FUTURE

LNG JAMAL

LNG JAMAL

環境の保全と国際海運業の持続可能性を両立させ、より良い未来を目指すための日本郵船の挑戦は、これからも続きます。どうぞご期待ください。

右側が溝口 SOC発行5周年記念イベント※       ※ 船級協会(Class NK)などがヤードに対して審査を行い、条約等の要求事項を満たしていることが確認できた場合に発行される適合鑑定書

右側が溝口
SOC発行 5周年記念イベント※
※船級協会(Class NK)などがヤードに対して審査を行い、条約等の要求事項を満たしていることが確認できた場合に発行される適合鑑定書5周年記念イベント

左 今井俊次(日本郵船・脱炭素グループ グループ長代理兼環境規制チーム チーム長)

左 今井俊次(日本郵船・脱炭素グループ グループ長代理兼環境規制チーム チーム長)