日本郵船「ツウ」の方へ技術力でつなぐ

「未来志向型グリーン船舶リサイクル」 循環型経済と脱炭素化を推進のため事業化を検討

締結式の様子。写真左から、日本郵船の長澤仁志会長、曽我貴也社長、 オオノ開發の山下裕二社長、大野照旺会長

日本郵船は、産業廃棄物処理などを手掛けるオオノ開發と共同で、「未来志向型グリーン船舶リサイクル」の事業化を通じた循環型経済と脱炭素化の推進を目指す。環境に配慮しつつ、解体から産業廃棄物処理までの一貫サービスを提供する。オオノ開發が愛知県知多市に所有するドライドックを活用し、世界最高水準となる年間約30万トン、パナマックスサイズ約20隻に相当する規模で事業を運営する方針だ。事業開始は2028年を目標としている。

船舶を解体・再利用

曽我社長は船舶リサイクルに取り組む意義について、「日本郵船グループとしてESG(環境・社会・ガバナンス)経営や企業理念“Bringing value to life.”を掲げ、人々の暮らしに役立つかたちでの脱炭素や気候変動への取り組みを進めている。船を商売道具とする当社の脱炭素に向けた取り組みにおいては、燃料転換はもちろん、船や鉄製の大型海洋建造物の解体をリサイクルというかたちで実現していくことが非常に重要だ」と語る。船舶は良質な鋼材で造られており、解体後も鉄スクラップなどを再利用することが可能。船舶の解体が「シップリサイクル」と呼ばれるのはこのためだ。曽我社長は「鉄スクラップを再利用していく一連の流れは社会にとっても大事であるし、この部分に当社が貢献できることはうれしいことだ。われわれの事業におけるシンボルの一つとして取り組んでいきたい」と続ける。
船舶リサイクルを取り巻く環境は昨今、大きく変化している。世界的に脱炭素の流れが加速する中、鉄鋼業界は鉄鉱石から鉄を作る高炉から、鉄スクラップを原料に鉄を作る電炉へのシフトに動き出しており、それに伴って鉄スクラップの需要拡大が見込まれている。また、鉄スクラップ自体も溶鋼からの除去が難しい不純物の含有量が少なく、良質な鉄資源としての価値が高まっている。船舶には良質な鉄が大量に使用されており、中大型船はその9割以上が建築資材、再生素材や中古品として再資源化。持続的な再資源化の実現のために、安全で環境負荷が低くかつ効率的な手法による解体が求められている。
健全な船舶リサイクル環境に向けた規制の整備も進んでいる。2013年12月に欧州連合(EU)のシップリサイクルに関するEU規則が発効し、25年6月には国際海事機関(IMO)の船舶解体における環境保全・労働安全確保を目的としたシップリサイクル条約が発効する。しかし、現在、世界ではこれらの規制で定められた基準を満たす解体ヤードは限定的だ。
脱炭素化や循環型経済の促進、環境保全・労働安全確保に対する意識の高まりといった環境変化を踏まえ、日本郵船らは国内での船舶リサイクル事業化に向けた共同検討へと舵を切った。

締結式の様子。写真左から、日本郵船の長澤仁志会長、曽我貴也社長、 オオノ開發の山下裕二社長、大野照旺会長

締結式の様子。写真左から、日本郵船の長澤仁志会長、曽我貴也社長、 オオノ開發の山下裕二社長、大野照旺会長

知見を掛け合わせる

日本郵船がオオノ開發とともに目指す未来志向型グリーン船舶リサイクルは、「ドライドック」「解体専業」「陸上重機の多用」「焼却発電施設と有害物質分析センターの活用」を特徴とし、環境に配慮した、解体から産業廃棄物処理までの一貫サービスを提供する。VLCC2隻を同時収容可能な大きさを誇るドライドック(奥行き810メートル×幅92メートル×高さ14.3メートル)と、日本郵船の海運ビジネスと船舶リサイクルに関する知見、オオノ開發の陸上解体と産業廃棄物処理に関する知見を掛け合わせ、これを実現する。
解体船の調達から実際の解体、鉄スクラップ・中古舶用機器などの有価物の売却、鉄スクラップの国内輸送、有害物質などの無害化や埋め立てなどの最終処理までを行うとともに、油などの有害物質の海洋流出がない環境に優しく効率的な解体の実現を目指す。
環境面では、係留岸壁での油や有害物質の除去や、ドライドック内での廃棄物の適切な管理により海や土壌への環境汚染ゼロに取り組む。敷地内には高効率焼却発電施設を設置。船舶の解体作業で発生した産業廃棄物などを焼却し、発電した電力は解体作業に活用する。焼却できない産業廃棄物はオオノ開發が管理する管理型埋め立て地で処理する。そして、船舶から回収した高品質の鉄スクラップは鉄鋼業界に供給することで脱炭素化に貢献していく考えだ。
安全への対応として、敷地内の分析センターでの有害物質の分析や、独自開発中の厚板(船舶の外側に利用する鋼板)を重機のみで切断できるアタッチメントを装備した大型重機のドライドックでの活用、手作業の最小限化に取り組む。5G遠隔操作システムの導入も検討している。これらの新技術の導入は事業を成立させるカギとなる。
日本での船舶リサイクル事業の実現に向けては、コスト高や労働者不足といった課題があることから、同事業では大型重機での解体作業をメインとしつつ、今後、手作業の部分は自動化をしていく方針だ。新しい技術の開発を進めていくことで、安全性の確保だけでなく、工期の短縮やコスト削減につなげていく。
この事業の解体能力は世界最高水準となる。船舶の主要解撤国であるインドやバングラデシュでは人海戦術による解体作業が主なため、一つのヤードの解体隻数は年3~5隻程度。両社は大規模ドライドックと、大型重機を中心とした解体により年20隻の解体を行っていく方針だ。解体する船舶は船種を問わず、内航船・外航船ともに対象となるほか、官船の解体も念頭に置く。浮体式洋上風力をはじめとする大型海洋構造物の解体需要も視野に入れる。

オオノ開發の知多解体事業所(イメージ)

オオノ開發の知多解体事業所(イメージ)

事業化に向けた仲間集め

事業化に向けて「未来志向型グリーン船舶リサイクル」に賛同する船主などの仲間集めが必要不可欠となる。日本郵船の解体隻数は年数隻にとどまり、仮にこのドックで解体するとしても目標の20隻には及ばないことから、さまざまな船主に利用してもらう必要がある。また、鉄スクラップの売却先となる鉄鋼業界や、サプライチェーンの確立に向けた商社などとの連携も重要となる。事業化に向けて国内外問わず、協力者を募っていく方針だ。
事業化に向けて、シップリサイクル条約の発効により必要となるリサイクル施設に関する認証や、EU籍船の解体に必要となる認証の取得も進めていく。

2025年3月25日発行の海事プレス増刊号を再編集