日本郵船の舞台裏私たちの働き方

若手社員が語る海外駐在のリアル。巨大市場・上海で体感した海運ビジネスの“今”とは

對馬有紀

海外で働くことは、視野を広く持ち、キャリアを大きく成長させる貴重な経験です。日本郵船グループは、世界40カ国以上に拠点を構え、グローバルな物流ネットワークを展開する海運会社であり、多くの社員が海外駐在を経験します。本シリーズでは、実際に国際ビジネスの第一線で活躍する若手社員の「リアルな働き方」を紹介します。

近代的な超高層ビルが立ち並び、金融・物流の一大拠点として発展を続ける中国・上海。船舶建造や港湾取扱量など、海運分野の多くで世界トップの規模を誇り、日本郵船にとっても重要な海外拠点の一つです。その上海で、NYK LINE (CHINA) CO.,LTD. の駐在員として勤務しているのが、入社5年目の對馬(つしま)有紀。若手社員として初めて挑む海外赴任の仕事や、ダイナミックな上海での暮らしについて聞きました。

新たな知識や経験を得られる海外へ

――日本郵船を志望した理由
学生時代は法学部で、政治や国際関係、家族法の国内外比較などを幅広く学んでいました。大学3年次にシンガポールへ1年間の交換留学を経験し、物流拠点としてのシンガポールを目の当たりにしたことで物流に関心を持ちました。海外から日本を俯瞰して見る経験を通じて、日本経済に貢献できる仕事がしたいと思うようになりました。

就職活動では複数の企業を見ていましたが、日本郵船はこの二つの点に加えて、数年ごとに部署を異動するジョブローテーションで多様な経験を積むことができることや、海外駐在の機会がある点に魅力を感じました。加えて、日本郵船で働くOBの話を聞く機会があり、自分が実際に働く姿を具体的にイメージできたことが志望の決め手になりました。


――上海駐在に至った経緯
日本郵船には「My Career Story」という制度があり、年に1、2回、上長と自分のキャリアについて話し合う機会があります。その一環として、希望をアンケートに記入して提出します。私はそのアンケートに「社外と関わり、新しい知識を得られる環境を希望」とだけ記入し、部署や地域はあえて指定しませんでした。自分では想像していなかった可能性に出会えるよう、人事に委ねてみようと思ったからです。

最初の部署で約4年間勤務した後、私にとって初めてのローテーションで上海駐在の話が舞い込みました。それまで縁のなかった上海への赴任は、思いがけない配属でしたが、「新しい挑戦のチャンスが来た」と感じました。今振り返ると、この異動はある意味自分の希望が通ったといえると思います。こうして私は、2025年4月より、NYK LINE (CHINA) CO.,LTD. で勤務することになりました。


――上海の印象
上海に限らず中国の都市では、アプリ決済やデリバリーサービス、公共交通など、生活のあらゆる場面でキャッシュレス化が進んでいます。日常生活で現金を見ることはほとんどありません。赴任当初は中国語を学び始めたばかりで、「ご飯の注文もできなくて生活していけるかな……」と不安だったのですが、飲食店はモバイルオーダーとバーコード決済が中心で、中国語が話せなくても困りません。正直、中国でキャッシュレス化がここまで浸透しているとは想像していませんでした。

上海では車やバイクはほぼ電動化されているので、交通量の多い街中でも驚くほど静かです。レンタルサイクルも充実していて、どこで乗り降りしても1回1.5元(日本円換算約30円)ほどと安いので、とても便利でよく利用しています。

上海の超高層ビル群

上海の超高層ビル群

大切なのはビジネス文化の違いを受け入れること

――現地での主な仕事内容
上海では、海外ドライバルクグループの一員として、現地の顧客向けにドライバルク(鉄鉱石や石炭、穀物などのばら積み貨物)船の営業窓口業務を担当しています。

日本では運航担当(オペレーター)として、船長や配船担当と連携して調整業務を行うなど、いわば“現場寄り”の仕事が中心でした。一方、上海では担当領域が大きく変わり、契約関連やマーケット調査など、より上流工程の業務が増えています。

現地での情報収集も業務の一つです。中国は造船分野で世界的なシェアを持っているため、造船所の特徴や動向を常に把握し、本店にとって有益な情報を整理して共有することも重要です。また、中国港湾で新規制が施行された際の確認・報告も大切な役割です。


――日中間でのビジネス感覚のギャップ
中国でのビジネスは日本とは比べものにならないほどスピード感があります。中国企業は国営かつトップダウン型の企業が多いこともあり、一度政府の方針が示されるとスピーディーに物事が決まっていきます。日本企業ではリスクを慎重に検討した上で、意思決定をすることが多いので、契約事項の決定に数週間かかることもありますが、中国では驚かれます。また、会議のスケジュール調整などは、中国では直前にならないと決まらないことも少なくありません。最初はビジネス感覚の違いに戸惑うこともありましたが、次第に慣れてきました。

社員旅行で行った洛陽

社員旅行で行った洛陽

――日々の業務で大切にしていること
国民性もあると思うのですが、中国人ビジネスパーソンは話し方一つ取っても自信に満ちあふれていて、振る舞いに説得力を持たせることに重点が置かれていると感じます。日本人のようにへりくだった伝え方だと相手に誤解を与えてしまう可能性があり、「相手の意向を察する」といった日本特有のコミュニケーションは、中国ではかえって行き違いを招くことにつながります。そのため、こちらも明確な意思表示が必要です。その上で相手の懸念点は何かなど、細かく確認し、聞き漏れや齟齬のないよう、細心の注意を払っています。

新入社員だったこともあり、日本では目の前の業務を全うすることに精いっぱいでしたが、上海ではミッション以外のことにもアンテナを張り、有益な情報は先回りして本店に共有することを心がけています。「この情報助かります」と言われたときはうれしいですね。


――語学を含め、海外で働くために必要な能力
語学力はもちろん必要ですが、それよりも大切だと実感しているのが、その国独自の環境や文化を柔軟に受け入れる姿勢や、コミュニケーション能力です。

私は学生時代を含め中国語は勉強したことがなく、今まさに仕事を通じて学びながら業務に当たっています。オフィスでの公用語は基本的に英語ですが、中国語で話した方が好ましいクライアントに会う時は、英語と中国語の両方を話す現地スタッフに翻訳してもらいます。英語や中国語の得手不得手にかかわらず、言葉の壁に苦手意識を持たず、積極的にコミュニケーションする姿勢がより大切だと感じています。

プライベートも充実。上海の多様な楽しみ方

――休日の過ごし方
上海にはインフルエンサーに紹介されるおしゃれなカフェがたくさんあります。“映えカフェ”を探して巡るのが、息抜きの一つになっています。また、休日に中国語学校にも通っています。日本郵船には、英語圏以外の地域に赴任すると現地語習得のための費用が一部補助される制度があり、その制度を活用しています。中国語は発音が難しいのですが、語学の勉強自体が好きなので、いい機会だと思って楽しみながら学んでいます。

日本から多くの企業が進出している上海には日本人駐在員が多く、語学学校を通じて親しくなった友人と食事をすることも増えました。アパレルやメーカーなど、日本で働いていたら接点のない異業種の駐在員と交流できるのも楽しいです。

オフィスを含め、生活圏が上海虹橋国際空港に近いエリアということもあり、週末には中国国内の他の地域へ旅行をするのに便利なのもうれしいポイントです。スケールの大きい自然や歴史・文化を持つ中国は、どこに行っても新しい魅力を発見できる国だと感じています。

同僚と週末に旅行した張家界

同僚と週末に旅行した張家界

――現地ではまっている食べ物
最近はまっているのは「回転火鍋」です。1人用の鍋が席に用意されていて、具材は回転ずしのようにレーンに乗ってやって来るのですが、これがおいしくてヘルシーでよく通っています。

会社の昼休みによく食べるのは、小籠包やまぜそばですね。麺を葱油と絡めて食べる上海名物の「葱油拌麺(ツォンヨウバンミェン)」は、10元(同約200円)ほどで手軽に食べられておいしいです。伝統料理から珍しい食材を使った料理まで、上海は食文化が本当に豊かです。顔が付いたままのアヒルや鶏の料理が出てきときは驚きましたが(笑)。

小籠包

まぜそば

駐在経験を生かし、さまざまなことにチャレンジしたい

――駐在生活で得た新たな視点、学び
現在の仕事では、日本と中国をつなぐ橋渡しの役割を担っていると感じています。日本で働いていたときよりも、中国をはじめ国際的な景気動向や需給バランスを踏まえて考える機会が増え、よりグローバルな視野で物事を捉えられるようになりました。上海で業務に当たる中で、世界的に見た中国海運市場の大きさを肌で実感できることが大きな刺激となり、やりがいにもつながっています。


――これからの目標や挑戦したいこと
上海にはまだ多くの可能性があると感じており、現地スタッフの力も借りながら新規ビジネスの開拓を経験することが現在の目標です。将来的に帰国した後は、現在携わっているドライバルク船以外の船種に関連する部署や、管理部門を含めた幅広い職種を経験し、キャリアの幅を広げていきたいです。また海外駐在の機会があれば、大学時代に留学していた東南アジア地域にも赴任してみたいと考えています。


環境の変化やビジネス感覚の違いに戸惑うこともありますが、上海というエネルギッシュな都市で培った経験は、今後のキャリアに確かな力となり、次のステップへの大きな一歩につながっていくはずです。