日本郵船社員に聞く。未経験から航海士・機関士に—日本郵船の自社養成制度で未来を拓く
公開日:2025年11月14日
更新日:2025年11月14日

世界を舞台に活躍する海のプロフェッショナルへ――。日本郵船では、一般大学などを卒業して入社し、海技大学校(兵庫県芦屋市)や乗船実習で専門知識を学び、約2年かけて国家資格取得を目指す海上職自社養成制度を設けており、入社以前に専門教育を受けていなくても航海士や機関士といった船乗りとしての国家資格を持ち、海陸を股にかけて活躍できる「海技者」になる道が用意されています。この自社養成制度で学び始めた”海技者のたまご” のお二人にインタビューしました!
知識ゼロから飛び込んだ「海技者」という仕事
2025年4月に自社養成枠で日本郵船に入社し、現在は海技大学校で学ぶ、航海士志望の金吉一穂と、機関士志望の羽鳥由衣。二人に海技者を志した動機や学校生活の様子、将来のキャリアパスなどについて語ってもらいました。
――船や海に興味を持った原体験
金吉:実は、私の祖父が機関士として船の仕事をしていたので、母からよく祖父の仕事の話を聞いて育ちました。その影響で、幼い頃から「船乗りっていいな!」と自然と思うようになっていました。
羽鳥:地元が静岡県の海から近い地域だったこともあり、子どもの頃は、よく友達と釣りに出かけていました。大人になってからも、海を眺めにドライブに出かけるほど、ずっと海が大好きでした。正直、就活を始めるまで海に関係する職業についてあまり知識がなかったのですが、海技者という仕事を知った時は、「海で働くことができるかも!」とワクワクしたのを覚えています。
――海上職を目指そうと決めたタイミング
羽鳥:私は理系なので、当初は日本郵船の陸上技術系に関心があり、大学3年次の就職活動中に日本郵船の企業説明会に参加したのですが、陸上職の説明の後に、海上職の自社養成についての説明を聞きました。そこで初めて、専門教育を受けていなくても船乗りになれる選択肢があることを知り、一気に興味が湧きました。というのも、私自身がオフィスで働く姿をいまいち想像できず、現場での仕事がいいなとも思っていたからです。海上職の中でも機関士を志望したのは、もともとエンジニア志望だったことも関係していますが、最終的には直感的な部分が大きいですね。
金吉:私も羽鳥さんと同じで、高校や大学は海とは関係のない学校に進みましたが、就職活動をするにあたって、子どもの頃、祖父の影響で船の仕事に憧れていたこともあり、自分も船乗りになりたいと強く思うようになりました。祖父は機関士だったのですが、私は、世界地図を眺めるのが好きでしたし、海図を見ながら、世界中を航行する仕事がしたいと思い、航海士を志望しました。
金吉一穂(2025年入社、海上職自社養成枠:航海士)
――海上職という未知の仕事へ飛び込むことの不安
羽鳥:大学では繊維学部でタオルの研究をしていました。海とはまったく関係のない分野
で、糸ばかり見つめていた学生生活でした(笑)。就職活動を始めた頃は自動車系のメーカーを考えていた一方で、大学院に進学する道も考えていたのですが、海上職という仕事に対する興味が、未知の分野に飛び込む不安をはるかに上回りました。
羽鳥由衣(2025年入社、海上職自社養成枠:機関士)
金吉:正直、当初は迷いもありました。大学では理系学部に在籍していたので、100人中90人以上が大学院に進むような環境でした。「ここで大きく方向転換して大丈夫だろうか……」という葛藤もありましたが、後悔はしたくないという思いで海上職の道に飛び込むことを決めました。
――海上職に決めたときの周囲の反応
金吉:両親に初めて進路について話したのは、海上職としての採用通知が届いてからでした。私は大学に入るまでは将来の夢がたびたび変わって冷めやすいところもあったので、両親からは今一度よく考えた方がいいんじゃないかと最初は言われました。でも、最終的には航海士になりたいという熱意が伝わり、今ではとても応援してくれています。
羽鳥:最初に「船乗りになりたい」と両親に伝えたときは、商船ではなく漁船をイメージしたようで、「マグロを釣ってくるの!?」と驚かれたことが印象に残っています(笑)。でも結果的には納得してくれて、やりたいことに対して前向きに背中を押してくれたので、うれしかったですね。
学びながら実践できる自社養成制度
――日本郵船を選んだ理由
金吉:就活時、自社養成制度のある海運会社は3社だけでした。ただ、その中でも日本郵船が最初(2006年)に自社養成をスタートさせていたので、先輩方も多いと思いましたし、
会社としても自社養成の海技者に大きな期待を寄せてくれているのではないかと思いました。
羽鳥:自社養成制度のある海運会社にOB訪問した際に、日本郵船では先輩にとても親身なって話を聞いていただき、就活生同士が交流しやすいように会社として気遣ってくれている印象を受けました。それからは日本郵船を第一志望にして就活を進めました。
金吉:私も就活イベントのときに同じことを感じました。日本郵船は、船の知識がない自社養成枠の学生と、すでに商船系の大学などで船のことを学んできた学生とを同じ環境に置いて一緒に活動する形を取っていました。日本郵船ではさまざまな仲間と交流しながら、楽しい環境で働けそうだと思いました。
――自社養成制度のもと海技大学校で学ぶことの魅力
羽鳥:一般の大学では自分の将来の仕事とは必ずしも関連のない分野も勉強しますよね。でも海技大学校では、海技者としての仕事に不可欠な知識に特化して学べるので、常にモチベーションを高く保つことができます。また、在学中は隣接する学生寮に住むことができるので、同じ道を目指す仲間と一緒に共同生活を送る中で、先輩や同期にたくさん刺激をもらえるところも魅力ですね。
金吉:海技大学校では、日本郵船だけでなく他社の自社養成枠の社員の方々とも一緒に寮生活をしながら勉強しているので、情報交換や交流が活発で楽しいです。座学や実習を担当してくださる先生も、最近まで海技者として活躍されていた方が多く、授業では実体験に基づく話が聞けるため、とても学びが深いです。
仲間でありライバルでもある海技大学校の同期(右端が羽鳥)
笑いの絶えない実習中の食事風景(左から二番目が金吉)
仲間と切磋琢磨しながら高め合う日々
――印象に残っている授業
金吉:乗船実習ですね。実習がこれまでに2回ありました。座学で学んだことがそのまま生かせる場面もあれば、臨機応変に対応しなければならない場面もあって、とても刺激的な体験でした。実際に操船する時間もあったのですが、大阪湾などを航行していると、ガット船(大型クレーンを備えた作業船)や漁船が針路上に入ってくることがあります。どのように安全かつ確実に航行するか、慌てず冷静にグループのメンバーと声をかけ合って役割分担することの大切さを学びました。
羽鳥:発電機とメインエンジンを扱う実習で、ボルトを一定のトルク(回転力)で締めなくてはいけない場面があり、重過ぎてなかなか締められなかったときは苦労しました。例えば、640ニュートン(約65kgf)の力をかける必要がある作業では、女性一人の力ではなかなか難しいこともあります。そんな時は、同乗している仲間の協力が不可欠です。日ごろからのコミュニケーションが大切であり、それも仕事の一部だと感じました。機関士の仕事は想像以上に多岐にわたり、チームワークが欠かせない職種であることを実感しました。
一人前の海技者になるために欠かせない乗船実習
――日々の学びや私生活で楽しいと思える瞬間
羽鳥:実習中は意見を出し合いながら課題を進めていくのですが、厳しさの中にも和気あいあいとした雰囲気があり、日々楽しみながら学べています。私生活では、寮のメンバーの誕生日を祝うのが恒例イベントになっていて、誰かの誕生日が来ると、バースデーケーキも用意して、みんなでお祝いしています。休みの日には所属を問わずみんなで出かけたり、食事したりするのも楽しいですね。同期との絆が、毎日の励みになっています。
金吉:乗船実習はとても楽しいと感じています。特に操舵の実習は、航海士という仕事の醍醐味を感じますし、チームメイトとの絆もより強まる気がしています。プライベートは羽鳥さんの言うように、誕生日会は毎回大盛り上がりです!
「めちゃくちゃ楽しい」と口をそろえる誕生日会
――学びを通して感じる覚悟の変化
羽鳥:入社前に比べて、仕事への覚悟はかなり強くなっていると感じます。先ほどの船上での作業ではチームワークが重要だと実感した話もそうですし、仕事を深く知るにつれて、楽しいことだけでなく大変さも分かるようになってきました。機関室はエンジンなどから発せられる熱でとても暑くなるのですが、そんな過酷な環境で業務をこなすためには、自身の体調管理も大切になってきます。そういったことも学びながら、機関士としての技術もしっかり磨いていきたいと思っています。
金吉:海技大学校では、「海技者になる」という道が明確だからこそ、先生方も率直に仕事の楽しさや苦労を伝えてくださいます。その言葉を通じて、航海士としての覚悟が自然と芽生えました。自分も早く一人前の航海士になれるよう、気を引き締めて努力を続けていきたいです。
世界を舞台に人間力あふれる海技者に
――海上職という仕事のやりがい
金吉:世界と関わる仕事と現場で汗をかく仕事がどちらも捨てがたく、その両方が叶えられる仕事って何だろうとずっと考えていました。私の場合、その答えが「海上職」でした。だからこそ、自分にとっては大きな魅力であり、やりがいを感じられると確信しています。
羽鳥:海運は、日本の物流を支える上でなくてはならない存在です。海運の最前線で働くことで、世界と日本をつなぐ一員になれるところが、大きなやりがいだと考えています。
――目指す機関士・航海士像
羽鳥:これまで乗船したのはディーゼル船が主流ですが、タービン船にも乗れる機関士になるのがまず目標です。その上で、人間的にも技術的にも、多くの船員から信頼され、「この人と一緒に乗りたい」と思ってもらえる機関士を目指したいです。
機関室での実習風景
金吉:入社後1カ月間は、陸上職の同期と一緒に研修を受けていたのですが、彼らはすでにそれぞれの部署に配属され、実際の業務に就いています。その話を聞いて刺激を受けることもたくさんあります。海上勤務を一定期間やったあと、人事ローテーションで回ってくる、陸上勤務の期間にどんな仕事ができるのかも見据えながら、視野を広く持って、しっかり学んで会社に貢献していきたいと思っています。
――海上職を目指す人へのアドバイス、メッセージ
羽鳥:一般大学出身の私にとって、海上職の仕事は未知の世界でしたが、もっと知りたい、深く関わってみたいという思いが原動力になって、最終的に日本郵船の自社養成制度を利用しようと決めました。もし海上職の仕事に興味があるなら、まずは一歩踏み出してみることをお勧めします。就活中、会社説明会やOB訪問で社員の生の声が聞けたことが一番の収穫でした。自分の適性や興味を見極める上でも、説明会などの機会を積極的に活用してみてください。
金吉:最近の学生の中には「3年勤めたら次にステップアップしよう」と、短いスパンで転職を考えている方も多いように思います。でも、海上職は、例えば一等航海士に昇進するためには最短でも5年以上の船上での勤務経験が必要ですし、船長ともなると、もっと長いスパンでスキルを磨く必要があります。その分、飛び込むのに覚悟が必要ですが、努力を重ねた先に得られる達成感は、とても大きい仕事だと思っています。
これから航海士・機関士を目指す皆さんも一緒に頑張りましょう!







