日本郵船ってどんな会社?船の世界

「日本郵船これくしょん」Vol.5 オープンハッチ・ガントリークレーン船編 ― さまざまな貨物をクレーンでスイスイ ―

風力発電プレートを積み込むオープンハッチ・ガントリークレーン船 SAGA FJORD

剛力クレーンを持つバルカー船

ガントリークレーンをご存じでしょうか?単語として聞いたことはなくても、貨物を扱っている港に行ったことがあれば、目にしたことはあるはずです。

がっしりと鉄骨で組まれた門のような脚部に、高く突き出たクレーン部。首を伸ばしたような姿から“キリン”と通称されるのもよく分かります。

ガントリークレーンは通常、船に貨物を積み下ろしするために港湾の岸壁に設備されています。しかし、寄港先でクレーン使用が混んでいたり、そもそもクレーンがなかったりしたら?緻密に組まれた運航スケジュールに大きく影響するでしょう。そこで自前のクレーンを船上に備えているのが、ガントリークレーン船です。

そして船種名の前半“オープンハッチ”にもご注目ください。

ガントリークレーン部分を別として、このタイプの船はオープンハッチバルカーとも呼ばれます。バルカーとは、ばら積み船を意味しています。液体を運ぶタンカーや、コンテナ、自動車などの専用船と違い、多数に仕切られたホールド(貨物倉)に、金属や木材、穀物、肥料など、さまざまな貨物を積むことができます。

一般のばら積み船はホールドの開口部が狭く、内部も床や天井などの隅が斜めになっているため、積み下ろしは少々不便です。ホールドを四角いボックス型にし、上面全体を大きな開口部にしたタイプがオープンハッチと呼ばれます。

すっかり前置きが長くなりました。すなわち、オープンハッチバルカーに積み下ろしできるガントリークレーンを備えた賢い船、それがオープンハッチ・ガントリークレーン(OHGC)船というわけです。

両腕をいっぱいに広げたガントリークレーン。荷役効率の良さが特長

両腕をいっぱいに広げたガントリークレーン。荷役効率の良さが特長

ばら積み船に対してボックスシェイプ船は、ホールドの隅々まで隙間なく貨物を積める

ばら積み船に対してボックスシェイプ船は、ホールドの隅々まで隙間なく貨物を積める

クレーンは陸上まで伸び、雨にも対応

日本郵船グループでは、現在32隻のオープンハッチ・ガントリークレーン船が運航されています(写真はSAGA FJORD)。

オープンハッチ・ガントリークレーン船の構造をデッキ上から見ていきましょう。

デッキは平らで広々としています。この部分がハッチカバー、つまりホールド開口部のふたです。閉めればデッキ上にコンテナや風力発電機のブレードなどの大きな貨物を積むこともできます。

門や橋に似た形のガントリークレーンが2基装備されています。ただ港湾岸壁に備えられているガントリークレーンのように、キリンの首に当たる部分はありません。そもそもガントリーとは、複数の脚に梁(はり)を渡した門型の構造物を意味する言葉。梁の部分の下側で、貨物をつり下げたフレームが左右に動きます。

ガントリークレーンは自走式です。荷役作業時は前後に動いて、目的のホールド上に止まります。1本の脚に固定されたジブクレーンと違い、直線的に動くので動線に無駄がなく、動作も安定していて、スピーディーな荷役作業が可能です。

陸上にある貨物はどうやって運び入れるのでしょうか?

ガントリークレーンの梁部分から左右にアームが伸びます。陸上まで伸ばしたアームの下をつり下げフレームが移動する仕組みです。SAGA FJORDの場合、梁部分の幅は約32.26m、つり下げ能力約42トンという力強さも自慢。さらにアームには屋根と開閉自在の側面カーテンがあり、雨天の際も貨物の水ぬれダメージを最小限に抑えます。

ガントリークレーンの側面に設けられたカーテン

ガントリークレーンの側面に設けられたカーテン

平らなデッキを生かして風力発電の羽根のような大きな貨物もお任せあれ

平らなデッキを生かして風力発電の羽根のような大きな貨物もお任せあれ

貨物を確実にお客さまに届けるために

ホールドに貨物を積み下ろしする方法は?

ガントリークレーンのつり下げフレームは積み荷の形状によって付け替えます。

パルプ、アルミインゴット(アルミ成形品)などには多数のフックでつることで安定する多目的フレームを使用。フックは操縦席から外せます。大きな吸盤で吸い付けるバキュームクランプは、ロールペーパーに使用します。穀物、セメントなど細粒状、粉状の貨物は大きくすくい取るバケットというフレーム。またデッキ上にコンテナを並べるにはコンテナ専用フレームを使います。

一般のバルカー船のホールドは4~7室ですが、日本郵船グループのオープンハッチ・ガントリークレーン船のホールドは10室を基本としています。小容量のホールドを多く持つことで多種類の貨物を同時に運べます。

どのホールドにどれくらい積むかには綿密な計画が必要です。貨物の種類によって重さは異なり、うまく配分しないと航行中の船のバランスに影響するからです。

軽量であれば全てのホールドを満タンにできます。比重が大きい(重い)場合はホールド一つおきに満タンにして、間は空にすることも。全部のホールドに半分ずつ入れて重心が下がり、横揺れが大きくなってしまうのを防ぐためです。

航行中の貨物の管理も大切です。湿度を嫌う貨物もあります。例えば南米のブラジルなど高温多湿の地域で貨物を積み、涼しい地域に向かうと、ホールド内が結露して貨物の品質を低下させます。そこでオープンハッチ・ガントリークレーン船には全てのホールドに除湿装置を設置。加えて、細粒状、粉状の貨物以外では、積み込み時に隙間に強化ゴム製のエアバッグ緩衝材をはさみ込み、荷崩れや貨物同士の衝突も防いでいます。

多目的フレーム   バキュームクランプ   コンテナ用フレーム   バケット

多目的フレーム  バキュームクランプ
コンテナ用フレーム  バケット

パルプ輸送をベースに世界を巡る

日本郵船グループが運航するオープンハッチ・ガントリークレーン船は、南米からのパルプ輸送が主たる業務です。南米はパルプ原料のユーカリの生育に適し、生産量・コスト競争力を併せれば世界のトップクラスのパルプ生産地域です。南米産のパルプをアジアや欧州に運び、各地で下ろすたびに別の貨物を積んでは下ろしつつ、再び南米に戻るという、世界を股にかけた活躍をしています。

南米からの寄港地では、アルミインゴット、鋼材、木材などが貨物として積み込まれ、次の場所へと運ばれます。もちろん、ベースであるパルプの到着スケジュールは厳守しなければなりません。寄港地で他の貨物を効率的に積み下ろしする上で、パワフルな船上ガントリークレーンが大活躍するのです。

オープンハッチ・ガントリークレーン船はパルプ&個別貨物の柔軟な体制で世界を駆け巡っています。日本国内でその姿を見かけることは少ないかもしれませんが、もし見かけることがあれば大きな声援をお願いします!

貨物の種類

積み込む貨物の種類

鋼材のイメージ

積み込む鋼材のイメージ

アルミインゴッドのイメージ

積み込むアルミインゴッドのイメージ