日本郵船ってどんな会社?世界中の船から

日本郵船これくしょん Vol.2 VLCC編 ― 原油を運ぶ巨大タンカー ―

2022年竣工のTOWA MARU

“Bringing value to life.”──海を越えて価値を届ける。日本郵船の企業理念を体現するさまざまな船が、今日も大海原を行き交います。「日本郵船これくしょん」では、人々の暮らしと経済を支える船種を、詳しく分かりやすく紹介します。

産油国から日本へ。石油の安定的な供給に貢献

脱炭素社会の実現は喫緊の課題です。省エネルギーや再生可能エネルギー導入など、さまざまな取り組みが進められていますが、現実に目を向ければ未だ多くの分野で二酸化炭素を排出する化石燃料への依存が続いています。特に石油は、発電用や輸送用、家庭用暖房の燃料としてだけではなく、プラスチックや合成繊維の原料にも使われるなど、私たちの暮らしに必要不可欠な資源となっています。

日本は石油の大半を海外に依存しており、原油輸入量の90%以上を中東に頼っています。石油を安定的に供給するためには、安全かつ効率的な輸送手段が必要です。その役割を担っているのがVLCCです。

VLCCとはVery Large Crude Oil Carriersの略で、日本語では「超大型原油タンカー」と訳されます。その名の通り、とにかく大きいのです!

VLCCの大きさを説明するために、原油タンカーのサイズについて勉強しましょう。小さいタイプから順に紹介すると、載荷重量3.5万~4.5万トンの「ハンディマックス」。比較的小型で、世界中の多くの港に入出港できる利便性の高いサイズ感からそう呼ばれています。5.5万~8万tでパナマ運河を抜けられる最大サイズ「パナマックス」、8万~12万トンの「アフラマックス」(運賃指標のAFRAに由来)、12万~20万トンでスエズ運河を通れる最大サイズ「スエズマックス」と続き、その次が20万~30万トン級のVLCCとなります。VLCCは1960年代に登場しました。

実は、1970年代まではさらに巨大なULCC(Ultra Large Crude oil Carriers)という50万トン級タンカーが使われた時期もありましたが、オイルショック以降、日本への原油輸送はVLCCが主となっています。

VLCCが使われるのには理由があります。

中東と日本を結ぶ航路はマラッカ・シンガポール海峡を抜けるのが最短ルート。このマラッカ・シンガポール海峡は水深が20m強ほどの浅いエリアもあり、座礁の危険がある水域。そのため、50万トン級のULCCが通ることはできないのです。迂回ルートを取れば3日間余計にかかり、プラスされる経費は数千万円になることも! VLCCならその最短ルートを難なく航行できるのです。

日本郵船では2025年現在、スポット船(航海ごとの契約)を含めて22隻のVLCCを運航しています。

中東・ペルシャ湾〜日本の主要航路

中東・ペルシャ湾〜日本の主要航路

船腹のタンクで安全・緻密に原油管理

VLCCとはどんな船が、具体的にご説明しましょう。まずは大きさから。

日本郵船で多く運航されている30万トン級のVLCCの長さは約340m。……ピンと来ないかもしれませんね。東京タワーを横にしたのとほぼ同じ!といえばその長さが分かってもらえるでしょうか。最新の外航クルーズ客船、飛鳥Ⅲ(全長230m)より100m以上も長いのです。船底から甲板の構造物のてっぺんまでは60m以上もあります。一般的なビルの高さではなんと20階以上!

VLCCの甲板はパイプなどが見えるだけ。原油は船腹にあるタンクに入れて運んでいます。標準的なVLCCでは17個の貨物油タンクがあり、それぞれに入れる原油の種類や量は荷役責任者の一等航海士が管理しています。

原油は産出国(油田)によって比重や硫黄成分量などが異なり、約300種類の油種が存在しています。油種によっては、製油所での精製に悪影響を及ぼすため、混ぜて運ぶことができません。原油の特性ごとに、別の貨物油タンクに分けて運ぶ必要があります。

また、万が一の事故などで原油が流出すれば、自然環境への負荷は絶大。そのため船腹は二重構造になっていて、貨物油タンクの外側はバラスト水(船体を安定させるため数万トンの海水を重しの代わりにしています)のタンクで覆われています。さらに貨物油タンクと船外間の仕切りとして、船外への原油流出防止の役目を果たしています。

原油の積み荷役(陸上から本船への移送)は、船体中央部のマニフォールド(船陸の接続部)と陸上パイプラインを接続して実施します。陸上から送られてくる原油は、貨物制御室で遠隔表示される液面計にてタンク内の液面高さを監視しながら積み込み、最終的にはアレージホール(液面からタンク天井までの距離〈アレージ〉を測るための開口部)へ測深専用の巻き尺型計測器(UTIゲージ)を接続して、タンク内の液面までの距離を精測して目標値で積み切ります。

原油積み荷役中の VLCC 「TENKI(天喜)」

原油積み荷役中の VLCC 「TENKI(天喜)」

日本に到着すると原油の揚げ荷役(本船から陸上への移送)を実施します。この際、本船の貨物ポンプを使用して陸上に原油を移送しますが、原油を揚げ続けると貨物油タンク内の圧力減少により貨物油タンクがへこみ損傷してしまいます(紙パック飲料にストローを差し込んで飲み続けると、ペコッとパックがへこんでしまう様子から想像できるかと)。

タンクのへこみ損傷を防ぐため、ボイラー*の燃焼ガスを活用したイナートガス(不活性ガス)をタンク内に送り込みます。イナートガスでタンク内を適切な圧力に保っているのです。

*ボイラー:燃料を燃やしてお湯を沸騰させ蒸気を発生させる機器。原油タンカーでは、ボイラーで発生した蒸気を貨物ポンプの駆動用蒸気として利用している。

ボイラーから出た不活性ガスをタンクに送り込むイナートガスシステム

アレージホール(液面からタンク天井までの距離(アレージ)を測るための開口部)とUTIゲージ(測深管に専用の巻き尺型のような計測器)

アレージホール(液面からタンク天井までの距離(アレージ)を測るための開口部)とUTIゲージ(測深管に専用の巻き尺型のような計測器)

巨大タンカーで一度に運べるのは日本の消費量の “半日分”!

日本を出発してマラッカ・シンガポール海峡を通り、サウジアラビアやカタールなどのペルシャ湾岸の産油国で原油を積み込み、日本へ帰って来ます。この往復(ワンラウンド)が、積み込み・荷揚げの期間も含めて50日前後です。

VLCCが積み地に向かうときと(往路)、揚げ地に向かうとき(復路)の姿の違いには驚くかもしれません。往路ではタンクが空なので、喫水(船底から海水面まで)は約11mですが、たっぷりと原油を積むと喫水は約20mに。積載した原油の重さにより、写真のように航行する姿はだいぶ違うのです。

VLCCが1回の航海で運べる原油の量は積載量で前述した通り約30万~32万トン。これは、日本全体で消費される石油の “半日分” に相当する量です。たった1隻でこれほど大量に運べるというのは、VLCC のスケールの大きさを物語っています。

日本では1日1人当たりで平均すると約5.8Lの石油を使っている計算になるといわれます。私たちはそれほどにも石油に依存しているという事実には、きっと誰もが驚くでしょう。VLCCの日々の運航は、いわば私たちの生命線。今のところ、遠い航海を経て運ばれる原油がなければ、私たちの生活は成り立たないのです。

往路(左)と復路(右)では喫水がまるで違います

日本郵船の環境負荷低減への取り組みはVLCCにも!

日本郵船は環境負荷低減の取り組みに取り組んでいます。それはVLCCでも例外ではありません。

VLCCの燃料は重油です。エンジンなどの性能が向上した今でも、日本と中東の往復ではドラム缶にして1万1000本分もの重油が使われます。

日本郵船では、その解決の一助として、2024年5月からVLCCの「TENJUN(天順)」でバイオ燃料の長期試験航行を開始しました。シンガポールで燃料を供給し、約3カ月間の航行で、バイオ燃料を長期間使用した際の安全性や安定調達などの総合的な検証を行いました。

バイオ燃料は、廃食油や生物由来の有機性資源を原料としており、燃焼時の二酸化炭素排出量は実質ゼロとみなされます。重油焚きの船舶エンジンでも使えるため、重油からゼロエミッション燃料へ向かう有力な手段とされています。

現時点では、船内エンジンや燃料供給に関する安全性および運航の安定性について検証を進めた結果、2025年6月末までに当社運航船においてバイオ燃料(B24, B30など)の補給を累計400回以上実施しています。今後は、バイオ燃料の混合比率をさらに高めることで、温室効果ガス排出削減に向けた取り組みを強化していく予定です。

日本郵船ではさらに、造船所、傭船者などとの協働により、国内初となるメタノール二元燃料によるVLCC開発にも取り組んでいます。2028年竣工予定の新造船は、大きな革新となるでしょう。

この船は、これまでの基準よりも約40%も二酸化炭素の排出を抑えられる設計です。今後は、環境にやさしいバイオメタノールや合成メタノールの活用についても検討が進められています。

原油を運ぶという大役を担いながら、地球環境を損なわないように一歩ずつ。大きな船に関わる人々の、一つひとつの小さな思いの集積が新しい未来を創っていくのです。

バイオ燃料の長期試験航行を実施したVLCC「TENJUN(天順)」

バイオ燃料の長期試験航行を実施したVLCC「TENJUN(天順)」

次世代環境対応VLCCのイメージ

次世代環境対応VLCCのイメージ