日本郵船の現役航海士が語る、キッザニア福岡“船舶シミュレーター”の本物度
公開日:2025年09月18日
更新日:2025年10月07日

キッザニア福岡の「船舶トレーニングセンター」は、日本郵船が監修した本格的な体験ができるパビリオン。航海シミュレーターを体験することで、操船の臨場感を楽しみながらチームワークの大切さを学べ、子どもたちに航海士という職業の魅力を見いだしてもらうことを目指しています。気になるのが船舶シミュレーターの本物度!現役航海士の2人に話を聞きました。
竹俣多聞(左) 2018年入社。LNG(液化天然ガス)船、コンテナ船、原油タンカーなどに乗船。現在二等航海士。2023年7月より陸上勤務となり、海務グループ調整チームに所属。子ども向けイベント、小中高生への出前授業などを通じて航海士という職業の魅力を伝えている。航海士としてキッザニア福岡の「船舶トレーニングセンター」パビリオン構築を担当。
色川諒太郎(右) 2018年入社。LPG(液化石油ガス)船、LNG船、コンテナ船、原油タンカーなどに乗船。現在二等航海士。2024年12月より陸上勤務となり、広報グループ報道チームに所属。メディア対応、プレスリリース作成などを行っている。「船舶トレーニングセンター」パビリオン完成後に現地を訪問し、 シミュレーターを自ら体験。
航海士の仕事を実際に体験してもらう心意気
キッザニアは楽しみながら社会の仕組みを学べる“こどもが主役の街”。キッザニア福岡の「船舶トレーニングセンター」では、LNG船の操船を体験できます。船の種類や役割、海上交通ルールや船の操縦を行うブリッジ(船橋)内でのコミュニケーションルールなどを学び、3人1組で船舶シミュレーターを使って操船を行います。
竹俣:航海士の仕事を正しく理解してもらうため、キッザニアさんと協力してパビリオンを作り上げました。体験プログラムは全体で約30分間あります。その内、船舶シミュレーターを扱うのが約15分間。この間、子どもたちを飽きさせることなく、実際の船で起こりうるシナリオをどのように展開するか、キッザニアさんと一緒に検討に検討を重ねてきました。
色川:船舶シミュレーターを初めて見て思ったのが「これは子ども用のおもちゃではないぞ!」です。まず、船のブリッジが細部までしっかり再現されていることに驚かされました。それもそのはず、よく見れば操舵輪やエンジンテレグラフ、羅針盤(コンパス)などは本物の機材。シナリオとは直接関係のない計器類までしっかり装備されていました(笑)。
竹俣:ブリッジの床がどうなっているか写真を見返して調べたり、航海計器のスイッチの型や、点灯するランプの色合いを出来るだけ本物に近づけるよう調整したり、とにかく細部までこだわっています。「なるほどこうなっていたのか」と、あらためて自分自身が気付かされることもありました。本物という点では、子どもたちにも実際に航海士がやり取りしている操舵号令でコミュニケーションしてもらいます。「Port 10!」(ポート・テン):舵を10度左に取る、「Starboard 10!」(スターボード・テン):舵を10度右に取る、「Midship」(ミジップ):舵を中央にする、といった具合です。リハーサルを重ねて、船舶シミュレーターのシナリオに沿ってタイミングよく操舵号令を言ってもらえるようにするにも、細かい調整を重ねました。
キッザニアのスタッフと入念に検討、調整を行ってきた。
現役航海士が船舶シミュレーターを体験してみた
色川:子ども向けということで、ゲームのようにデフォルメされた内容を想像していたのですが、まるで違いました(笑)。実際に船舶シミュレーターを体験して感じたのが、航海士にとっての“あるある”が詰め込まれていたこと。出港シーンから始まって、しばらくすると漁船の一群が前方に現れるのですが、これがよくある光景!漁船はいろいろな方角を向いて操業しているのですが、その内のどれがいつ動き出すか分からない……。航海士として注意しなければいけないポイントです。
竹俣:船舶シミュレーターは関門海峡がステージ。関門海峡のような狭い水道だと、漁船のように小さな船は特に注意すべきポイントです。じつは私自身、この描写にはこだわりました。
色川:終盤では大型船(どんな船がやって来るかは内緒!)とすれ違うシーンもあります。これがまた絶妙にクロス気味(交錯しそうな進路)で(笑)。「こちらが避けないと」とか「相手の船と交信して航路を確認しよう」というコミュニケーションが必要になるシチュエーションです。天候の変化を含めてよくこれだけの“あるある”を一つのシナリオに織り込んだな、と感心しました。
竹俣:実際の船の仕事は、船内コミュニケーションが非常に大切です。「船舶トレーニングセンター」でも、チームワークにフォーカスしているのはリアリティを意識した結果です。やればやるほど楽しく、間違いなく上達すると思いますし、航海士の仕事も魅力的に感じてもらえるはずです。
“航海士あるある”がてんこ盛りでびっくり(色川)
「子どもだましじゃないね」と子どもたちに褒められた!
竹俣:実際に船舶シミュレーターを体験した子どもたちの声を聞けたのですが、最初の感想が「グラフィックがきれい!」。今どきの子どもたちはゲームなどできれいな画面を見慣れていますからね。実際に私たち航海士が訓練用に使っているシミュレーターのグラフィックを使って良かったと思いました。また、できるだけ子どもたちが自分で操船してゴールまでたどり着けるように工夫をしたのですが、子どもたちからは「子どもだましじゃないね!」と褒められました(笑)。
航海士訓練用と同じグラフィックが使われている
現役航海士も唸るほどリアリティのある計器類
着用するユニフォームも忠実にミニチュア化。対象年齢は3~15歳(おすすめ年齢5~15歳)
関門海峡を示した海図もまたプロクオリティ
細部にいたるまでとことんこだわりました(竹俣)
航海士の仕事が憧れの職業になる日は近い!
色川:航海士の仕事の面白さは、やはりコミュニケーションにあると思います。操船は自分一人ではできません。エンジンルームやデッキとのコミュニケーション、実際に船を動かす人たちとのチームワークで安全な航海を作り上げていく、そこが一番の魅力だと思います。3人の仲間が協力して関門海峡を通過して大海原に出たときの達成感を、ぜひ体験してほしいですね。
竹俣:進路や職業にはさまざまな選択肢があります。その中の一つに“船乗り”という職業をぜひ加えてほしいと思います。子どもたちには「船舶トレーニングセンター」で航海士という仕事があることを知ってもらって、進路を考えるタイミングでそのときの感動を思い出してくれたら、とてもうれしいです。
子どもたちにエールを送る現役航海士の二人
(左)パナマ運河通峡中の色川
右)パナマ運河通峡中の竹俣
コンテナ船NYK DAEDALUSにて。竹俣の後任で色川が乗船した際の一枚
キッザニア福岡「船舶トレーニングセンター」