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「日本郵船これくしょん」Vol.08 上五島国家石油備蓄基地 エネルギーの安定供給を支える、海に浮かぶ巨大原油タンク

上五島国家石油備蓄基地 エネルギーの安定供給を支える、海に浮かぶ巨大原油タンク

世界初の洋上タンク方式。法律上の扱いは“船”

上五島国家石油備蓄基地があるのは、長崎県・五島列島の折島と柏島を結ぶ防波堤の東側。静かな海上に、原油を蓄える5基の巨大タンクが並んでいます。

タンクの形状は一般的な船とはまるで違いますし、自力で航行することもできません。しかし船舶安全法(船が安全に航海できるように、構造・設備・検査などに関する基準を定めた法律)では、海上に浮かぶ構造物は船舶とみなされるため、法律上は“危険物ばら積船(貯蔵船)”と呼ばれます。1隻、2隻と数え方も船と同じで、姿を指すときも“船体”と表現されます。

1隻の容量は約88万キロリットル。5隻で約440万キロリットルもの原油を蓄えることができ、日本の原油消費量の約7日分に相当します。

上五島国家石油備蓄基地を運営・管理する上五島石油備蓄株式会社は、1982年に現在の独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)、ENEOS株式会社、日本郵船の出資で設立。現在はENEOS株式会社、日本郵船、長崎県が株主となっています。

さて、そもそも国家石油備蓄基地とはどのような施設なのでしょうか。

日本は石油資源のほとんどを海外に頼っていますが、国際情勢や需給の変動によって、必要量が安定して確保できるとは限りません。そこで1972年、行政の指導のもと民間備蓄がスタートしました。翌年の第1次オイルショックを経て石油備蓄法が制定され、1978年から国家備蓄が本格的に始まりました。現在、日本国内には10カ所の国家石油備蓄基地が整備されています。

石油備蓄基地には、比較的建設コストの安い「地上タンク方式」、漏油リスクが低く大容量に対応する「地中タンク方式」、地震に強く景観への影響が少ない「水封式地下岩盤タンク方式」、そして海洋空間を活用する「洋上タンク方式」の4種類があります。今回紹介する上五島国家石油備蓄基地は「洋上タンク方式」に該当します。10カ所の国家石油備蓄基地を合わせた備蓄量は2025年11月時点で、約4192万キロリットル。国内消費量の約146日分に相当します(民間備蓄95日分、産油国との共同備蓄9日分を含まず)。

ちなみに国家石油備蓄からの放出は、2022年にロシアによるウクライナ侵攻に伴う世界的なエネルギー需給のひっ迫を受け、制度開始以来、初めて5日分相当の原油が放出されました。

長崎県・五島列島(上五島町)にある上五島国家石油備蓄基地

長崎県・五島列島(上五島町)にある上五島国家石油備蓄基地

技術の粋を集めて建設された洋上備蓄基地

現在、洋上タンク方式の石油備蓄基地は2カ所ありますが、その先駆けとして1984年に着工し、1988年に完成したのが上五島国家石油備蓄基地です。国家石油備蓄の恒久基地第5号であり、日本の造船技術と土木技術を結集した、世界初となる洋上の石油備蓄基地として建設されました。洋上にこれほど大規模なフロート施設を造り、長期間にわたって安全に運用するには、自然条件が非常に重要です。

洋上タンク方式の石油備蓄基地の建設に当たっては、1972年から7年間、国を挙げた研究開発が進められ、1978年に4カ所の候補地が選定されました。その中で上五島が採用された理由は次の通りです。
・五島列島の島々が天然の防波堤となる優れた地形。
・周辺水深が約30mと深く、大型タンカーが岸に近づける。
・折島と柏島の間に防波堤を築くことで静穏な海域が確保できる。
・折島の地形を活かし、管理施設・廃水処理施設・シーバースなどの用地造成が可能。
こうした条件がそろい、上五島が世界初の洋上石油備蓄基地の地に選ばれました。

完成した石油備蓄基地は、海域約40ヘクタール、陸域約26ヘクタールというスケール。長さ390m、幅97m、深さ27.6mの巨大な鋼鉄製貯蔵船が5隻並ぶ光景は圧巻で、その面積は野球場が三つ入るほどの大きさです。各貯蔵船は、海底の基礎に設けられた係船ドルフィンにつながれ、周囲は二重の浮防油堤で囲まれています。万一の流出に備えるための二重の安全策です。

産油国から到着したタンカーは折島のシーバースに着桟し、パイプラインを通じて毎時最大1万キロリットルというスピードで原油を送り出します。

2022年に入港した超大型石油タンカー(VLCC)「TAGA(多賀)」

2022年に入港した超大型石油タンカー(VLCC)「TAGA(多賀)」

貯蔵船内部は9ブロックに仕切られ、全てが二重殻構造。隔壁の間には海水を満たし、原油漏れや火災リスクを軽減しています。さらにタンク内には不燃性ガス(イナートガス)を充填し、可燃性ガスが発生しないよう制御しています。

上五島国家石油備蓄基地のイメージ図

上五島国家石油備蓄基地のイメージ図

貯蔵船は9ブロックに分かれた二重殻構造になっている

貯蔵船は9ブロックに分かれた二重殻構造になっている

貯蔵船は9ブロックに分かれた二重殻構造になっている

“船”だからこそ必要な、5年ごとの定期検査

管理体制も万全です。陸上にある中央監視制御室では、貯蔵船の状態や気象・波浪のデータを24時間体制でチェックしています。観光地として知られる五島列島の自然環境と調和させるため、環境面での配慮も徹底されています。原油ガス処理施設では、貯蔵船から発生する揮発性ガスを適切に処理して大気に放出します。油分を含んだ排水は複数の浄化工程を経て、油分の残らないクリーンな水にして海へ返します。基地内の雨水・生活排水も、排水処理設備や生活排水処理槽を通して浄化され、ガードベースンと呼ばれる設備にて安全性が確認されています。

ガードベースン

ガードベースン

排水処理設備

排水処理設備

原油ガス処理設備

原油ガス処理設備

洋上タンク方式ならではの重要な業務が“船”として義務付けられている定期検査です。

貯蔵船は船舶安全法に基づき、5隻それぞれが25年に一度、構造や設備の精密な検査を受けなければなりません。5年ごとに1隻ずつ順番に検査を行うことで、5隻全体の検査が完了します。海上に浮かんだままでは検査ができないため、他の貯蔵船へ原油を移し替えて空にし、約230km離れた三菱重工業株式会社の長崎造船所・香焼工場まで曳航します。貯蔵船1隻の移動には12隻ものタグボートが連携し、監視船も伴走する大仕事です。

検査準備を担うのは、日本郵船グループの株式会社日本海洋科学です。半年以上前から入念な下準備が始まります。関係省庁との調整やタグボートの手配への助言、さらにはドック入り後の不具合確認から修繕作業の指示監督まで、船の専門知識が求められる業務が続きます。

タグボートにより貯蔵船を移送

タグボートにより貯蔵船を移送

タグボートにより貯蔵船を移送

こうした地道で入念な仕事を担っているのが、経験豊富な日本郵船グループの海技者や技術者たちです。彼らが重要な国家戦略である石油備蓄を支える“縁の下の力持ち”として活躍していることを、ちょっとだけでも知っていただけたらうれしいです。

なお、長崎県上五島町には「エネルギー発見館カピィ・プラザ」という施設があり、エネルギー備蓄について楽しく学べます。ぜひ訪ねてみてください。

上五島石油備蓄株式会社 https://www.kamigoto.co.jp/index.html

上五島石油備蓄株式会社
https://www.kamigoto.co.jp/index.html