日本郵船ってどんな会社?船の世界

日本郵船 BVTL Magazine大学! 世界が見える海運ゼミナール 洋上風力発電を支える主要な船舶の役割

日本郵船が運航するCTV「RERA AS」(出所:日本郵船プレスリリース)

NewsPicksプロピッカー
日本郵船株式会社 調査グループ グループ長
林光一郎が教えます!

ここがポイント!
・洋上風力発電では、建設から運営まで専用の特殊船が活躍
・専用機器を搭載し、建設海域を探る海底地盤調査船
・巨大ブレードや基礎部材を運ぶのは高強度甲板を持つモジュール船
・風車組み立ての要となる“脚”を持つSEP船
・人員輸送のCTVや長期滞在型のSOVが安定運用をサポート

着床式洋上風力発電設備の建設と運営を支える多様な特殊船を、調査から保守まで一気通貫で紹介します。

建設から運営まで、特殊船が活躍中

世界各地で再生可能エネルギーの導入拡大が加速する中、洋上風力発電もその重要な一角を担いつつあります。特に欧州の北海や、最近では東シナ海など、広大な大陸棚(海底が浅く広い地域)のある地域で導入が進み、実績を積み重ねています。

狭い国土ゆえに陸上で風車を設置できる適地が限られる日本にとっても、洋上風力発電は大きな可能性を秘めています。足元では人件費や資材価格の世界的な高騰などの影響から、一部プロジェクトの見直しが生じているものの、中長期的には需要が拡大すると見込まれています。洋上風力発電には、建設から運営までの各フェーズにおいて多種多様な特殊船が不可欠です。多くの海運会社が社会的責任と新たな事業機会の両面から、これら特殊船の開発・運航に取り組んでいます。

今回の記事では、洋上風力発電設備のうち、すでに大規模な実用化が始まっている着床式洋上風力発電(海底に固定するタイプ)のプロジェクトを支える船舶について、種類や特徴を分かりやすくご紹介します。

■海底地盤調査船(調査・検討)
風車建設の第一歩は“海底を知ること”
洋上風力発電の風車を設置する前には、海底の地盤が適切かどうかを調査する必要があります。地盤調査の方法として代表的なのが、CPT(Cone Penetration Test:静的貫入試験)とSPT(Standard Penetration Test:標準貫入試験)です。

CPTは、先端に鋭いコーンが付いた棒を地中に押し込み、先端抵抗・周面摩擦・間隙(かんげき)水圧を計測します。主に軟弱地盤の調査に適しており、地盤の性質を詳細に把握できる点が特徴です。

SPTは、まず掘削機械で穴を掘り、その先端にサンプラーを装着したロッドをハンマーで打ち込みます。ハンマーを打ち込む回数によって地盤の固さを推定する仕組みです。

洋上風力発電の場合、これらの調査を海上で行う必要があるため、専用または汎用の海底地盤調査船が活用されます。船上で安定した試験を行うための機材・設備が搭載されており、海象条件(波・風などの海の状態)が変化する現場でも、正確かつ安全に作業を進めることが可能です。

■モジュール船(輸送・物流)
巨大部材を安全に現場へ運ぶ
洋上風力発電設備の建設に欠かせないのが、巨大なブレード(羽根)やナセル(発電機を収める胴体部分)、タワー、基礎部材であるモノパイル・ジャケットなどを現場へ運ぶ船です。

陸上風力発電用のブレードも相当なサイズですが、海上の強く安定した風を利用する洋上風力発電設備では、より大型の風車が採用される傾向があるため、一段と大きくなりがちです。コンテナ船や在来船では運ぶことが困難であり、特殊な構造を持った重量物運搬船が利用されます。

洋上風力発電設備の基礎部材であるジャケットを運ぶ重量物運搬船としては、甲板が広くフラットに作られており、多軸台車(多数の車輪を持ち重量物を運ぶ搬送車)を使用して大きな貨物をRo-Ro(ロールオン・ロールオフ)方式で直接載せられるモジュール船が挙げられます。これらの船によって、製造工場から洋上風力発電設備の建設予定海域に近い港湾、または直接洋上の設置場所まで、洋上風力発電設備を構成する資機材が運ばれます。

ブレードは1枚の長さが80mを超えることもあり、タワーセクションも非常に重量があります。そのため、モジュール船では高い甲板強度や特殊な固定装置が備えられ、安全かつ効率的に大型貨物を輸送できます。

実際の輸送では、ブレードを固定する台座の設計やタワーの立て方・寝かせ方など、事前の計画が運航の成否を左右します。周到な準備がなされた上で、港湾や陸上での取り扱いも含めて最適化が図られるのです。

洋上風力発電設備の基礎部材であるジャケットを運ぶモジュール船 出所:NYKバルク・プロジェクト

洋上風力発電設備の基礎部材であるジャケットを運ぶモジュール船
出所:NYKバルク・プロジェクト株式会社
https://nbpc.co.jp/services/projects-services/module-services

■SEP船・ケーブル敷設船(設置・据え付け)
風車を組み立て、海底にケーブルを敷設
風車の設置で中心的な役割を果たすのが、SEP船(Self-Elevating Platform:自己昇降式作業台船)です。SEP船は、船体に備えられたレグと呼ばれる“脚”を海底に着底させ、船体を海面上に持ち上げて安定した作業プラットホームを作り出します。その動作の仕組みからジャックアップ船(Jack-up Vessel)とも呼ばれます。

SEP船を利用することで、波や風の影響を受けにくい環境を確保できるため、洋上で大型クレーンを用いた風車の組み立てやメンテナンスを、安全かつ効率的に行うことが可能です。

発電した電気を陸上に送るには海底ケーブルの敷設が必要です。海底ケーブルの正確な敷設を担うのがケーブル敷設船です。船内には大量のケーブルが格納され、ケーブルを海底に送り出すための特殊設備や、位置を正確に把握する測位システムが備えられています。

さらに、ROV(遠隔操作無人探査機)を搭載している船もあり、海底の状況確認やケーブルの状態監視を行って、トラブルを未然に防止しています。

ケーブル敷設船イメージ図 出所:日本郵船プレスリリース

ケーブル敷設船イメージ図
出所:日本郵船プレスリリース

長距離海底ケーブル敷設船の概念設計承認を取得
https://www.nyk.com/news/2024/20241204.html

■CTV・SOV(運用・保守)
人員輸送や滞在拠点として、保守管理をサポート
建設が完了した洋上風力発電設備を運用・メンテナンスするには、人員の洋上移動が欠かせません。そこで活躍するのがCTV(Crew Transfer Vessel:人員輸送船)です。

CTVは小型で高速航行が可能な設計を持ち、数十名程度の作業員を一度に運べます。必要に応じて軽微な資材や工具を運べるスペースも備えており、緊急時にも柔軟に対応できます。また、波浪の影響を抑える船体設計により、移動中の乗船員が快適に過ごせる点も大きな特徴です。

大規模な洋上風力発電設備はメンテナンス作業が長期に及ぶこともあり、洋上で宿泊できる施設が求められます。そのニーズに応えるのがSOV(Service Operation Vessel:洋上宿泊設備船)です。SOVにはホテル並みの居住空間が設けられ、数十〜数百人規模のスタッフが長期滞在できます。個室の他、共同スペースとして食堂や娯楽施設などが完備され、ヘリコプターデッキや小型ボートを備える船もあります。SOVは作業員が長期間にわたり快適に働けるよう支える重要な拠点です。

日本郵船が運航するCTV「RERA AS」 出所:日本郵船プレスリリース

日本郵船が運航するCTV「RERA AS」
出所:日本郵船プレスリリース

石狩湾新港洋上風力発電向け作業員輸送船(CTV) 「RERA AS」が日本に到着
https://www.nyk.com/news/2023/20230420_1.html

〈まとめ〉
本記事では、洋上風力発電における調査・検討から建設、運用・保守に至るまで、多岐にわたる船舶の役割をご紹介しました。実際には、ここで挙げた船以外にも、プロジェクトの各工程でさまざまな船が活躍しています。今後、浮体式風車が実用化されると、それをサポートする船も必要になるでしょう。

国土の狭い日本において洋上風力発電は、エネルギーの安定供給を支える新たな選択肢として、さらなる重要性を帯びていくでしょう。その成長を陰で支える船の存在にも、ぜひ注目してみてください。