Digitalizationの取り組み

当社グループの「現場」が直面するさまざまな課題をデジタル技術や収集したデータ分析により解決し、新たな価値を創出するDigitalizationの取り組みを推進しています。
自ら創意工夫して行動を起こす現場の担当者と、当社グループの四つのラボ(株)MTI、(株)日本海洋科学、(株)NYK Business Systems、およびスタートアップ企業のSymphony Creative Solutions Pte. Ltd. がタッグを組み、社外パートナーと新たな価値を共創しています。

船舶パフォーマンスマネジメントシステム「SIMS」

2008年から運用を開始したSIMS(Ship Information Management System)の導入により、毎時の詳細な運航状態や燃費に関するデータを船陸間でタイムリーに共有可能となりました。情報の見える化を図り、本船乗組員と船主、運航担当者、船舶管理会社間の密な情報共有により、最適経済運航・省エネ運航を実現しています。当社グループが運航する199隻(2021年12月末時点)に搭載しています。

【船の現場】船陸間の船舶管理業務の共通プラットフォーム「NiBiKi」

当社グループは、船舶管理業務の共通プラットフォームである「NiBiKi(ニビキ)」システムを開発し、2018年12月に運用を開始しました。船員は安全管理マニュアルに基づき、安全管理に関する事項を船舶管理会社に対して報告する必要があります。さまざまな報告書や申請書を作成し、船舶管理会社に対して電子メールで承認依頼を行い、承認された書類を印刷し船上で保管するという業務フローがあり、多大な業務負荷がかかっていました。また、報告された内容は、各船・管理会社それぞれが管理し、内容そのものを分析するなどの活用が十分になされていませんでした。
こうした課題を踏まえて開発したのが、NiBiKiシステムです。安全管理マニュアルの書式や申請・承認のワークフローを電子システム化し、船員はガイドに従って所定のフォームに入力するだけで、短時間かつ正確な報告・承認依頼を行うことができます。さらに、NiBiKiシステムに蓄積された情報を運航会社・船舶管理会社間で共有し、ビッグデータとして質の高い解析をすることによって、本来求めるべき安全や船員の健康などの活動につなげることが可能となります。今後は、船員の教育や訓練なども組み込み、より包括的なシステムの構築とデータのさらなる活用を計画しています。

船舶管理業務における課題 NiKiBiの導入効果

【運航管理の現場】 Remote Diagnostic Center (RDC)の設立

Remote Diagnostic Center

デジタル船舶管理の一環として、2020年8月、フィリピンのNYK-Fil Maritime E-Training Inc.(船員研修所)内にRDCを設立。SIMS搭載船約200隻を対象に機関プラントのモニタリングを陸上から行います。当社グループ運航船の重大事故撲滅と燃料節減にも寄与していきます。

【建造の現場】環境に優しい船をつくる「高効率なプロペラ設計」

模型プロペラの水槽試験(左)と実船観測(右)

当社は(株)MTIおよび古野電気(株)と共同で、実海域における船舶周囲の水流を計測するセンサーを開発しました。収集した実海域データをジャパン マリンユナイテッド(株)と共有し、分析・活用しています。実船を再現したシミュレーションでさらなる高効率を追求したプロペラの設計により、CO2排出量を約2%削減できました。2020年に竣工した大型原油タンカーでも同様の計測を実施し、今後も他船種に展開していく予定です。2050年に向け、船体抵抗を低減する船舶の設計にもこの実船シミュレーション技術を活用していきます。

国交省プロジェクト「i-Shipping」に参画

海運業界に対するIoTなどを活用した先進安全船舶への期待が高まり、日本においても国土交通省が中心となったプロジェクト(海事産業の 生産性革命 "i-Shipping")で研究開発が進められています。当社および(株)MTIも、「機関プラント事故予防」「衝突防止と自律操船」など4件のプロジェクトに参画し、業界のさまざまなパートナーとともに技術開発を進めています。

海事産業のイノベーションを促進

安全かつ経済的で環境に優しい運航を実現させるためには、ビッグデータの基盤技術への投資や積極的な開発が欠かせません。当社グループは、船舶のIoTデータの安定的で効率的なプラットフォームの開発を進め、造船所や舶用機器メーカー、船級協会ほかさまざまなパートナーとデータを活用し、イノベーションの創出を目指した取り組みを推進しています。

船舶のサイバーリスク管理

IoTを使った有人の自動運航船の開発を進めるなか、船上でのサイバーセキュリティにも重点おいて安全性を確保する必要があります。航海計器類や機関制御機器類などのシステムが被害を受ければ安全航行を毀損する恐れがあるため、これらのシステムをいかに守るかがIoT化を進める鍵を握ると考えます。
船舶のサイバーリスク管理については、2017年6月の国際海事機関(IMO)の第98回海上安全委員会(MSC98)で「海事サイバーリスクマネジメントのガイドライン」が承認されており、2021年1月以降最初の年次検査までに船舶にサイバーセキュリティ対策の仕組みを導入し、船員や陸上要員の対応マニュアルも含めて整備しておく必要があります。ガイドラインを満たさない場合は、認証機関の適合証書を取得できず、国をまたいだ海運事業ができなくなる恐れがあります。

IMOは海事サイバーリスク管理の実施を“強く推奨”としているものの、海運業界では「事実上の義務化」と受け止め、当社グループでも積極的に準備を進めています。

<準備対応の流れ>

  1. 12016年4月~2019年3月 (一財)日本船舶技術研究協会(JSTRA)の海事サイバーセキュリティ検討委員への参加と調査。並びに、SMSマニュアルにおけるサイバーリスクマネジメントの対応準備
  2. 22018年4月~2019年3月 アメリカ船級協会(ABS)の任意認証基準に基づく船舶や船員に対するリスクアセスメントの実施
  3. 32019年4月 船舶にサイバーセキュリティ対策の仕組みを導入するため、SMSマニュアルの内容改訂作業に着手
  4. 42019年12月 SMSマニュアルの改訂作業完了
  5. 52019年12月 当社グループ会社のNYK LNGシップマネージメント社が、(一財)海事協会(Class NK)からサイバーセキュリティマネジメントシステムの任意認証を取得(同協会第一号案件)。
    今後も認証取得を進めると同時に、船員へのトレーニングについても準備を進めています。
  • SMSマニュアル
    安全管理システムマニュアル。事故を予防するために乗組員がとるべき行動の手順等を記載しているマニュアル。

また、ノルウェーの海事IT企業Dualog社と船舶向けサイバーリスク管理システムの開発に関するプロジェクト「Cepa Shield(セパ シールド)」を立ち上げました。当社が運航管理する50隻の船舶にプロトタイプのシステムを搭載し、トライアルを行いながら、今後2年間をかけて製品化を目指します。
さらに既存の陸上GSOC(Global Security Operation Center)と連携し、船舶についてもサイバーセキュリティの監視と早期対応組織の構築にも取り組んでいます。